第20話 アントライオン
魔導車の後部跳ね上げ式のドア、俗に言うハッチバックを開け、そのハッチバックから天幕を降ろす。簡易的なテントの完成だ。焚き火を囲み夕食の準備をする。簡単なスープと硬めの黒パンだがホッと一息つく。
街を出る時にサーバスさんに聞いたのは砂漠には大型モンスターが多いということ。それもあって砂漠に入るまえのここを夜営地にしたのだ。
食事も終わりどうしても気になっていたことをエリーに聞いた。
「聞き辛いんだけど、、バールさんはなぜアンドレ商会に?」
「あぁ、その話ね。実はウチもアンドレ商会ほどでは無いけど商売をしていたの。先代からの付き合いで家族のような存在だったわ。バール爺は本当に優れた「魔械師」で動力システムから変速機まで今までの魔導車を超えるものをたくさん開発したの。
この魔導車もそうだけどバール爺のシステムの魔力ロス率は非常に少なくて、省魔力設計なのよ。」
「確かにすごい技術だ。」
「でもそのシステムには純度の高い魔鉱物が必要で、その精製炉がアンドレ商会にしかなかったのよ。私の父はなんとしてでもその精製炉を手に入れようと奔走しお金も工面したわ。でもその矢先に父は病に伏してしまって。バール爺にアンドレ商会への移籍を提案したのは他でも無い、父なの。」
「そうだったのか。お父さんもバールさんの技術を後世に残したかったんだろうな。お父さんも素晴らしい人だよ。」
「そうね。誇りに思うわ。」
不意にユアンが口を開く。
「爺じ、いつも気にしてた。ヴィンセントのおうちもエリーのことも。」
焚き火がパチパチと音を立てる夜に、エリーの目が少し潤んだような気がした。
そして僕の中に一つ目標ができた。
「よし、約束する!いつかまたバールさんが思うように働ける場所を作ろう!」
「えぇ、それは最高ね!」
「ユアンも働く!」
ささやかな談義が3人のベクトルを同じ方向にしたような気がした。
「よし、それじゃ見張を立てて交代で寝よう。まずは2人とも寝ていいよ。」
「ありがとう、そうするわ。」
「ジン、頼んだ!」
そう言って2人は魔導車の後部へ。
そういえば見張り中に天啓さんに聞いておかなきゃ。
[[砂漠に大型のモンスターがいるって聞いたんだけど特徴はわかる?]]
[はい、「アントライオン」です。すり鉢状の巣を持ち、巣の中心に獲物を落とし捕食します。地面の振動を感じ取り、砂中を移動して襲ってくることもあります。頭部は硬質なので腹部への攻撃が有効です。
その他には中型のサンドワーム、小型のキラーアントなどが確認されています。]
すり鉢状?あれか?アリジゴク的なやつか。
多分見た目、苦手なヤツだなぁ。
まあ、その餌になる蟻もいるよね。
…………………
何度か交代しながら朝を迎えた。
「うぅ、寒い。。」
もうこの辺は砂漠気候らしい。夜に急激に冷え込み、朝はかなり寒い。炎魔法で薪に火をつけ、水魔法で出した純水を鍋に入れ、お湯を沸かした。アウトドアは比較的に好きだったが朝の火おこしって結構めんどくさいんだよなぁ。でも魔法なら一瞬、とても便利だ。
買い出しの時に見つけた固形の黒い角砂糖のようなモノを取り出す。
そう、コレはコーヒーにほど近いのだ。
お湯を入れたカップに一粒入れて溶かすだけ。
目が覚めるなぁ。
「おはよー。。。」
エリーもユアンも起きてきた。
「飲む?」
「頂くわ、ありがとう。」
出発の前に天啓さんに教えてもらった情報を共有した。
「ジンはなんでそんなに詳しいの?」
と聞かれ、普通に「天啓さんに……」と説明したが、
「は?なにそれ?教会の祭祀長でもそんなことできないわよ?!」
と驚かれた。祝福の契だけなのだろうか?
まあ、万能ではないよ、と濁しておこう。
日が登り始めたのを機に砂漠地帯に突入した。
少し走り始めてチラホラとサンドワームが見てとれた。だんだんとサンドワームが集まり始め10メートル以内に出現するサンドワームは魔導車目掛けて飛び掛かってくる。
「ユアン、エリー!頼んだ!」
運転席から2人に声をかける。
ルーフからユアンが乗り出して、魔械クロスボウとそこに刻まれた刻印に魔力を注ぎ撃ち抜いてゆく。
「ジン!風魔法凄いぞ!矢が倍以上速い!」
逆サイドはエリーが炎魔法の弾幕で一掃する。
「炎魔法が無詠唱でこの威力。凄いわね。」
不意にエリーが叫んだ。
「左前方!キラーアントの大群よ!!」
目を向けると凄まじい数の蟻たちが砂埃をあげて向かってくる。
「一旦中に!魔導砲を撃つ!」
2人を車内に引き入れてユアンに運転を代わってもらった。
魔導砲の照準をアリの群れに向けつつ、炎魔法の弾倉をセットする。
「くらいやがれ!」
魔力を込めトリガーを引く!
眩い光と衝撃があたりを包み、赤い炎の槍が群れに命中、爆散した。
「魔導砲、すご。」と脇見運転のユアン。
「アリ退治完了。」
頭の中に天啓さんのレベルアップの声が聞こえてる最中に、爆煙の向こう側の陰に気がついた。
「まだいるみたいだぞ」
そこには大型モンスター、アントライオンの巨影があった。
「蟻たちはアレから逃げてきたって訳か。」
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