第141話:ちょっとした配慮
「正直なところ、竜胆プレイヤーは久しぶりのSランク認定でもいいと思っている」
すると拳児は、さらに驚きの発言を口にした。
「いやいやいやいや、それはさすがにダメですって!」
「そうか? プレイヤーになってからの実績は規格外だし、実力だって申し分ないだろう?」
拳児の言葉には隣に立っていた青葉も頷いている。
「しかし、竜胆プレイヤーのことだ。目立ちたくないというだけでなく、妹さん、鏡花プレイヤーのことを守りたいと思うだろうと思ってな」
「え? 私ですか?」
急に自分の名前が出たことに、鏡花は驚きの声をあげた。
「あぁ、そうだ。竜胆プレイヤーは常に、鏡花プレイヤーのことを助けたい、守りたいと言っていたからね。君がランクを上げたくないと言えば、竜胆プレイヤーも当初のランクのままか、一つ上にするくらいで留めていただろうね」
拳児なりに自分たちのことを考えてくれていると分かり、竜胆はAランクに上がったことを少しだけ、納得できるようになっていた。
「しかし、Aランクか。恭介や彩音が聞いたら、どう思うかな」
「あの二人なら、大喜びしそうだがな」
「私もそう思うよ!」
拳児と鏡花にそう言われた竜胆も、少し考えただけで二人が喜ぶ光景が目に浮かび、自然と笑みを浮かべる。
「とはいえ、最初は鏡花プレイヤーに扉を経験させる必要があるだろう。新人プレイヤー用の扉も、今となっては危険地帯になってしまったからなぁ……さて、どうしたものか……」
「支部長。私、ちょっと星1や2の扉がないか確認してきます」
「あぁ、頼むよ、柳瀬君」
ランクの低い扉がないかを探しに青葉がトレーニングルームを離れると、竜胆は話に出てきた元新人プレイヤー用の扉について、拳児に聞いてみる。
「あの、支部長。その新人プレイヤー用の扉はどうなっているんですか?」
気になった理由はもちろん、新人プレイヤー用の扉が危険地帯になってしまった原因に、竜胆も少なからずかかわっていたからだ。
発端は竜胆を襲おうとしていた尾瀬岳斗、彼の取り巻きが、協会で管理していた特殊個体のモンスターを奪い、扉の中で解き放ったのが原因になっている。
どちらかというと竜胆は巻き込まれただけなのだが、だからといって無視できるわけもなく、気になり聞いてみたのだ。
「……あそこは現状、完全封鎖で対応している」
「中に入っての調査とかは?」
「何名かのプレイヤーを送り出しては見たんだがなぁ……」
そこまで口にした拳児と突如、黙り込んでしまう。
何があったのかと、竜胆は彼が口を開くまで見つめ続ける。
「……大きな被害はないんだ。死亡した者もいないし、大怪我を負った者もいない。ただ、戻ってきた全員が同じことを口にしたあと、扉内で起きたことを完全に忘れてしまっているのだ」
「……どういうことですか?」
思わず聞き返してしまった竜胆に、拳児は首を横に振る。
「分からん。ただ、その口にした内容というのが、『我は人間に復讐を誓う。近い未来で滅ぼしてやろう』だそうだ」
人語を介するモンスターというだけで、竜胆と鏡花は背筋が凍る感覚を覚えたが、それだけではなく人間に復讐を誓うと口にしたというではないか。
「……協会はそのモンスターに、いったい何をしたって言うんですか?」
「……正直なところ、俺の管轄外の部分でな。本当に分からないことだらけなんだ」
そう答えた拳児は、頭を乱暴にガシガシと掻いた。
「実際、俺たちはさらなる調査を行いたいんだが、扉を封鎖しているのも別の部署でな。現場は現場のことだけやっていろと言って、門前払いされてしまうんだ」
「それってどこの部署なんですか?」
「それは――」
「し、支部長~!」
突如、拳児の声を遮るようにして、青葉が泣きそうな声をあげながらトレーニングルームに戻ってきた。
だが、彼女は一人ではなく、後ろからスーツを身に纏った一人の男性が姿を見せる。
「ちっ! なんであいつがこっちに来ていやがる?」
「どなたなんですか?」
「あいつは――」
「あぁ、結構ですよ、堂村支部長。自分の自己紹介は、自分で致しますから」
スーツの男性はメガネをくいっと押し上げると、姿勢正しく立ちながら口を開く。
「私は特殊モンスター研究所の主任をしております、
突如現れた雅紀は、不気味に笑みながら自己紹介をした。
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