彫師スキルで刻印魔術無双

第42話 大海への船出

港町ヨース

大陸の最東端にあたるこの町は各沿岸地域への海運や漁業で古くから賑わう所らしい。

この町に到着して最初に起きた事。

それはクリスの覚醒とも言える変化だ。

ヨースに着いて街から少し離れた場所に魔導車を止め、降りてから外の様子を眺めてるときだった。

［ジン、ソト、ダシテ。］

「どうした？クリス。今出してやる。」

召喚刻印からクリスを顕現させる。

「え、ウソ？」

何を召喚したかわからないほど神々しく大きな聖龍がそこに現れた。仲間たちも言葉が出ない様だ。

『ジン、コノ先ニ、ナカマイル。コエ、キコエル。』

眼差しは遠く海の向こうを見ている。

「わかるのか？クリス。」

『ヨンデル。』

「そうか、そうだな。それにしても立派になったな、クリス。」

「びっくりしたわ、本当にクリス？」

『ソウダヨ、エリー。』

大きくなったクリスに飛びつき抱きつくユアン。

「うん、クリスだ。」

流石にフラウは慄いてる。

「本当に聖龍様だ、夢のようだ。。」

「クリス、とりあえずそのままじゃ町に入れないから一旦刻印へ入ろうか？」

『ワカッタ』

まずは港へ向かうことにした。

街並みは日本某所の赤レンガ倉庫を思わせる佇まいが並んでいる。人種も人族、獣人族、ドワーフにエルフと多種多様だ。王都よりも皆イキイキとした感じがする。活気に溢れてるとはこのことだろう。

港に近づくにつれ、とても大きな船体が見えてきた。

まさかとは思うが、あれだろうか？

蒸気船の様な無骨で頑丈そうな船。想像よりデカいぞ。

船の真横に来ると搭乗口らしきところからいかにも船長と思しき髭を蓄えた方が降りてきた。

「刻印の刃の方でしょうか？」

「はい、船長さんですか？」

「船長のヒース　ローグと申します。どうぞ、ヒースとお呼びください。ジン様ですね、我々は王家直属の軍人です。刻印の刃の方々は王族の方と同等に対応する様に言われております。どうぞ、何なりとご用命ください。」

「いや、これからこちらがお世話になるんです。もう少し親密かつ気楽にいきましょう。その方が僕も気が楽です。」

「いいのですか？本当に？、、、いやぁ助かります！実はこの日まで緊張しっぱなしで、、、。まだ積荷がありますのでとりあえずまずは案内してから、、一杯やりましょうか？」

少し顔がほぐれたヒースさん、こっちが本来の顔だろう。

「いいですね。是非。」

………………

船に乗り込み甲板へ出る。

いくつもの砲門が並び、これが戦艦だと再認識した。

「どうですか、ヴァンフォート号の感想は？」

「搭乗すると更に大きく感じますね。それに隅々まで清潔で美しい。」

「大変だったんですよ、総動員で綺麗にしましたよ。なんせ王家の紋章を下賜されてるって聞いてましたから。」

「なんだかすみません。こんな奴らで。」

「いえいえ、本当はどんな方が来るのかおどおどしてたんですよ。高ランク冒険者で王家のお墨付き、全員怯えてましたよ。でもこんなに楽しそうな方々で我々も士気が上がります！」

「そういえばヒースさんはソドム群島やその周りの海流に詳しいと聞いてますがどうしてなんですか？」

「お恥ずかしいですが、私は経歴が特殊でして、、、昔はガリンペイロだったんですよ。」

「ガリンペイロ？」

「まあ、俗に言う「不法採掘者」ですね。結局は軍に捕まったんですがその知識を買われて海軍へ採用されたということです。あの辺の島々は、私が若い頃はよくお宝が出たんですよ、だから何度となく渡航してました。」

「なるほど詳しいわけですね。」

その時ミニルシファーが出てきた。

「うわ、これはなんですか？」

「あー、私の召喚獣みたいなものです。」

『ルシファーと申します。行き先の相談がしたいのでお時間あればよろしくお願いします。』

「確かに行き先は彼が知っているのでお願いします。」

「わかりました、こちらこそお願いします。」

船の内部に入ると、自分たちの部屋が用意されているとのことで案内された。

部屋はまるで豪華客船の1等室の様な贅沢なものだった。　

「これはすごいなー。落ち着かないぞこれ。」

あ、でもこの広さならクリスを出しても大丈夫かな。

………………

翌日、準備が整ったとのことで出航となった。

「うわー、ねぇ、ジン！動き出したわよ。」

船首に陣取りはしゃぐエリー。

神がかってる可愛さだ。

僕、エリー、ユアン、フラウ。

クリス、アスモデウス、ルシファー、シルたちも全員揃っての出航だ。

悪魔や聖龍、世界樹の精霊。

ヒースさんや船員たちは少し引いてたけど。

しっかりと説明して理解は得られた。はずだ。

………………

マモンが報告を受ける。

『ほう、奴らからこちら側に来るのか。これはチャンスなのだろうな。最終準備も整ったことだ。徹底的に仕留めようじゃないか。』

………………

ここから3日ほどで第一の目的地、燃え盛る島に到着するとの知らせを受けた。

今の所、魔物の襲撃もない。　

波も静かで日差しも心地よい。

しかし3日後、この日が嵐の前の静けさだったと知ることになる。