第123話:まさかの光景

 隠されていた二重扉の入口へ足を踏み入れた途端、竜胆と国親は不思議な感覚に襲われた。


「なんだ、これは?」

「ちっ! 気配がまるで探れねぇぞ!」


 周囲には白い靄が漂っており、気配を探ろうとしても靄に遮られているのか、すぐ近くで気配察知の感覚が途切れてしまう。

 しかし、途切れてしまうのはこちら側の気配察知だけで、先ほどから伝わってきている強者の気配は今もなお、放たれ続けている。

 警戒しながら進んでいると、進んでいく先で竜胆が何かを見つけた。


「……国親、あれってもしかして」

「……おいおい、嘘だろ? あれは――プレイヤーじゃねぇか!」


 竜胆が見つけたもの、それは地面に横たわる多くのプレイヤーたちだった。


「大丈夫か? おい!」


 急いで駆け寄り声を掛けるが、誰一人として返事がない。


「脈は……あるな。死んじゃいねぇみたいだ」

「だけど、どうしてみんな、ピクリとも動かないぞ?」


 倒れているプレイヤーたち全員が、まるで死んでいるかのようにピクリとも動かない。

 国親が言ったように脈はあるが、呼吸が恐ろしいほどにか細く、耳を澄ませなければ聞こえないほどだ。


「状態異常か、もしくはモンスターのスキルなのかだろうな」

「死んでいないなら、まだ助かる可能性はある。それにここには、恭介たちの姿はない」


 竜胆が見た限り、恭介も彩音も影星の姿も見当たらない。


「……おい、新人。何か聞こえねぇか?」


 恭介たちの無事を願っていると、国親が口を開いた。


「……あぁ、聞こえた。これは……誰かが戦っている音だ!」

「いくぞ!」

「あぁ!」


 国親と共に駆け出していく竜胆。

 二人は耳にした戦闘音が鳴り響く方向へと走っていく。

 戦闘音は徐々に近づいてきており、接敵まであと少しというところまでやってきた――はずだった。


「くそっ! なんで遠ざかっていくんだ!」


 二人は間違いなく戦闘音のする方へ走っているはずなのだが、近づいていると思った音が徐々に遠ざかっていってしまう。

 戦っているだろう相手がこちらから離れているという可能性もあるが、それでもモンスターと戦いながら自分たちよりも早く離れていくことができるのかと考えると、その可能性はあまりにも低いはずだと考えてしまう。

 何かがおかしいと思った直後、前を走っていた国親が急に膝をついてしまう。


「国親!」

「……はぁ、はぁ……なんだ、こりゃあ」

「大丈夫か、おい!」


 竜胆が慌てて国親に駆け寄り顔を覗き込むと、彼の顔色が青白くなっていることに気づく。


「……新人は、大丈夫なのか?」

「あ、あぁ。俺はなんともない」

「……ってことは、俺にだけ作用する何かがあるってことか?」


 呼吸も段々と荒くなっていく。

 そんな中でも国親は冷静に頭を働かせようと、今まで見てきた情報を整理し始める。


(倒れていたプレイヤーたちには、見覚えがある。全員がランクの高い奴や、プレイヤー歴の長い奴だ。ランクは協会が勝手に定めたもんだから、モンスターには関係のないもんだ。ってことは、可能性があるなら歴か?)


 とはいえ、あまりにも情報が少なすぎる。もしも推測が間違っていたなら、竜胆に伝えるべきではない。


「……教えてくれ、国親。何かに気づいたんだろ?」


 だが、竜胆は国親の表情を見て、何かに気づいたのだと察することができた。


「……間違っている可能性の方が、高いぞ? それでも、いいのか?」

「構わない。何も分からない状況よりは、推測でもあった方がマシだ」


 竜胆の言葉を受けて、国親は自分の推測を口にしていく。


「……今の俺の状態は、倒れていたプレイヤーと、同じはずだ。おそらくだが、プレイヤー歴の長い奴から、やられているかもしれねぇ」

「プレイヤー歴の長さだって?」

「あぁ。だから、ベテランほど攻略が、難しくなる。んでもって、協会は危険だと判断したところから、ベテランを派遣していたはずだ。ランクの高い奴の多くは、ベテランだったりするからな」


 国親の推測を聞いた竜胆は、自分のプレイヤー歴があまりにも短いことからも、その推測は正しいのではないかと思い始めた。

 そして、同時に国親と同期である恭介が、すでに動けなくなっているだろうことにも気がついてしまった。


「……急げ、新人」

「だけど、お前を置いていくのは」

「他のプレイヤーも生きてんだ。そう簡単には、殺さねぇだろうよ」


 すでに立つこともままならなくなっている国親だが、その瞳には強い意志が感じられた。

 それは、何がなんでも生き残り、扉を攻略するという強い意志だ。


「……分かった。絶対に俺がボスモンスターを倒して、この扉を攻略して見せる」

「それとだ……こいつを、持っていけ」


 国親はそう口にすると、最後まで握りしめていたヴォルテニクスを竜胆に突き出した。


「いいのか?」

「今の俺じゃあ、何もできねぇからな。頼んだぜ……天地、竜胆」


 今まで『新人』としか呼んでいなかった国親が、意識を失う直前になって初めて『天地竜胆』と呼んでくれた。

 国親の意志を受け取った竜胆は立ち上がると、全速力で音のする方へと駆け出した。

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