第43話 邪神の種

「ねぇ、暑くない、、、」


「さすがに暑いな。」


燃え盛る島を前に、まるで赤道直下の如き灼熱の気温に襲われた。


纏う服や鎧に氷魔法の刻印を施し、微量の魔力を流す。


「うぅー、涼しいー!」

贅沢な魔法の使い方だ。


[あれが燃え盛る島ですよ、主君]


ルシファーの言葉に先を見る。


「そろそろ上陸用の小型船を降ろしますね。」

そう言うとヒースさんが船員に指示を出している。


そうか、このサイズが大きいヴァンフォート号では港がない島での接岸は難しいんだな。


[主君、上陸は少し手間取りますね。お出迎えがあります。]


なんだって?目を凝らして島を見る。


島の海沿いに何かが蠢いている。

深い緑色の大群。ゴブリンだ。

なんという数だろう。所々に黒く大きな蜘蛛の化け物ようなものも見える。


「ヒースさん!!ここで停船して!近づいちゃダメだ!ここからはボートで行く!」


ヴァンフォート号を沖合に停船させ、僕以外をボートで向かわせる。


「エリー、僕が先陣で切り開く!後から追って!」


「わかったわ!気をつけて!」


翼を展開し、僕は燃え盛る島に突入する。


島の上空まで来てルシファーとアスモデウスを召喚した。


『うぇー、うじゃうじゃいやがるなぁ。』


『多分これは先遣隊でしょう。マモンは強欲でその上用意周到です。』


「とにかく、みんなが来る前に上陸できるスペースは空けたい。」


『承知しました。』

『行くか。』


「行くぞ!」


上空から真っ直ぐゴブリンの群れに突っ込みルシファーと息を合わせ重力魔法を同時発動する。

大量のゴブリンが一斉に押し潰される。

その中心にアスモデウスが飛び込み大鎌で次々に薙ぎ倒してゆく。

それにしても地から湧いて出てるかのような量だ。後方から巨大な蜘蛛が何体も突入してきた。

『クイーンアラクネです。足先はかなりの鋭さで硬く、厄介なので胴への攻撃が有効でしょう。』

「ありがとうルシファー!僕が行くよ。」


確か、僕の服にもアラクネの糸が使われてたな。という事は糸は相当強力なのだろう。

空中からの攻撃が得策か?


翼に魔力を込め、クイーンアラクネの真上に回り込み、背中へ雷魔法を叩き込む。

よし、このままいける!



………………


遡ること1時間前。

目を覚ましたバルマスの前に片膝をつき頭を下げるマモン。


『で、お前はこの後、彫師を迎え撃つと?』


明らかに一連の報告を聞いてから穏やかではないバルマスにマモンは震え上がっていた。


『はい、準備は万全、必ず仕留めてまいります。』


『私が出向いても、良いのだぞ。その時はお前らは必要なくなるがな。』


『バルマス様のお手を煩わせる訳にはいきません。必ず奴の首、落として参ります。』


『そうか、それならばこれを持って行け。』


バルマスの手には卵程の大きさのなんとも異様な割れ目のような筋が付いた球が握られていた。

フワリと浮いたその球がスーッとマモンの目の前に飛んでくる。


『これは、、まさか。邪神の種?!よろしいのですか?』


『奴を抑えればあとは烏合の衆であろう?』


『ありがたきお心遣い、感謝いたします。』


手の中で蠢くその種を握り、その場を後にするマモン。


『必ず、全てを私のものにするのだ。』


………………


[ボス、あれはなかなかヤバいかもな。]


アスモデウスのテレパシーに周りを見渡す。


後方に新たな大群が湧き上がる。

なんだ、あの集団は?


[あれは、、、!君主、あれはゴブリンナイトの隊列です。しかもその後ろはゴブリンエンペラー!]


ゴブリンナイト?エンペラー?

確かに雑兵ではないオーラを感じる。


それが現れたのはほんの一瞬ゴブリンナイトに気を取られた時だった。


!!


空中に殺意の塊のような黒い渦ができ、中から

カラスを思わせる黒い嘴、黒い翼、細く長い指、ゴツくはないが締まった体躯。

しかし圧倒的な圧力を持つ、何かが現れた。


『ついにお出ましかよ、借金取りめ。』


「お前が、、マモン。」


周りを見渡し、正面の僕を見やる。

『のこのこと、、また私の眷族をやってるな。私はね、奪われるのが大嫌いでね。その逆も然り、奪うのは大好物なのだよ。』


右手を前に突き出し、その手を開く。

手のひらの上の球がモゾモゾと蠢いたと思った瞬間、その玉の割れ目からギョロっとした目が現れた。


とてつもない魔力と共に何本もの黒い触手か放射状に現れ、逃げる間もなく僕は絡め取られた。


これは、、封印?!


『あれは、、邪神の種!!マズイ、君主!!』


その光景を到着したエリーたちが目撃した。

「な、何よあれ?ジン!!」


咄嗟にルシファーがジンの刻印に戻る。その触手が絡め取り終えると邪神の種の中に吸い込まれ、邪神の種は目を閉じた。


『ふ、、ふはははは!!ご馳走様。』

マモンが高らかに笑う。


アスモデウスは戦いながら愚痴る。

『おいおい、ルシファーはなんで戻ったんだよ。俺の比重重いだろ。』


そこへエリー、ユアン、シル、フラウが加わる。

更に、アスモデウスが眷族の二人を召喚。

『おいお前ら、ルシファーはなんか考えがあってボスに戻ったんだと思う。とにかく俺らで今はなんとかするぞ。』


エリーは苦笑い。

「偉そうねぇアスモデウス。まあやるしかないわね!」


フラウも声を出す。

「任せてください、師匠!」


ユアンは自信満々だ。

「任せろ。」


シルがみんなに呼びかける。

『皆さん、負傷したらすぐに言ってください。』



『よし、行くぞ、お前ら!』

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