第130話:強化されたスキル

「……あれ? 戻ってる?」


 竜胆が真っ白な部屋に戻っていると気づいたのは、中に入ったはずの扉の前に立ったままになっていたからだ。


「……開かないか」


 もう一度中に入れるのかと試してみたが、扉はびくともしない。

 振り返ってみると、まだ誰も戻ってきてはおらず、竜胆は先ほどの出来事を思い返すことにした。


(正直なところ、何が起きたのか理解できない。だけど、あの声は言っていた。スキルの強化だって)


 先ほどのやり取りが嘘か誠かは、スキルを確認すれば分かることだと思い、竜胆はステータスを開く。


「本当に強化されているんなら、確認はしておかないとな」


 そうしてスキル【ガチャ】の項目を見ていくと、竜胆は目を見開いてしまう。


「……な、なんだよ、これは? 強化というか、進化してないか?」


 強化されたスキル【ガチャ】の効果を見て、竜胆は思わず進化と口にしていた。


「……強化内容、スキルの融合。獲得したスキル同士を融合させて、新たなスキルを獲得する。融合対象のスキルは獲得済みのスキルに加えて、新たに獲得したスキルも対象となる、か」


 説明を読み上げながら、竜胆は自分の中で理解を深めていく。


(……この強化、本当に強すぎだろ。ようは、取捨選択が必要になった時、融合をしてしまえば無駄がなくなるってことだからな)


 融合されたスキルが有用なものになるかどうかは分からない。

 それでも獲得したスキルを捨てるという選択肢がなくなるのは、竜胆にとってありがたい強化だった。


「それに、強化されたのは融合の効果だけじゃない」


 竜胆が目を動かした先にあったのは、スキル【ガチャ】のストック数だ。


「四つだったスキルのストック数が、五つに増えている。これも助かる強化だな」


 竜胆が現在獲得しているスキルは【上級剣術】【死地共鳴】【鉄壁反射】【魔法剣】の四つだ。

 もしも新しいスキルを獲得した際、どのスキルと融合させるべきか、非常に悩むところだったが、そうならなくて済んだのだ。


「スキルが強化されるのか、それとも全く別のスキルに変化するのか、分からないからな」


 どれを失ったとしても、今の竜胆にとっては大きな痛手となる。

 融合を試すにしても別のスキルで試したいと思っていた竜胆にとっては、ストック数の増設も非常に助かる強化だった。


「きゃあっ!」


 そんなことを考えていると、別の扉に入っていった彩音が戻ってきた。


「……あ、あれ? 戻ってきてる?」

「俺とまったく同じ反応だな、彩音」

「え? り、竜胆さん?」


 彩音の反応を見た竜胆は、彼女も自分と似たような状況だったのだろうと理解し、苦笑しながら声を掛けた。


「私、どうしちゃったんでしょうか? なんか、スキルの強化とか、獲得とか……」

「たぶんそれは現実だ。俺のスキルも強化されていたからな」

「……えぇっ!? そ、それじゃあ私も!!」

「ステータスを確認してみたらいいんじゃないか?」

「は、はい!」


 嬉しそうに声をあげた彩音にそうアドバイスをすると、続けて恭介、影星、国親が戻ってくる。

 全員が同じ状況だったようで、竜胆が彩音の時と同じアドバイスを送ると、すぐにステータスを開いて確認していく。


「……はは。これはすごいね」

「……こんなこと、聞いたことがない」

「……いったい何が起きてんだ、こりゃあ」


 困惑気味に声を漏らしているものの、三人とも表情は笑みを浮かべている。

 それだけスキルの強化、もしくは獲得が嬉しい誤算だったのだろう。

 正直なところ、竜胆は全員にスキルを強化したのか、それとも獲得したのか、聞いてみたい衝動もあったのだが、そうなると自分も答えなければならなくなる。


(伝えてもいいんだが、国親にはまだ俺のスキルについて説明していないからな。この場では聞けないか)


 すると、竜胆たちの体から転移する時の光が現れ始めた。


「……今回は普通の転移みたいだな」

「この部屋でのこと、あとできちんと話をしないといけないかもね」

「私はいいですよ!」

「私も構わない」


 恭介の提案に彩音と影星が同意を示すと、三人の視線が国親へ向いた。


「……話してもいいが、話したくない奴もいるだろう。俺は部外者だからな」


 三人の視線を一斉に浴びた国親だったが、彼は冷静にそう口にすると、横目で竜胆を見た。


「……ん? あぁ、そういうことか」


 竜胆が懸念していたことを、国親はあえて自分で口にしてくれたのだ。


「……俺はもう、国親のことを信頼しているよ」

「あぁん? 何言ってんだ、お前は?」

「それに、恭介とも話し合いをするんだろう? だったら一緒にいた方が手っ取り早いじゃないか」


 竜胆が微笑みながらそう口にすると、国親は呆れ顔を浮かべながら頭を掻いた。


「……ったく、しやーねぇなぁ。今回は話を聞いてやるよ」


 国親からも許可を得たところで、竜胆たちは今度こそ、扉の前へと転移した。

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