第44話 使徒の力

ここは、、、あの球の中?

何も無い。

何も無いはずなのに何かに締め付けられている様な感覚。

少しだけみんなの気配は感じる。


[君主、大丈夫ですか?]


ルシファー!?


そうか、囚われる直前に確かルシファーが戻ってきてたんだ。

すぐに顕現させた。


『ここは邪神の種の中ですね。』


「どうやらそうらしいな。なんとかここから脱出したいが、どうすればいいんだ、、、」


『その為に私は戻ったのです。クリスさんも出せますか?』


言われるまま、クリスも顕現させる。


『ココ、イヤナカンジ』


「ごめんな、クリス。」


『すみませんね、クリスさん。今から私がこの空間の術式を少しずつ解除していきます。最後の解除だけはかなり複雑なのでそのタイミングでクリスさんの光魔法のお力を借りたいと思います。』


「なるほど、でもなんで解除できるんだ?」


『そもそもその為に君主の中に戻ったんです。昔、この邪神の種を解析して、量産できる「魔法珠」を私が作ったのです。その時の知識がこんなところで役立つとは思わなかったですが。』


「そういうことか。」


『早速始めます。この操作には大量の魔力が必要です。君主は私の肩に手を置いて魔力の補充をお願いします。』


「わかった。始めよう。』


………………


『ゴブリンはこれでほぼ終了だな。』


「アラクネもユアンとシルが倒したわ。」


『ここからがヤバいぜ、ゴブリンナイトとゴブリンエンペラーだ。』


重装備にランスを構えたゴブリンナイト。

一回り大きな身体のゴブリンエンペラー。

隊列を成して四方を囲む。


『サキュバス、インキュバス!幻影魔法で隊列の撹乱!』


『『了解』』


『フラウ、俺の力を少し分けてやる!暴れろ!』


「ありがとうございます!師匠!」

フラウの額に紅いツノが生える。


幻影魔法の発動と共にそれぞれが散会、火花を散らす。


アスモデウスの眼前にはマモンが降り立つ。


『遅かったなぁ、借金取り。』


『すぐに回収では利子が膨らみませんからね。』


『そういう事は貸し付ける時に説明してくれねぇとなぁ。』


『私は強欲なんですよ。さて、回収しましょうか。』


アスモデウスは大鎌、マモンは大鉈。


煙になり間を詰めるアスモデウス。

マモンの懐に入り大鎌を振るう。

重そうな大鉈を軽々と操り防ぐマモン。

刃と刃がぶつかる度に爆発のような衝撃が大気を震わせる。

魔王同士の戦いで燃え盛る島が更に砕けてしまいそうな勢いだ。


魔法と武器を使い、組み合わせながらゴブリンナイトと戦うユアンとエリー。

「ねぇユアン、、フラウってすごいのね。」


ボーガンを連射しながらユアンも答える。

「うん、アスモデウスみたいだ。」


ゴブリンナイトをその重厚な鎧ごと豆腐でも切るかのように倒していくフラウ。

(師匠の力を少し借りただけで師匠の戦い方、身体の使い方、太刀捌きまで理解が深まった。これは凄い。)

フラウ自身も驚くほど自慢の戦斧が軽く振り回せた。

(この感触を己がものに!)


シルは樹海魔法でゴブリンエンペラーの足止めをしている。神樹で絡め取り、ちぎられてはまた絡め取る。少しずつだがゴブリンナイトの数も減り出した。


アスモデウスが肩で息をしている。

一方でマモンにはまだ余裕が伺えた。


『ほんっとにしつこい奴だなぁ。』


『そうでもないですよ。ある意味、返済は終わってますしね。』


『なんだ?返済済み?あー、どうやらボスを閉じ込めただけで返済完了だと??』


『ああ、利子を取りすぎたかな?』


『その利子は、、お前の命で賄うさ!おい、お前ら、準備は整ったか?』


インキュバスがうなづく。

『もちろんです。』


サキュバスとインキュバスが揃って呪文を唱える。すると20体程のゴブリンナイトから魔力が吸い出されアスモデウスに吸収された。


『んぁー、マズイ!ドブみてぇな魂だな。』


『魅惑吸魂か。あいつらからそれが可能とはさすが貴方の眷族だ。』


『当たり前だ。ウチは数より質がモットーなんだ。舐めるなよ、借金取り。』


魔力を吸収したアスモデウスはツノが伸び、新たに肩からもツノが生えた。

『第二ラウンドと行こうぜ。マモン。』


………………


いくつもの魔法陣を展開し動かしたり回したりしながら解除を進めるルシファー。

まるでダイヤルだらけの金庫破りを見ているようだ。

『もう少しです、クリスさん、準備を。』


『ワカッタ!』


『主君、例のあれもご用意お願いします。』


「了解。」

まさかあれがこんなところで役に立つなんて。エルフの議長に感謝だな。


『今です、クリスさん!』


クリスが光魔法を繰り出す。

そこに針の穴ほどの空間の裂け目ができる。


『主君、お願いします。』


用意していた「世界樹の種」に使徒として聖なる魔力を流す。


するととてつもない勢いで神樹がその裂け目へと伸びていった。


………………


エリーたちにもさすがに疲労の色が見えてきた頃、ゴブリンナイトの数も底をついてきた。


フラウの額に生えていたツノが粉々に崩れ落ちた。

「師匠から借りていた力もここまでか。しかし私の力でまだいける!」


シルは樹海魔法を一度解除し、仲間たちに回復魔法をかける。

樹海魔法の解けたゴブリンエンペラーが、怒りの咆哮をあげた。


『グゥオオオオオオオオ!!』


アスモデウスとマモンも互角の戦いが続いていた。


『ご自慢の兵隊も減ってきたじゃねぇか!』


『エンペラー以外は想定内ですよ。』


その時、エンペラーがフラウに向けて手に持つ槍を投げる。フラウの反応が一瞬遅れたのを見たアスモデウス。


次の瞬間フラウの目の前で三又の槍に貫かれたアスモデウスがいた。


『し、師匠?』


『ボヤッとしてんじゃねえよ、弟子のくせに。』


そしてその槍に貫かれたアスモデウスを高速で突っ込んできたマモンが蹴り倒す。


『甘いなぁ、アスモデウス。』


槍のダメージと不意打ちのダメージで吹き飛ばされたアスモデウス。


とどめを刺そうと追うマモン。

ところがその時、マモンの懐から巨大な神樹が驚くべき速さで現れた。


『な、、、なんだこれは!!』



その大樹の先にはジン、ルシファー、クリスのすがたがあった。

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