目が覚めたら

「ここは」


 目が覚めたら、森の中だった。隣を見ると、ロイが倒れている。


「ロイ!」


「ん、リン様」


 ロイは、頭を抱えながら起きた。


「ここは?」


「俺もわからん」


「あ、リン様!?」


「どうした?」


「角と羽が無くなっていますよ!」


「は?」


 ゆっくりと、頭に手を伸ばす。確かに、王族の証である角がない。慌てて背中も確認してみる。やはり、羽の感触も無かった。


「な、無い!?」


 もう一度、頭を触ってみる確かにない。もう一回、背中を触る確かにない。頭、背中、頭、背中。何度も繰り返し触ってみるが、生まれてから今まで、ずっと付いていた物がなくなっていた。


「ど、どうなっている?」


「リン様。まるで人間のような容姿になっています」


「ま、まぁ、魔族の特徴が無くなれば、人間と容姿は一緒だからな」


 いや、冷静に分析している暇ではない。この謎を解明しなければ、いけない。


 謎を考えている時、ロイの顔を見てみる。そういえば、俺は角と羽が無くなったが、ロイはどうなっているんだ?


「リン様、どうしましたか?」


「ロイ、犬歯を見せてくれ」


「犬歯? ま、まさか」


 ロイも、俺が行っていることに気づいたみたいだ。


「やはりな」


 ロイの犬歯を見てみると、立派な犬歯が人間の犬歯と同じ大きさになっていた。


「私の誇りである犬歯が……」


 ロイは、膝から崩れ落ちて落ち込んだ。


「この容姿で、王族だと言っても信じてくれなそうだな」


 まず、これをどうやって治すかを考えよう。この容姿の原因となったのは、禁忌の魔法が直接の原因だろう。てことは、あの魔法にはテレポートの効果と、この容姿になる謎の効果があったことになる。魔法なんて、基本一つの効果しか発揮しないぞ。禁忌の魔法、恐ろしすぎる魔法だ。


「リン様」


「どうした?」


「長男のレイ様を頼ったら、いかがでしょうか?」


「レイを?」


「はい、今回の出来事は、アル様の独断と見て間違いないと」


「確かに。レイとアルが組んでいたら、わざわざ郊外の廃棄された屋敷を集合場所にする理由がない。なんなら、魔王城でやられてもおかしくない」


「その通りです。レイ様に力添えもらえれば、この状況を打破できるはず」


「そうだな。同じ後継者争いをしている兄弟だが、背に腹はかえられない。レイがいるところにテレポートするぞ」


「はい!」


 ロイは、俺の近くに寄る。


「私を目的地に運びたまえ。テレポート!」


「リン様?」


「あれ?」


 なぜ、なにも起こらない。ちゃんと呪文も唱えたぞ。いや、まさかな。悪い予感が、頭の中をよぎった。


「わ、私としたことが、呪文を読み間違えたみたいだ」


 お、落ち着け俺。偶然、発動しなかっただけだ。


「リン様、なにやっているんですかー。そうですよね」


 俺が、魔法を不発しているとこ見て、ロイも焦っているようだった。


「私を目的地に運びたまえ。テレポート!」


 やはり、なにも起きない。


「リン様。もしかして」


「いや、そんはずは……テレポート!」


 もう一度、唱えてみる。


「魔法陣すらも展開しないだと?」


「私がやってみます」


「任せた」


「私を目的地に運びたまえ。テレポート!」


 ロイが唱えても、なにも起こらなかった。


「リン様、これってやはり」


「あ、あぁ。考えたくないが、俺達は魔法が使えなくなっている」


 アルは、なんて魔法を俺達にかけやがった。


「私とリン様が、人間の姿になっているのって」


「魔法を使うのに必要な、魔力がないことに関係しているかもしれない」


 アルが『弟よ、二度と会えないと思うと寂しいぞ』って、言っていたのはこういうことだったのか。


「リン様、とりあえず私達が、どこにいるかを把握しましょう」


「そうだな」


 まずは、現在地を知るところからだ。それから、どうやって、魔王領に戻るかを考えよう。


 森の中を進んで行く。


「ロイ気づいたか?」


「はい。リン様も気づきましたか?」


「しばらく歩いているが、魔物の気配すら感じない」


 森の中なら、ゴブリンやスライムなど低位の魔物が好む生息地だ。すでに見かけてもいいぐらい歩いている。なぜ、魔物の姿が見当たらない。


「ここは、魔物が生息していない地域なのでしょう」


「そしたら、俺達、だいぶ遠くに飛ばされたぞ」


 世界には、五つの大陸があり、中央にあるのが魔王領と呼ばれる大陸だ。さらに、そこから東西南北に一つずつ大陸がある。魔王領から近いほど、魔物の数は多い。逆に、魔王領から遠ければ魔物の数が少なくなっていく。


 このことを考えると、俺とロイは、魔王領から、かなり遠くの方に飛ばされたことになる。


「リン様、お待ちを」


「どうした?」


「正面に生き物の気配を感じます」


「人間か」


「わかりません」


「とりあえず、行ってみるぞ」


 慎重に、真っ直ぐ進んで行く。知らない土地の生き物。しかも、魔物が生息してない地域。警戒しておかなければ。


「ふむ。どの国に物資を持っていけば儲かるかの」


 人の声!


「ロイ、聞こえたか?」


「はい。これは人間の声です」


 木の陰から、声が聞こえた方を見る。


 一人の気難しい顔をした男が、切り株に座って考え事している。周囲には、二人の男。腰からは、おそらく武器をかけている。


「あれは」


「ロイ知っているのか?」


「はい。上に束ねた髪、腰にかけている武器。この二つの特徴は、サムライという戦闘民族です」


「サムライ?」


「純粋な戦闘力であれば、どの部族よりも強く、上位の強さをほこる戦闘民族、亡き魔王様も、苦戦した相手だと聞いています」


「思い出したぞ。俺は、直接戦ったことはないが、レイと父さんが、一時期サムライについて、ずっと話していた」


「そうです。サムライがいるってことは、私達がいる大陸はパンジャ大陸です」


 パンジャ大陸。魔王領の東に位置する大陸だ。独立意識が高い部族が多く、常に群雄割拠の時代が続き、各地で争いが起きていると聞く。


「しかも、魔物が生息してない地域。パンジャ大陸であり、魔物が生息していない地域、この二つの条件に当てはまる地域があります」


「どこだ?」


「極東です」


 極東、パンジャ大陸の東に位置する地域だ。魔王領に情報が全くこない未開の地と呼ばれる地域の一つ。


「ロイ」


「リン様、どうしましたか?」


「ある程度、情報が絞れた。残りの情報は現地民に聞くしかない」


「もしかして、あの三人に接触するのですか?」


「あぁ。警戒されるといけないから、俺一人でいく」


「わかりました。私は、いつでも助けにいけるよう待機しています」


 俺は、三人に向かって歩みを始めた。

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