第125話:合流

「させるかああああっ!!」

『ジュジュ!?』


 恭介たちとの戦闘に意識を向けていたからだろう、ベルゼブゥは竜胆の接近に気づいていなかった。

 上級剣術によって振り抜かれたデュランダルは、ここまで来て初めてベルゼブゥに傷を負わせることに成功した。


「竜胆さん!」

「天地竜胆!」

「すまん、遅くなった!」


 危険を感じたベルゼブゥが急上昇すると、竜胆はそのまま彩音と影星と合流する。


「恭介は……やっぱり、倒れたか」


 彩音たちの足元に倒れていた恭介を横目に、竜胆はそう口にした。


「竜胆さん、実は私たちも少しずつですけど、動き難くなっているんです」

「竜胆は大丈夫なのか?」

「あぁ。でも、長期戦はマズい。猪狩国親の推測だと、プレイヤー歴が関係しているんじゃないかってことだ」


 そのまま端的に説明すると、彩音と影星は首を傾げる。


「……国親も、来ていたの、かい?」


 竜胆の言葉が聞こえていたのか、倒れたままの恭介が苦しそうにしながらもそう呟く。


「大丈夫か、恭介?」

「大丈夫……とは言えないな。でも、生きているよ」

「他のみんなも、国親も生きている。さっさとこいつを倒して終わらせてやるから、もう少し耐えてくれ」

「……分かった」


 竜胆が駆けつけて安心したのか、恭介はそのまま意識を失ってしまう。

 無理に意識を繋ぎ止めておくよりも、意識を失った方が体力の温存につながると思っての判断だった。


「でも、竜胆さん。あいつ、ベルゼブゥは自由に空中を移動できます」

「ああやって飛ばれてしまえば、私たちでは手の出しようがない」

「確かにそうだな。でも……俺たちならやれるさ」


 ニヤリと笑った竜胆がそう口にすると、彩音と影星も不思議と頷き、笑みを浮かべる。

 竜胆はいつの間にか、仲間たちから絶大な信頼を得るまでに成長していたのだ。


『ジュジュ……』


 上空で竜胆たちを観察していたベルゼブゥだったが、それだけではなかった。

 周囲の白い靄はベルゼブゥの魔力で作り出されたものであり、プレイヤーたちの意識を奪っている元にもなっている。

 その靄を回収することで、ベルゼブゥは傷口の治癒に当てていた。


『……ジュジュジュジュ!』


 そして、完全に傷口が塞がると同時に、再び攻撃を仕掛けてきた。

 今回は急降下による突進だけではない。自らの周囲に白ではなく、黒い靄を纏わせての突進だ。


「黒い靄に触れるなよ! あれも毒だ!」

「分かりました!」

「私は矢田恭介を担いでいったん離脱する!」

「頼んだ、影星!」


 気を失っている恭介は黒い靄から逃れる術がない。

 素早い判断から影星が恭介を背負うと、全速力で戦域を離脱していく。

 追い掛けられると二人を守りながらの戦闘になるので厄介だと考えていた竜胆だったが、ベルゼブゥの狙いは竜胆に向けられていた。


「はっ! 俺が危険だって気づいてくれたみたいだな!」

『ジュジュジュジュ!』


 ベルゼブゥだけでなく、黒い靄の範囲も気にしながら回避に専念する竜胆。

 しかし、回避だけでは倒すことはできない。

 そこで竜胆は、いったんデュランダルを鞘に納めると、国親から託されたヴォルテニクスを両手で握りしめた。


「くらえ――雷鳴爆発!」


 迫りくるベルゼブゥの方向へヴォルテニクスを振り下ろし、地面を叩いた同時に雷鳴が響き渡る。

 雷鳴は黒い靄に遮られることなく、ベルゼブゥに直撃した。


『ジュジュジョジャジャジャジャッ!?』


 三半規管をやられたベルゼブゥは、黒い靄を維持することができず霧散していく。

 回復に時間を要すると判断して急上昇を試みるが、ふらつきが激しく上手く飛び上がることができない。


「スキル【山】!」


 そこへ彩音のスキル【風林火山】の【山】が発動された。

 ベルゼブゥに二倍の重力が襲い掛かり、飛び上がるどころかその高度を下げていく。

 逃げ場を失ったベルゼブゥは、その複眼で迫りくる竜胆を睨みつける。


『ジュ、ジュジュジュジュジュジュジュジュ!!』


 せめて竜胆だけでも道連れにしようという魂胆だったのだろう、ベルゼブゥの体から黒よりも濃い、漆黒の靄が噴き出してきた。

 漆黒の靄は竜胆を囲むようにして漂っていき、上からも逃げられないようドーム状の靄を形成した。


「竜胆さん!」


 スキル【山】を発動している彩音は動くことができず、声をあげることしかできない。


「……これが、お前の最後の攻撃ってことか、ベルゼブゥ」

『ジュジュジュジュジュジュ!!』


 勝利を確信したような鳴き声を聞きながら、竜胆はヴォルテニクスを地面に突き刺すと、デュランダルを抜き放つ。


「こいつの本領を発揮させてもらうぞ、不滅剣デュランダル!」


 ベルゼブゥめがけて駆け出した竜胆。

 漆黒の靄が蠢き、竜胆へと襲い掛かる。

 強酸性の強い漆黒の靄は、触れた箇所から皮膚が爛れていき、その爛れが全身へと広がっていく。

 僅かでも触れてしまえば、爛れた部分を切り落とさない限り助かる術がない凶悪な毒だ。


「うおおおおおおおおっ!!」


 迫りくる漆黒の靄めがけて、竜胆はデュランダルを振り抜いた。

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