第127話:二重扉の攻略完了

「――……ぅ、ぅぅん」


 目を覚ました恭介が見たのは、倒れていた彼を心配そうに見つめる竜胆、彩音、影星の顔だった。


「……僕、生きているのかい?」

「死んでいたら、俺たちも死んでいるってことになるな」

「もちろん生きてますよ、矢田先輩!」

「変な冗談を言わないでちょうだい」

「はは、ごめんよ」


 体を起こそうとした恭介だったが、なかなか力が入らない。

 竜胆が手を貸すと、なんとか体を起こして座ることができた。


「ありがとう、竜胆君」

「完全に毒が抜けたわけじゃないんだ、無理するな」

「あぁ、そうだね」


 小さく息を吐きながら、恭介は周囲に目を向ける。

 漂っていた白い靄は消えており、視界がはっきりしている。

 見えてしまえばなんてことのない、扉の中ではよく見かける壁や床だ。


「……あの白い靄が、すでに毒だったんだね」

「あぁ。どういった毒なのかは、国親が見抜いてくれたんだ」

「国親だって?」


 国親の名前が出てくると、恭介は全体に視線を向けた。


「すまん、今はいないんだ」

「あの人、頑丈ですよね。毒から回復したら一人で立ち上がって、周囲の警戒に向かうってヴォルテニクスを手に戻っていっちゃったんですよ」

「でも、動ける実力者は助かるわね」

「……そっか。まあ、国親らしいかな」


 国親が来てくれたことが思いのほか嬉しかったのか、恭介の表情は自然と笑みを浮かべていた。


「さて、俺はこれからゲートコアを破壊、もしくは回収するつもりだが、恭介はどうする?」

「ここで待っているよ。早いところ、扉を消滅させた方がいいだろうからね」


 自分がいては移動を遅くなってしまうことを懸念し、恭介は肩を竦めながらそう口にした。


「それでは、私がこちらに残ります」

「いいんですか、影星さん?」

「モンスターの気配は感じられませんが、ここはまだ扉の中ですから。油断はできません」

「ごめんね、影星さん。助かるよ」


 最後に恭介が影星にお礼を口にしたところで、竜胆と彩音が立ち上がった。


「それじゃあ、いってくる」

「ゆっくり待っていてくださいね!」

「頼んだよ」

「さっさといきなさい」


 こうして竜胆と彩音は、視界に捉えていた扉へと歩き出す。

 扉の目の前に到着すると、お互いに目を合わせ、一度頷きあってから同時に扉を開いていく。

 両開きの扉がギギギと音を立てながら開いていくと、そこには五つの宝玉がダンジョンコアとして安置されていた。


「全部真っ白の宝玉ですね。魔法と関係しているんでしょうか?」

「宝玉だとすればそのはずなんだが……とりあえず、今回も破壊じゃなくて回収になりそうだな」


 そう口にした竜胆が四つの宝玉を回収すると、地鳴りと共に地震が起き始めた。


「はぁー、これで地上に戻れるんですね。連続で二重扉の攻略だったので、さすがに疲れました」

「しばらくは支部長に言って、休ませてもらおう……?」


 肩の力を抜いて話していた竜胆と彩音だったが、竜胆はある違和感に気がついた。


「待て、彩音!」

「どうしたんですか、竜胆さん?」

「これは、いつもの転移じゃない!」

「え? ……あれ、青く光ってる? でも、竜胆さんは七色、虹色に光ってますよ!?」


 いったい何が起きているのか理解できず、竜胆と彩音は急いで最奥の部屋から飛び出した。


「天地竜胆! 何があった!」

「待って、影星さん! 竜胆君たちも光ってる!」

「……嘘だろ、恭介と影星もかよ!?」

「て、転移が始まっちゃいますよ!」


 何が起きているのか誰にも理解できないまま、竜胆たちはその場から姿を消してしまった。


「――……こ、ここは?」


 転移した先を見て、竜胆は警戒を強める。

 何もない、五角形な真っ白な部屋。各面には扉が一つずつ設置されている。


「……あれ? さっきの宝玉、一つだけ色が変わっているな」


 回収したダンジョンコアの五つの宝玉のうち、一つの宝玉が虹色の宝玉に変わっていたのだ。直後――


「きゃあっ!」

「け、警戒を!」

「あれ? 竜胆君?」

「彩音、影星、恭介!?」


 真っ白な部屋には彩音たちも転移されてきた。


「ここはいったい何なんですか、天地竜胆?」

「いや、俺もさっき転移させられたばかりで分からないんだ」

「あれ? 竜胆さん、宝玉の色が変わっていませんか?」

「あぁ、さっき虹色の宝玉に……って、あれ?」

「どうしたんだい、竜胆君?」


 真っ白の宝玉だったはずの五つの宝玉。その一つは虹色に変化していたのだが、彩音たちが転移してきたタイミングでさらに三つの宝玉に変化が起きていた。


「……赤、青、黒の宝玉に変わってる」

「待って、竜胆君! まだ転移は終わってないみたいだ!」


 恭介の声を聞き、竜胆は視線を宝玉から、転移が起きようとしている場所へ向けた。そして――


「どわあっ!? ……あぁん? なんでてめぇらがここにいるんだ?」

「「「い、猪狩国親!?」」」

「……はは、まさか国親も転移させられるとはね」

「き、恭介!?」


 真っ白な空間に国親が転移してくると、残っていた最後の宝玉が黄に変化した。

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