第36話 伝説の彫師セイル

荒地を抜けると少しづつ緑が増え、その合間に大きな岩が顔を出して来た。

ユアンが地図を見ながら魔導車を走らせる。

「この先、渓谷のはず。」


「そろそろ着くのか?」


「あれだ。」


ユアンの指差す方を見ると大きな谷に石の橋が掛かり、その対岸の下には壁面に無数の穴が空いている。

急斜面に幾つもの段々畑のようなものも見えて来た。

それぞれの穴から煙突のような物が突き出ていて煙や蒸気が吹き出していた。本当に崖に町が造られている。


「凄いな、かなりの人がいそうだ。」


「下の川から水も汲み上げているのね。」

大きな歯車を組み合わせ、動力を使って渓谷の川から大量の水を汲み上げている。

良く見たら凄く工業的な街だ。


橋を渡り、魔導車を降りる。

崖を降りていく階段の前に詰め所がある。


「もしかして、刻印の刃の方々ですか?お待ちいたしておりました。」


階段を降りていくと街の造りがようやくわかってきた。無数に空いた横穴は奥にかなり深く掘られており、中でそれぞれの穴が繋がっている。広いところは先が見えない程だ。まるで大型商業施設のような場所もある。

これは慣れないと迷ってしまいそうだ。


「ようこそ、ガイアーノへ。待ってたぞ。」

すぐにわかる。この人はレンチさんだ。バールさんにそっくりだし。


「レンチさんですよね。お初にお目にかかります。ジンです。こっちがエリー、そしてユアンです。」


「おぉ、この子がユアン?兄貴は元気にしてるか?」


ユアンが前に出てまじまじとレンチさんを見る。

「似てる。爺じは元気すぎるくらいだ。」


「そうかそうか。まあ、まずはゆっくりするさ。」


「ありがとうございます。」


その日はドワーフの名物料理を頂き、宿も用意されていた。


翌日、レンチさんの工房へお邪魔した。

エリーが自分の剣を見てもらっている。


「なかなかいい剣だがまだまだ粗いな。二日ほど貰えれば打ち直す事もできるがどうする?」


「本当ですか!お願いしてもよろしいんですか?」


「任せとけ。本気で仕上げてやる。」


「お願いします!」


目をキラキラさせてる。エリー嬉しそうだなぁ。ユアンも朝から張り切ってたらしく、街を散策しながら材料確保に行ったらしい。

あ、僕もレンチさんに聞きたいことがあった。


「レンチさん、ゲンノウさんにも会いたいのですが、どうすればいいんでしょうか?」


「ゲンノウか、アイツは今日も工房に篭ってると思うがな。行けば会えるはずだよ。」


ゲンノウさんの工房の場所を聞いて別行動となった。

が、コレはどこだ。街が複雑過ぎるだろ。


それにしてもガイアーノは凄い。街の造りもよく見ればマンションのようになっていたり、商業施設になっていたり、斜面を使って畑があったり。所々にかなり機械化されてもいる。文明で言えばこの世界に来てから1番だと思う。


いろんな人に聞きながらやっとゲンノウさんの工房にたどり着いた。


「あのー、すみませーん、ゲンノウさんいらっしゃいますかー?」


奥からカンッカンッという金属を叩くような音が聞こえる。

「すーみーまーせーん!ゲンノウさーーん!!」


「うるせぇな、誰だ?!」


ガチャっと奥のドアが開き小柄だが逞しいドワーフが金槌片手に現れた。


「誰だ、オメエは?ん、、お、話に聞いてた彫師か!?」


「あ、はい。ジン グレゴールと申します。」


「堅苦しいのはいい!コッチに来い、コレを見てくれ。」


「あ、、はい?」


奥の工房へ引き込まれて、大量の資料を見せられた。魔法陣、化学式のようなもの、難しそうな論文のようなもの、グラフ、計算式。

目眩がしそうだ。


「どう思う?どうすれば金属と魔法を安定して合成できるのだろうか?例えば火焔石。あれは自然界の魔力と大地の圧力、そして長い時間が石を構成している分子と魔力を強力な結合へと導いているがその火焔石ですら採掘から数十年でただの石にしてしまうのだよ。さらには………」


「ちょ、ちょっと待ってください!、、、難し過ぎますよ。」


「お、おぅ、すまん。だが、彫師についても調べたんだ。彫師は効果を付随させるために魔力を込めた刻印を彫り込む。その刻印は永続的に効果を付随できるがそこには魔力を流す必要がある。だが考え方によってはその刻印を分子レベルで施すことができたらどうだ。その分子を他の金属に練り込むことができたら?凄いとは思わないか?」


「確かに。量産も夢ではないですね。」


その後もかなりの討論をしていた。気がつけばもう夕方になっているほどに。


「うわ、もうこんな時間だ。そもそも僕は防具のお願いに来たのに。」


「ん?防具?お前には必要ないぞ。」


「え、どういうことですか?」


「ちょっと待てよ、、コレを見ろ。」

ゲンノウさんが一枚の紙を書類の中から引っ張り出した。


刻印だ。


「コレは??」


「さっきも話した通り、彫師について俺も勉強したんだ。そして、伝説の彫師セイルに行き着いた。」


「彫師セイル?」


「あぁ、なんでも300年前にある街の危機を救った祝福持ちらしい。」


「!!!それって『バルマス』を倒したって言う方では?」


「おぅ、よく知ってるじゃねぇか。そうだ、そいつが彫師セイルだ。そいつは研究の末にこの刻印を開発したらしい。そもそもお前の話を聞いてから俺はお前にコレを渡したかったんだよ。」


「これは一体、、、」


「硬化の刻印らしい。これを身体に彫り込めばいつでも鎧のような身体にできるってもんさ。」


硬化の刻印?!もしかしてそれは最強じゃないのか?

[[天啓さん、この刻印の取込みできますか?]]


[可能です。取込みますか?]


[[お願いします。]]


[「硬化の刻印」の取込みに成功しました。分析しています。分析終了しました。「硬化」魔力を流すことで一時的にオリハルコン相当の高度まで硬化可能です。制約としては彫師本人のみ使用可能となります。また彫師により作成された刻印の登録により「刻印作成」のスキルを獲得しました。]


「なるほど。どうやら彫師本人のみの使用という制約がかけられてはいます。しかしこれは凄いですよ。」


「そんな事もわかるのか?凄いな。しかし本人のみかぁ。防具に転用は難しいな。」


「いえ、これで「刻印作成」というスキルを獲得したんで、またゲンノウさんの役に立つ刻印も開発できるかもしれません。」


「そうなのか?そりゃありがたい!」

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