1-EPILOGUE
「しっかし、アタシの家、もう無えんだな……」
夏子が根城の跡の前で呟く。
「やっぱ家に連れて帰るべきじゃなかったのか?」
「今言われたらやっぱそういう気もしてくるけど……」
その隣で裕誠が夏子に言う。
「まあ、空気を読まずにトラックぶつけてきたアイツが悪いって事でいいんじゃないか?」
「っせーよ」夏子が不満を声に乗せる。「せっかくアタシのたった一つの根城だったっつーのに、あのトラック一発でぶっ壊れちまったじゃねーか」
悪霊にでも取りつかれたような足取り。
「あーあ、これからどう生活しよっかなー」
「あ、はは……」
裕誠にはかける言葉が見つからなかった。ただ、次のように言う事しか出来なかった。
「そうだよな……これから俺も夏子も狙われるんだろうしなあ……」
10分前。
「う、く、はっ……」
夏子が投げた槍はビッグリグスの腹部を貫いていた。心臓や脊椎に当たらなかったので辛うじて生きてはいたが、致命傷なのは明らかだった。
「痛っ」
夏子が遅れて着地した。呼吸を整え、ビッグリグスの方に歩み寄る。
「……夏、子……とや、ら」ビッグリグスは余力を振り絞って声を出した。「これで、終わったと……思う、なよ」
「ふーん、なんでだ?」
「決まって、いる……だろう」ビッグリグスはうっすらと笑みを浮かべた。「『神徒』……は、一人、に……あらず……。これから……俺、の仲間、が……っ、貴様ら……を、屠る……だろう……」
「お前らの言う『神』を敵に回した……からか?」
「い……か、にも」ビッグリグスは消えゆく意識の中、言葉を発するのに精を出していた。「これより……貴様ら、は、震え……て、眠……る、事に……な……」
そこで彼の言葉は終わった。
彼の意識が、完全に消えた。
「……」夏子はその姿をしばらく見つめた後、遺された男の体に言った。「ヘッ、安心しろ。お前の仲間はアタシらを殺せねえよ……何故なら、アタシは」
『魔法少女』だからな。
「は、はあ……」
「だからアンタもアタシも死なない。お互い、長生きしような」
その顔は満面の笑みだった。彼女にとって二年ぶりの、満面の笑みだった。
「その為にはやっぱり次の根城が欲しいよな……そうだ!」
夏子は満面の笑みのまま、裕誠に言った。
「なあ、アンタの家に住まわせてくれよ」
*
「『ビッグリグス』が沈黙しました……」
「何……っ」
「あの『ビッグリグス』さんが?」
「しかし、ヤツは『神徒』の中でも……」
「ああ、最も真摯に聖務を全うしているヤツだ」
「おまけにチョー強いハズですもん」
「そんな男が死んだ……じゃあ一体何が起こったのかしら?」
「それが……」
「どうかしたのかサンダーマスター」
「どうやら……『魔法少女』と名乗る少女に、やられたみたいで」
「魔法……少女?」
「嘘でしょ?そんなもの存在する訳……」
「いや」
「「「「えっ」」」」
「私達だって同じようなものだろう?特殊能力を神から授かる者達がいるのだ、魔法少女が存在したってもはや可笑しくはないのかもしれん」
「それは娘にとってはありがたい話だ。プリキュアを見るのが一週間の楽しみだって言ってるからね」
「しかし、そんな人が実際に存在して、しかもビッグリグスさんの活動をジャマしちゃったワケでしょ?」
「そうねぇ……彼女を倒さない限り、裕誠の事も殺せないかも」
「ああ。それと、今回の件で彼は大いにやらかしてしまったようだ」
「「「「っ……」」」」
「彼の浮かせていたトラックが、周辺の人間の目に触れてしまった。避難勧告騒ぎにまでなってしまったようだ」
「そ、それってつまり……」
「この世界に異能者がいる、ってバレそうになったって事よ」
「えー、それってチョー鬼ヤバですよ!」
「そうよ。ったくあの仕事人間ったら、最後にとんでもないヘマやってくれたわね」
「まあ、彼は十三年間も失敗せずに聖務を遂行してきたし……その状態であんなに手こずれば周りが見えなくなるのも頷けるよ」
「だが、そんな失敗を最後にビッグリグスが死んだ。能力者の存在が公になるリスクと、今後の聖務の妨害要素たる魔法少女。この二つにどう対処していくかが――」
『案ずるな、手はある』
「「「「「っ……神様!」」」」」」
「ど……どうすればよろしいのでしょうか……?」
『我が言う通りに動けば、この状況を打開できるやもしれぬ』
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