第38話 静かな怒り

ルシファーの従魔、白梟が監視していた王都を見下ろす丘の上に着いた。


「あれが王都。」


【主君、失礼ながらお声がけいたします。少し落ち着かれたようですね。安心しました。】


[あぁ、申し訳なかったよ、ルシファー。]


アスモデウスが割って入る。

【俺は嫌いじゃなかったけどな、怒りに震えるボスも。】


[もう大丈夫だ。冷静に行こう。アスモデウス、インキュバスとサキュバスはどうだ。]


先行して2人を潜り込ませていたので、状況を聞く。

【アイツらも偽装中は戦えないから状況報告だけだが、どうやら街の雰囲気が淀んでいるらしいな。魔族が相当数潜り込んでるらしい。】


[そんなにか?王都はもう機能していないのかもしれないな。]


「ユアン、王都は魔族だらけらしい。ユアンはこの丘から魔導砲を展開して待機していてくれないか?王都へは俺が潜入する、合図を送るまでは外部からの監視と援護を。何かあれば遠慮なくぶっ放してくれ。」


「わかった。任せろ。」


[ルシファー、アスモデウス、シル、すぐに出れる準備はしておいてくれ。]


【承知致しました】

【おうよ。】

[はい。]


「クリス、行くぞ。」


「キュ。」


一般人に見られる可能性もある。戦闘になった場合でも顔は隠しておこう。コートのフードを被り、顔には黒い布を巻く。


『幻影魔法』


姿を消し、中央門へ向かった。


………………


鏡の前で自分を見つめるリヴァイアサン。

しかし鏡に映るのは白目の部分だけ漆黒に染まった青い瞳のエリー ヴィンセントだ。


『なかなか良いじゃない。相性がいいわ。もともとこの子の中にあった嫉妬心もとても味わい深い。さて、あの兄さんもそろそろお出ましかしら。楽しみだわ。マモンには殺すなって言われてるけど、その時はその時よね。』


………………


幻影魔法は余程の高位な悪魔以外には見破ることはできないようで、すんなりと王都へ侵入できた。


確かに一見普通の街並みだが何かがおかしい。

それは王城に近づくほどに強く感じた。

ヴァンツァール城を目の前に、城の城門に近づいた時に明らかに空気感が変わった。

【何かの結界内に入りましたね。】


[そうだな。]


【ボス、来るぜ。】


ソイツは突然現れた。エリーでありエリーではないモノ。


頭の中の何かがプツリと切れた様な感じ。

自分でも感知できない程のスピードで樹海魔法を発動していた。


そのエリーではないモノを大樹の牢が包む。その瞬間僕の視界の隅に褐色の肌が映る。咄嗟にアスモデウスを展開。

『イヤッハー!!』

アスモデウスも大鎌を手にフラウの戦斧を受ける。

ギャリギャリギャリィ!!!

と金属の拮抗し合う音が響く。

そして逆サイドからは醜い悪魔の斬撃が襲う。

こちらにはルシファーを当てた。

斬撃を素手で払うルシファー。


醜い悪魔はニヤリと語る。

『おやおやおや、これはこれはお頭殿、久しいですなあ。』


『相変わらず見るに耐えますね、ベルフェゴール。』


『よもやこんな虫ケラの下に着いたとは堕ちたモノですな、ルシファー殿。天からも堕ち、今度は虫ケラの下にまで堕ちるとは。」


『貴方はもう堕ちようがありませんからね。これならどうですか?』


【グラビティ】


とてつもない重力がベルフェゴールを襲う。


ゴゴゴゴゴゴッッ


『グゥ、、、さすがはお頭。』


ベルフェゴールも押し潰されながら何かの詠唱を続けていた。


ルシファーが片膝をつく。

『脱力魔法とは芸がないですね、、これならどうですか。『メテオ』』


ベルフェゴールの上空から無数の隕石が降る。


一方アスモデウスとフラウは高速移動と斬撃のぶつかり合いで金属音が鳴り響く。


その目の前で樹海牢が弾け飛んだ。


僕は自分の後方に骸骨兵を繰り出し、民間人を追い払う。夜中の王都は蜘蛛の子を散らす勢いで避難が始まった。


リヴァイアサンがとてつもない魔力で氷の剣を作り出す。エリーの魔力が混ざった鋭利な剣が斬撃を繰り出した。

硬化魔法をかけた皮膚をも切り裂いてくる。

なかなかヤバい状況だ。


戦闘中のアスモデウスが心の中に話しかけてきた。

【ボス、俺の力を少し貸してやるよ。】


[!!]


その時体中の血液が激しく流れる感覚と共に額から赤いツノが生えてきた。


「グゥ!!」

痛みと共にとてつもない力が湧き起こる。


リヴァイアサンに目を向け、高速移動で間を詰める。レイピアを展開し炎の刃を振る。

氷の剣で受けるリヴァイアサン。

『あら、ツノまで生えて近くで見ても良い男じゃないか。コイツが惚れるわけだねぇ。』


「黙れ。エリーを返してもらう。」


『そういう台詞、痺れるわね。』


「喰らえ、エンチャントグラビティ!」


レイピアに重さを付随した。


『な、なにぃ!!』


「今だ!クリス!」


フードに隠れていたクリスが光魔法をリヴァイアサンへ近距離放射した。


『ぐ、グワァァ!!』


エリーの身体から鱗のついたスライム状のリヴァイアサンが剥がれ落ちる。


エリーを抱き上げ後方へ飛ぶ。


「シル、頼んだ。」

『はい、任せてください。』


ユグドラシルの結界内で処置を受けるエリー。


『おのれ、せっかく同化したものを、、、』

怒りに震えるリヴァイアサン。


悪魔にクリスの光魔法が有効なのはアスモデウスで実証済みだが賭けだった。


許さない。


これで全力を出せる。

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