第129話:スキル強化の部屋
「……なんだ、ここは?」
部屋の中に入った竜胆は、開口一番でそう口にした。
真っ白な空間に続いて現れたのは、足元が真っ白な、例えるなら雲のようなものであり、頭上には青空が広がる、何もない場所だった。
「雲の上? ……いや、まさかな」
困惑気味に一歩を踏み出すと、入ってきた扉が一瞬にして消えてしまう。
「なっ!? ……ここはいったい? 何が出てくるんだ?」
警戒を緩めず、竜胆はデュランダルを握りしめたまま、周囲を見渡していく。
(警戒しなくてもいいわよ)
「――!?」
突如、頭の中に響いてきた女性の声を聞き、竜胆は慌てて振り返る。
「……誰だ! どこにいる!」
(私はあなたであり、あなたではない存在)
「何を言っている! さっさと出てこい!」
頭の中に直接響いてくる声に、竜胆は顔をしかめながら視線を周囲に向けていく。
しかし、声の主らしき者は見当たらない。
(光の方へ進みなさい。さすれば疑問が解けるでしょう)
「……光だって?」
女性の声がそう告げると同時に、真っ白な雲が続くだけの空間の先に、宝玉の色と似た虹色の光が現れた。
「……いいだろう、行ってやるよ」
他に向かう先がないこともあり、竜胆は声に従って虹色の光の方へ進んでいく。
そうしてしばらく歩いていくと、七色の光が宝玉のような物ではなく、空間が光を放っていることに気がついた。
「まったく、わけの分からないことばかりが起きているな、ここは」
この場所がなんなのかも分からない状況で、進んだ先にあったのは七色に光る謎の空間だ。
竜胆は困惑しながらも、どうしたらいいのか分からないため声をあげる。
「ここで何をしろって言うんだ?」
問い掛けた相手は、頭の中に直接語り掛けてくる女性の声に対してだ。
(触れてみれば、あなたが今一番に望んでいるものが手に入るでしょう)
「俺が一番望んでいるもの?」
女性の声を受けて、竜胆は思案する。
(エリクサーはすでに手に入れた。プレイヤーに覚醒するっていうイレギュラーはあったけど、今は鏡花の容態も安定している。なら、いったいなんのことを言っているんだ?)
自分が今一番望んでいるものがなんなのか見当がつかないものの、何もしないわけにもいかず、竜胆は最大限の警戒を払いながら、七色に光る空間に触れた。
「――なっ!?」
直後、彼の視界は七色の光で埋め尽くされた。
(いったい何が起きて……声が、出せない!?)
ここはいまだ扉の中だ。完全に罠にはめられたと思った竜胆だったが、頭の中には再び女性の声が響いてくる。
(私はあなたであり、あなたではない存在。私はスキル、あなたのスキル)
(スキルだって? それじゃあお前は、俺のスキル【ガチャ】だって言いたいのか?)
竜胆が問い掛けるものの、今回は問いに対しての答えはなく、女性がただ言葉を伝えていくだけだ。
(スキルと扉は一心同体。ここはスキルを強化する場所。または、スキルを獲得する場所)
(スキルの強化に、獲得だって?)
後天的にスキルを獲得したという例を、竜胆は自分以外に聞いたことがなかった。
それがまさか自分の身に訪れようとは夢にも思わず、そして選択肢は一つだと判断する。
(ここが本当にそうだとして、俺が選ぶべき選択肢は前者しかないだろう)
スキルを獲得するにしても、どのようなスキルが手に入るかは分からないし、教えてもらえてもいない。
それに、竜胆はスキル【ガチャ】を使えば、運の要素はあるにしてもスキルを獲得することができている。
スキル【ガチャ】を強化するとどうなるのかは想像できないが、強化することでマイナスになることはないだろうと判断した。
(覚醒者、天地竜胆。あなたのスキル【ガチャ】を強化します)
女性の声がそう告げると、視界を埋め尽くしていた七色の光が竜胆のもとへ収束していく。
そして、収束した光が自らの体内に吸収されていくと、竜胆の肉体は活力に溢れていく。
(な、なんだ、これは?)
(スキルの強化は器の強化。器の強化は肉体の強化。天地竜胆は覚醒者として、大きな一歩を踏み出しました)
(……あんたはいったい何なんだ? どうしてスキルの強化なんて真似が――)
竜胆の問い掛けが最後まで伝えられることなく、目の前の空間が大きく歪んでいく。
(覚醒者、天地竜胆。そして、私の力を授かった勇気ある人間。扉からの侵略者に負けないよう、力を蓄えなさい)
女性がそう告げた途端――竜胆の体は真っ白な部屋に戻ってきていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます