第40話 涙

「最後にれたのが、ざっと20万かな。効果範囲、相当広げたでしょ」

「気合じゃ。さすがに、残り一人では、あの戦場は切り抜けられても、国の本拠地までたどり着く元気はない」


駆けているとすぐに、国の地面が目に入る。

トッ、と着地すると、国で待ってた暇人じじい共に出迎えられた。



「虹翼くん!いやぁ素晴らしい!たった一人で功績は約170万!」

「さすがは、わが国の誇る最強兵器ですなぁ!」

「国王もお喜びだったぞ!ほれ、謁見の機会も設けてある!」

「それに比べて、他の連中ときたら」

「まったくだ。マスターランクなど名ばかりのものだったようだ。何も功績を上げれず、あっさりと死んでいった」

「あいつらを作業すれば、もっと・・・」

「これ、それは・・・」

「ああ失敬。忘れてくれ同志少女」

「なに、落ち込むことはない。今回で相手も深手を負ったのだ。すぐに追撃すれば、勝機は十分すぎる」



少女は今も、血の風呂に浸かったように真っ赤に染まっていた。

帽子も、顔も、顔のただ一か所を黒く染めて。

帽子で目線を隠していた少女は、下を向いて目を見開いていた。

いや、違うな。もう聞く耳を持っていないだろう。


反吐へどが出るな」


「どうされた?もちろん報酬はたんまりと


ジジイ共の頭上スレスレに斬撃が飛んだ。


「ひぃ!!」

「な、なんだなんだ」


「次私の前で同じ発言をしてみろ。殺すぞ」

「ウっっ」

「ふふふ、あははは!首を洗って待っているといいぞ」





少女は、温かいお湯のシャワーを全身にかぶった。

排水溝に、真っ赤な血がダラダラと流れる。

今回着ていった服は捨てた。

不揃いになった髪も洗った。


黒く染まった傷跡には、人生で初めて包帯を貼った。


真っ赤になってしまった風呂を、水陀すいだで丸ごと洗い、白いモコモコ部屋着を身に着けた。

冷凍倉庫に入って、お姉さんのカフェのサンドウィッチを出し、おひとり様ソファに座って食べた。


食べ終わると、少女はぼーーーっとした。

少年二人は無事だったと、後から聞いた。

しかし、マスターランクは三分の二が死亡。

こちら側の被害は約400万。

全てに対策され、それにまんまと飲み込まれた。




少女は、涙を流した。

生きている左目と、死んだ右目からも。

硝子メンタルが死んだ。

きっと、自分のせいで。

すーっと、目から液体が出てきたと思っていたら、その時には泣き声をあげて泣いていた。

人世で泣いたことなどなかっただろう。

まるで、母親の体から出てきて、初めて赤子があげる泣き声のように、少女は泣いた。



泣きつかれて寝た少女の元に、見張り役人が来た。

俺は、あいつらに今日の少女を報告しないといけない。

しかし、は話す内容が何一つ頭に浮かんでこない。

ただ一言。

「帰れ」

とだけ口にした。


しばらく少女を見つめた見張り役人は、

「分かった」

と口に、出て行った。


長さの不揃いになった桃色のツインテール。

頬に貼られた包帯。

夜光に照らされる涙。


どれも、リーセル・フルーゲルには不格好なものだった。

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