第124話:危機的状況
――竜胆が音のする方は全力疾走している頃。
「走って、彩音さん! 影星さん!」
恭介の指示に従い、彩音と影星はモンスターからの襲撃を受けていた。
ただし、モンスターの数は一匹のみ。
「分かってます! でも!」
「くっ! スキルが使えないのは、厳しいですね!」
竜胆や国親と同様に、恭介たちもスキルの封印を受けている。
恭介は戦意高揚、彩音は全体指揮、影星は影魔法が封印された。
恭介は元々スキル頼りの戦闘をしておらず、彩音はダブルスキル持ちで風林火山を使うことができるが、影星は違う。
戦闘に影魔法を多用しており、スキルの封印は大幅な戦力ダウンを意味していた。
――ブブ、ブブブブブブブブ。
恭介たちが走り出してからしばらくして、背後から羽音が聞こえてきた。
「やっぱり、逃げ切れないか! ……はぁ、はぁ」
「矢田先輩!」
「やるしか、なさそうね!」
国親が倒れた時と同じ症状が、恭介にも現れていた。
それは彩音や影星にも現れていたのだが、今の時点ではまだ症状は軽い。
だからこそ恭介が膝をついて動けなくなった今、逃げるのではなく、戦うという選択をした。
「……ダメだ、二人とも。逃げるんだ」
足を止めて臨戦態勢に入った彩音と影星を見て、恭介が苦しそうにそう告げた。
「逃げません!」
「ここで逃げたら、天地竜胆に笑われてしまう」
「竜胆君は、そんなことで笑わない――」
「「ダメ!」」
恭介は自分が犠牲になったとしても彩音と影星には逃げてほしかったが、二人から全力の拒否をされてしまい、苦笑する。
「……はは。まったく、頑固者だね、二人とも」
そうして立ち上がった恭介も剣を抜くと、小さく息を吐きながら呼吸を整える。
「無理はしないでくださいね、矢田先輩」
「はは。それは、僕のセリフかな」
「御託は終わりよ、来るわ!」
靄の奥から羽音が段々と近づいてくる。
モンスターのシルエットが見えてくると、徐々にその姿が露わになってきた。
『……ジュジュジュジュ』
「何回見ても、気持ち悪いですね」
「蠅のモンスター。しかも六枚羽の、ベルゼブゥ」
「三方に散るわよ!」
恭介の代わって影星が指示を出す。
影星が右へ、彩音が左へ、動きが鈍くなっている恭介は正面を担当する。
攻撃担当は影星と彩音だ。
「ふっ!」
「はあっ!」
左右から挟み込むようにしてベルゼブゥへ迫ると、それぞれが剣を振り抜く。
『ジュジュ!』
しかし、常に鳴り響いている羽音が大きくなると、ベルゼブゥが急上昇、二人の攻撃は空を切る。
「もう! 飛び回るんじゃないわよ!」
「制空権を取られると、こうも戦い辛いのね!」
悪態をつきながらも、二人は戦闘に集中していく。
だが、上空へ舞い上がったベルゼブゥは彩音も影星も見ていない。
その複眼が見つめていたのは、ベルゼブゥの攻撃で弱っている恭介だった。
『……ジュジュジュジュ!』
上空から恭介めがけて急降下していくベルゼブゥ。
「矢田先輩!」
「いくぞ、風桐彩音!」
ベルゼブゥの動きを見て一直線に駆け出していく彩音と影星。
恭介はというと、迫ってくるベルゼブゥを見つめながら剣を構えた。
「……はっ!」
二メートルに迫る巨体の突進を、恭介は剣一本で受け流していく。
しかし、体調が万全ではないからか、完全に勢いを殺すことはできない。
「ぐぅぅっ!」
直撃は避けられたが、剣と同時に体も大きく跳ね上げられてしまう。
『ジュジュジュジュ!』
するとベルゼブゥは急上昇からの急旋回をし、そのまま恭介へ追撃を試みた。
「やらせないわ!」
「体勢を立て直すのよ!」
「……分かって、いるさ!」
剣を交差させてベルゼブゥを受け止めた彩音と影星。
すぐに体勢を立て直した恭介が、今度は攻撃へと転じていく。
『ジュジュ』
ベルゼブゥは余裕の鳴き声を発すると、恭介の攻撃が届く前に再び急上昇してしまった。
「これは、マズいですね」
「長期戦をご所望のようね」
「……二人とも。僕はもう……ダメ、だ」
上空にいるベルゼブゥを睨みつけながら彩音と影星がそう口にすると、ついに恭介が倒れてしまう。
「矢田先輩!」
「来るぞ、風桐彩音!」
『ジュジュジュジュジュジュジュジュ!!』
恭介が倒れたのを見た直後、ベルゼブゥが勝負を決めるため急降下してきた。
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