第126話:不滅剣デュランダル

 デュランダルの剣身が漆黒の靄に触れた瞬間、肉が焼け焦げるような音を響かせながら、刺激臭を伴う黒い煙が立ち上る。

 鉄をも溶かす漆黒の靄は、どれだけ高質な金属だったとしても、著しい劣化を逃れる術はなかっただろう。

 これが――不滅剣デュランダルでなければ。


「吹き飛べええええっ!」

『ジュジュ!?』


 デュランダルに触れた漆黒の靄は、剣身を溶かすことはなく、その逆で靄自体が消滅してしまっていく。

 ベルゼブゥにとって予想外だったのか、明らかに困惑気な鳴き声を漏らしていた。


『ジュ、ジュジュキイイイイッ!!』


 続けざまに甲高い鳴き声をあげると、漆黒の靄はドーム状を崩し、直接竜胆を狙って殺到してくる。

 それでも竜胆の表情には余裕が見え、上級剣術を駆使して殺到する全ての靄を斬り捨てると、一気に霧散させた。


「このまま一気に片を付ける!」

『キイイイイイイイイッ!!』


 甲高い鳴き声は超音波となり、前に出ようとした竜胆の三半規管を揺さぶりに掛かる。


「雷鳴爆発!」


 今の竜胆の手にヴォルテニクスはない。

 しかし、雷鳴爆発を発動させたのは竜胆ではなかった。


「ナイス――影星!」

『ジュジュ!?』


 超音波と雷鳴が衝突し、衝撃波を伴って相殺される。

 残されていた漆黒の靄も同時に吹き飛び、霧散したことで、竜胆だけではなく彩音と影星も戦えるようになった。


「今度こそ一気に叩く!」

「任せてください!」

「この槍、借りるぞ!」


 最初に飛び込んだのは、影星だ。

 彼女の手にはヴォルテニクスが握られており、様になった動きで穂先を突き出した。


『ジュジュ!』

「逃がさない! 雷撃一閃!」


 ヴォルテニクスが放つ雷をその身に宿した影星は、この場にいる誰よりも速い素早さが倍以上となり、一瞬にしてベルゼブゥを間合いに捉える。

 そのままヴォルテニクスを一閃――ベルゼブゥの六枚羽のうち、右側の三枚を両断した。


『ジュギュギャアアアアッ!?』

「次は私ね! スキル【火】!」


 彩音の剣に業火が宿る。

 よく見ると、彩音が持つ剣が変わっている。


「あは! コロッセオで手に入れた剣、やっぱり私に合っているわ!」


 以前の剣に比べて魔力の通りが良くなった新しい彩音の剣――エルフィネスによって、彼女のスキルはさらなる力をつけていた。


「はああああああああっ!!」


 三枚の羽を失ったベルゼブゥは上空へ逃げることができない。

 迫りくる業火を纏った剣を前に、体をよじるくらいしかできなかった。


『ジュギャアアアアァァアアァァッ!?』


 彩音の斬撃はベルゼブゥの背中を焼き斬りながら、残された左側の三枚羽を奪う。


「あとは任せましたよ、竜胆さん!」

「やれ! 天地竜胆!」

「任せろ!」


 すでに竜胆は動き出していた。

 羽を失ったベルゼブゥの死角へと回り、デュランダルを振り上げていた。


『ジュ、ジュジュギギアアアアアアアアッ!!』


 ベルゼブゥによる最後のあがきなのか、先ほど以上に濃厚な漆黒の靄が溢れ出した。


「攻撃手段はそれだけかよ!」


 デュランダルを鋭く振り抜き、漆黒の靄を霧散させていく。

 このまま何事もなく終わればよかったが、二重扉のボスモンスターだ、そう簡単にはいかない。


「これでラスト――なっ!?」


 漆黒の靄が晴れた先に見えたのは、紫色の光を眼前に顕現させたベルゼブゥだった。


『ジュギラアアアアァァアアァァッ!!』


 高速で撃ち出された紫光は、一直線に竜胆へと迫っていく。

 だが、竜胆の手には武器でありながら、最強の盾となる剣がある。


「頼むぞ、デュランダル!」


 デュランダルの剣身を盾にし、紫光を受け止める。


「ぐおおおおっ!」


 衝撃までは完全に防ぐことはできない。

 しかし、紫光が持つ猛毒と貫通力の高い光線自体は、斜に構えたデュランダルが斜め上に弾いてくれている。

 そして、竜胆の武器はデュランダルだけではない。


「この衝撃を、そのまま返してやる!」


 紫光の勢いが収まったタイミングで姿勢を低くし光線を回避、そのまま一気に前へ出る。


「反射!」


 スキル【鉄壁反射】で溜め込んだダメージ量を乗せた一撃が、ベルゼブゥを捉えた。


 ――ズバッ!


『ジュジュ――!?』


 悲鳴にも似た声をあげようとしたベルゼブゥだったが、頭から尻までを一瞬で両断されたことで、悲鳴は途中で聞こえなくなった。

 こうして竜胆たちは、二重扉のボスモンスターであるベルゼブゥの討伐に成功した。

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