第24話 世代交代

森の中をユアンの運転でゆっくりと進む。

道の先に少し開けた場所がある。小屋のようなものも確認できた。

その前で門兵のような影が大きく止まれのポーズをしている。

「ユアン、止まって。」


エルフだ。関所のようなものだろう。


「すみません、北のギルドから来たものです。」


「「刻印の刃」の方々ですか?」


「はい、そうです。」と身分証を提示する。


「お待ちいたしておりました。ご説明の為、ハイエルフの方々が神樹議会に寄ってほしいと申しております。」


「承知しました。」


思っていたよりも丁寧だ。親書のおかげだろう。


魔導車を一旦しまい、エルフの里に入る。

当たり前だがエルフだらけだ。

広場で遊んでいる子どもたちもきっと僕より年上だろう。


中央に向かうと大樹の根元に張り付くように石組みの建物が見える。多分あれが「神樹議会」だ。

近づいていくと10人ほどの見た目はかなり高齢なエルフたちが入り口の階段前に待ち構えていた。


「遠いところ御足労頂き申し訳ございませんのう。」


「いえ、お出迎えありがとうございます。」


真ん中にいたスター◯ォーズのマスターのような小柄でしわくちゃなエルフが中へ促す。

ハイエルフの議長、エストクスさんだという。

「まずは中で神樹茶でもどうぞ。」


「お言葉に甘えます。」


中はまるで新築の家のような木の香りがした。

通路の先にエントランスのような場所があり、

壁際には1メートルほどの植木鉢のようなものが50個は並んでいる。


「これは世界樹の種が植えてあります。芽を出すのは現役の世界樹が枯れ始めるときに一粒だけです。」


「枯れ始めると芽を出す?」


「我々が、今回の件に気づいたのはその中の一つが芽吹いたからなのです。世代交代が必要な時が来ました。」


なるほど。どういう仕組みかはわからないけど、新たに芽吹くのは世界樹の異常を知らせるセンサーの役割もあるんだな。


円卓の会議室のような場所に案内され、「神樹茶」なるものが目の前に出された。

勧められて一口飲む。

あ、高級な緑茶をさらに研ぎ澄ませたような味と香りだ。


「この神樹茶には毒消しや、回復の効果もあります。お口に合いましたかの。」


「とても美味しいです。」


エストクス議長の横に鉢植えの世界樹の子株が置いてある。子株とはいえ家庭用のクリスマスツリーほどはあるが。


「世界樹の根元には聖域と呼ばれる空洞がありましての、その中心にこの苗を植えます。通常ならばもうそろそろ植えるのですが、この上に巣食う邪龍がいるままでは失敗の可能性があるのです。植え替え後には今の世界樹のマナが子株へと流れ込み一晩で世界樹のサイズにまで成長するのです。」


「一晩で?!っていうか「マナ」とは?」


「マナとはあなた方のいう魔力の中の一つですが、大きな違いは聖なる力が大半を占めるということです。」


「なるほど、ではそのマナの力で子株が大きくなると。」


「左様です。しかし今のままでは邪龍の魔力をも流れ込むことになる。きっと子株は枯れ、この世界から世界樹が消滅してしまうでしょう。」


世界樹の消滅とは穏やかではない。


「先程お飲み頂いた神樹茶は世界樹の葉を煎じております。その回復効果のようにマナに溢れておるのです。世界樹自体もそんなマナを邪龍に吸われては次世代に残すための力が減少してしまう。そのために今回の依頼をしたのです。」


「しかしなぜ邪龍が聖なる力を欲しがっていたのでしょう?」


「今回のようなことはエルフの長い歴史の中でも初めてのことなのでわかりかねるのです。」


「そうですか。とにかくその邪龍の元へ向かってみます。そういえば、失礼な聞き方かもしれませんが、エルフの里の戦士たちはいないのですか?」


「それが申し訳ないのじゃが、エルフの里の古いしきたりで龍族への手出しは禁忌なのですじゃ。たとえそれが邪龍だとしても。」


「そんなしきたりがあったのですね。わかりました。」


「見ての通り、習わしやしきたりを重んじる里でのう。申し訳ない。」


…………………


長い年月を生きるエルフ族にとって習わしやしきたりは大事なことなのだろう。

なんとかしてあげたい。


「しかしどうやって邪龍の巣まで行けばいいんだ?」


頭を抱える僕にユアンが胸を張る。

「ジン、ユアンに任せろ!魔導車、出せ。」


「何か案があるのか?!」


「任せろ!」


すぐその場に魔導車を出した。

後部の荷物をガチャガチャと漁り始めるユアン。


「あった。コレだ。」


出してきたのは先端にかぎ針がついたハンドガンタイプのボーガンだ。よく見ると釣りで使うような両軸リールのような物が付いている。


「コレで、一瞬だ。」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る