戦場へ
「あのー、すみません」
「曲者か!」
腰から武器をかけていた男二人が武器を構えた。
「あ、すみません。私、西からやってきた旅人です。お聞きしたいことがあって」
「西から?」
男二人は、顔を合わせる。
「護衛の二人、武器をしまいなさい」
切り株に座っていた男が、男二人に話しかける。
「しかし、見慣れない格好をしていますよ」
「確かに見慣れない服だが、素材は一流の物を使っていると見た。私は、商人であり、異国を渡り歩いているからわかる。服装から見るに異国の貴族で、あっているかの?」
さすが商人だ。服の生地を見て、身分を割り出してきた。完全な嘘だと、ばれるな。それなら、真実の中に嘘を入れて、誤魔化していくのが正解か。
「はい。元ですが、貴族です。先日、後継ぎ争いに負けて、追い出されました」
「なるほど、従者は連れていないのですか?」
「一人います。二人だと、警戒されると思い。その場で待機させました」
「大丈夫です。ぜひ、連れて来てください」
この商人の言う通りに従った方が良いだろう。
「ロイ来てくれ」
「はい」
ロイは、返事をすると俺の隣に来た。
「従者の服も良い生地で仕立てられている。よっぽどの大貴族と見た」
商人は、まじまじと服装を見る。
「聞きたいことがあるんだが」
「そうだったの。あなた達と知り合っておけば、お金を運んできてくれそうだ。協力してあげるの」
お金に対しての欲が素直な商人だな。
「実は、命からがら逃げて来たので、この辺がどこなのか、よくわからないのです」
「ふむ、なるほど」
商人は、そう言うと鞄から一枚の手紙を取り出す。
「これが、この周辺の地図じゃの」
商人が見せてくれたのは、大小様々な国が書かれている地図だった。近江の国、甲斐の国、三河の国など、全く知らない国ばかりだ。しかし、地図の右上にはパンジャ大陸の文字がある。やはり、ここはパンジャ大陸で間違いないのだろう。
「今、私達がいるのは、美濃国と尾張国の境」
商人が指さす国は、周辺の国より比較的大きな二国だった。
「なるほど。西に進むには、美濃国を通った方がいいのか?」
魔王領に行くには、ひたすら西に進むしかない。早く、アルの犯した罪を告発しなければ。
「西を目指しているのかの。申し訳ないが、今は西に進むことは、オススメできないの」
「なぜだ?」
「今、この大陸は戦国時代と呼ばれるほどの動乱の時代。勇者と魔王の戦争で、一時は団結してたがの。しかし、それは共通の敵がいたから。戦争が終われば再び十年前と同じ、いや、それ以上に戦いが激しいの」
「今は、国を渡り歩くことが困難だと?」
「そういうことになるの。私も、美濃国より奥の国に行こうとしましたが、かなわなかったの」
魔力も使えず、魔法も使えないとなると、知り合いすらもいない中、国を渡るのは難しいのか。
「どうしたらいいと思う?」
「尾張国に行くのが良いと思うの」
商人が指さした国は、俺達が行きたい方向と逆の尾張国だった。
「俺は、西に行きたいのだが、なぜ東にある尾張国を?」
「尾張国の大名は、変わり者好きでの。主らと会えば気に入ってくれると考えての」
「待て、大名ってなんだ? 王様じゃないのか?」
大名って言葉、初めて聞いたぞ。
「パンジャ大陸では、王様のことを大名って呼ぶの」
「大名か。俺達は、尾張国の大名に会いに行けばいいんだな?」
「そうだの」
「だが、一国の主が、そう簡単に会ってくれるとは思わない。どうやって、近づけばいいんだ?」
「一つ案があるの」
「案?」
「今、尾張国と美濃国は戦争中。尾張の大名は、戦争を近くで見るのが好きでの。ちょうど今、少し離れたとこで、尾張国と美濃国が戦っている戦場がある」
「そこで、会えるチャンスがあるかもしれないのか」
「そういうことだの。今回は、サービスとして、戦場まで案内するの」
「助かる。商人の名前は、なんていうのだ?」
「私は、坂本次郎というの」
「坂本次郎か。俺は、リンという。そこにいる連れが、ロイだ」
「リンとロイ。よろしくの」
商人は、そう言うと、美濃国と尾張国が戦っている戦場に案内し始めた。
「この先の、丘の上から戦場が見えるはずの」
数十分は、歩いただろうか。坂本次郎について歩いていくと、少し大きめな丘が見えてきた。
「おおおおお!」
遠くから怒声のような声が聞こえた。
「ロイ、この声」
「はい。私達が、半年前まで、よく聞いていた声です」
この声は、兵士が命をかけて戦っている時に出す声だ。戦場が近くなってきているのがわかる。
「ふむ」
「どうした?」
坂本次郎が、突然止まった。
「私が聞いていたより、戦線が広いの。商人である私が近づけるのは、ここまでの。これ以上、近づいたら戦いに巻き込まれる可能性が高いの」
確かに、丘が邪魔で見えないが、声の大きさを聞くに、丘の近くでも、戦いが起きている可能性が高い。
「次郎は、ここまででいい。案内ありがとう」
さすがに、これ以上案内させるのも危険だ。ここまで、案内してくれただけでも、十分だ。
「本当は、丘上まで案内するつもりだったのに、すまぬの」
「ここまででも、大助かりだ」
「またの」
坂本次郎は、そう言うと護衛の二人を連れて来た道を引き返して行った。
「リン様」
「あぁ、ロイ行くぞ」
半年ぶりに見る戦場。心臓の鼓動が高まっているのを感じた。
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