第25話 龍との約束

「これって、もしかして、、、」


「うん、巻き上げ式のリフトみたいな物。魔力で巻き上げる。」


「凄いじゃないか!さすが魔械師!」


「任せろ、言った。」


装備を整え、魔導車をしまう。

各々リフトボーガンを構える。


「まずは観察、相手を見極める。」


「了解」

「わかった」


「じゃ、行くぞ!」


世界樹の根元から大ぶりな枝に向けてかぎ針状の矢を放つ。

枝に届いたかぎ針はクルクルっと絡みつき固定された。ボーガンへ魔力を注ぎ込む。

ウィーーーンというモーター音を鳴らしながら身体が引き上げられて行く。

スピードは魔力調整で変化するようだ。


枝に到着すると世界樹の大きさを実感した。

まるで樹海のような緑の濃い薄暗さ。

数えきれない世界樹の葉。

これでやっと5分の1ほどだろうか?

「このまま上を目指そう。」


そう言って次の枝へとボーガンを放った。


何度か繰り返したのち、明らかな瘴気を纏う影が確認できた。邪龍だ。こんなに圧力のある生き物がいるのか。


『グルル?』


異変に気付いたのだろう。辺りを見渡す龍。

しかしよく見た感じではボロボロで弱っているようにも見える。

(手負なのか?)


『ソコニオルノカ?ニンゲンヨ。』


「な、喋った?!」


『ワレニ、敵対ノ意思ハナイ。』


(どういう事だ?敵じゃないのか?あの瘴気は?)

葉の影から見ていた自分に向けて発せられた言葉に姿を見せる僕たち。


「敵ではないのか?」


『ワレハ、敵デハナイ。魔ノモノニ瘴気ノ核ヲ植エ付ケラレテシマッタノダ。ダガ、卵ガ気ニカカリ、ココニトドマッテイル。』


「見たところかなりの怪我をしているようだが大丈夫なのか?」


『モウナガクハナイダロウ。我ハ、コノママ龍ノ墓マデユク。トツゼンデワルイガコノ卵ヲタノマレテハクレナイダロウカ?モウスグ孵ルハズ。』


「邪龍の卵を?!」


『コノ姿デハ信ジテモラエヌダロウガ、ワレハ聖龍クリスタ、魔ノ核ノセイデコノヨウナ姿ニナリハテタ。」


「聖龍なのか?じゃあ、この卵は。。」


『モウ身体ガモタナイ。ココノ瘴気はワレガ最後ノチカラデトリノゾク。』


「ひとつだけ教えてくれ!バルマスという名前に覚えはあるか?」


『コノ呪イの根元ガ「バルマス」ソノモノナノダ。ワガ敵デモアル。ヤツヲ追ッテイルノダナ。ワレノ目ニ狂イハナカッタ。ヤツヲタオシテクレ。』


「そうか。とにかくわかった。この子は任せろ。」


『アリガタイ。』


そういうと、クリスタはその場の瘴気をキレイに吸い取り飛び去った。


「さて、この卵。どうにか下まで運ばなきゃ。」


「割るわけにはいかないわよ、聖龍の卵なんだから。」


「エリー、緊張するからやめてくれ。。」

 

「これ使え。」とユアンが網状の袋のような物をバッグから出してくれた。


「なんでも持ってるなあ。ありがとうユアン。」


万全装備で挑んだものの話し合いで解決できたなんて少し恥ずかしいな。ましてや卵まで預かってしまった。

それにしても、またバルマスが関わっていたなんて。悪い予感は当たってたんだな。


………………



「おぉ、降りてきなすったようじゃ。」


下に着く頃にはエルフの里の人たちが大勢で出迎えてくれていて、戦ってもいない僕たちはなんともいえない気持ちだった。



「まずはこちらで休んでくだされ。」


またしても神樹議会の中へと招かれてしまった。


「あの邪龍が逃げていく様を見ておりました。ありがとうございます。」

と深々と頭を下げ手を合わす議長。


どうやら誤解があるようなので、僕らは包み隠さず全ての顛末を話した。



「なんと、、アレは聖龍クリスタ様だったと、、、。そしてその卵がクリスタ様より賜った物だと。。だから世界樹へと巣をお造りになられていたのか。」


「そして聖龍クリスタは瘴気を全て背負い、龍の墓と呼ばれる場所へ向かいました。」


「なんと、聖龍様はこの里を、世界樹をも守ってくださったのですな。そしてなにより「刻印の刃」の方々にも感謝申し上げます。」


「いえ、僕たちは何も、、、。」


「聖龍様はあなた方に子を託された。それがあなた方の功績を示しております。そして世界樹も世代交代の儀式を行える準備が整いました。此度の問題、お救い頂きありがとうございます。」


「そう言っていただけるとこちらも救われます。聖龍クリスタとの約束はしっかりと果たすつもりです。」


その晩は里の人たちに招かれた宴を楽しんだ。

そして宴の後半に差し掛かった頃、議長からある木札をもらった。

「え、これって。」


「はい、ジン様は『彫師』であると。その昔、ジン様と同じ『彫師』を名乗る方から教えていただいた文様でございます。」


「彫師!その人は今どこに?」


「ベック様は、、もう生きてはおられますまい。300年ほど前の話でございます。先程バルマスという名を聞き、この木札を思い出しました。」


「バルマス!?なぜそれでそのことを?」


「300年前、そのバルマスを倒したのがベック様なのです。そしてこの木札の文様こそベック様が得意としていた『樹海魔法』の刻印です。」

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