第140話:規格外の兄妹
「……負けた~! 悔しいよ~!!」
首元に当てていた木剣が離れると、鏡花は両手を上下に動かしながらそう口にした。
「いや、強すぎるだろ、お前。プレイヤーになったばかりなんだぞ?」
「でも負けた~!」
「いい勝負した時点で、鏡花の勝ちな気もするけどな」
竜胆は恭介や彩音と共に、結構な修羅場を切り抜けてきたと思っている。
しかし、そんな竜胆でもギリギリまで追い詰められ、獲得しているスキルをフルに使わなければ、鏡花には勝てなかった。
兄の威厳を見せつけるどころか、妹のすごさを分からされてしまった格好だ。
「いやー、すごかったな!」
そこへ扉が開くと、拳児が拍手をしながらトレーニングルームへ入ってきた。
「お兄ちゃん、この人は?」
「プレイヤー協会東部地区の支部長だ」
「へぇー、支部長さんかぁー。……えぇっ!! し、支部長!?」
「がはははは! まあ、そういうことだ!」
自分の兄が支部長と知り合いだとは思ってもおらず、鏡花は驚きの声をあげてしまう。
その姿に年相応のものを感じた拳児は笑い、そのまま話を始めた。
「いきなりお兄さんと相手をさせてしまって悪かったね」
「いえ! 全力で戦えたので満足です!」
「満足なのかよ!」
そして竜胆は妹が戦闘狂のようなことを口にしたこともあり、思わずツッコミを入れてしまった。
「いやいや、支部長としては、優秀な新人が出てきてくれることは嬉しい限りだ!」
「なんか、俺に時にも似たようなことを言いませんでしたか?」
「実際、竜胆プレイヤーは優秀な……いいや、規格外な新人だったからな!」
本来であれば、竜胆のプレイヤー歴で見ればまだまだ新人の域を出ないものだ。
優秀なスキルを授かったとしても、一人前になるまでには一年近く掛かる者もいる。
それらに比べて竜胆は数ヶ月で多くの実績を残している。
特に二重扉を二ヶ所も攻略していることを考えれば、一人前を通り越してトッププレイヤーと言っても過言ではないだろう。
「……俺がというよりは、俺のスキルが規格外なだけですよ」
「そのスキルも竜胆プレイヤーがいなければ存在しないものなのだから、やはり竜胆プレイヤーが規格外なのだよ!」
「お兄ちゃんって、すごいんだね!」
「ダブルスキル持ちの鏡花に言われたくはないけどな」
竜胆という規格外なプレイヤーがいるせいかもしれないが、鏡花も十分すぎるくらいに規格外な存在だ。
ダブルスキル持ちは確かに珍しいが、それらを使いこなせるようになるまで数ヶ月は掛かることも多い。
事実、ダブルスキル持ちがおだてられ、扉の攻略へ乗り出した結果、モンスターに殺されてしまった実例は少なくないのだ。
しかし鏡花は氷魔法、身体強化のスキルを使いこなし、竜胆といい勝負まで持ち込んでいた。
竜胆や鏡花、兄妹ではお互いを尊重しあい、評価が分かれてしまうだろうが、他から見れば二人とも、十分に規格外な存在だった。
「……二人とも、すご過ぎですぅぅ~」
この場にいる中では唯一の一般人と言えるだろう青葉は、扉の外からそんなことを呟いていた。
「さて、鏡花プレイヤーのランクなんだが……どうする、竜胆プレイヤー?」
「お、俺ですか?」
「竜胆プレイヤーは実力が分かってからも、目立ちたくないということでランクを低く設定させてもらっただろう? 鏡花プレイヤーの実力を考えれば、Cランク以上はほぼ確定なんだがな?」
ダブルスキル持ちであり、すでにスキルを使いこなしており、その実力も拳児は認めている。
本当であれば、少しずつランクを上げていってほしいというのが、竜胆の本音だ。
実力があったとしても、現場を知らないことに変わりはない。
ランクが高ければどうしても星の数が多い扉の攻略を任せられることもあるだろう。
「……私はお兄ちゃんに早く追いつきたいな」
竜胆が悩んでいると、鏡花がそう口にした。
「でも、鏡花には危ないところに行ってほしくないんだ」
「その気持ち、私も同じだったんだよ?」
「うっ! ……それを言われるとなぁ」
自分も鏡花に心配を掛けたという自覚があるため、竜胆はこれ以上何も言えなくなってしまった。
「……支部長」
「なんだい、鏡花プレイヤー?」
「私の実力で上げられる、最大のランクまでお願いします!」
「分かった。それでは鏡花プレイヤーは、Bランクプレイヤーとして登録! そして竜胆プレイヤーは――Aランクへ昇格だ!」
「Bランク! やったー!」
「えぇっ!! お、俺も昇格ですか!?」
まさかの展開に、鏡花は歓喜の声を、そして竜胆は驚きの声をあげた。
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