第119話:星4の二重扉

 竜胆と国親が到着すると、そこにはすでに多くのプレイヤーが集まっていた。

 しかし、現時点で扉の外に集まっているプレイヤーの多くは中には入らず、スタンピードが起きた時に備えての予備隊だった。


「ここの責任者は誰だ?」


 竜胆がどうしたものかと考えていると、扉の攻略に慣れているのか、国親が大きな声で責任者の確認を始めた。


「わ、私です!」

「プレイヤー協会から援軍としてやってきた。中の状況は分かるか?」

「は、はい! ですが……あの、お二人でしょうか?」


 協会からの援軍と聞いて最初こそ嬉しそうに声を上げた責任者の男性だったが、その人数が二人しかいないわけがないと思い問い掛けた。


「今回は俺たちだけだ」

「……そ、そんな!」

「なんだ、てめぇ? 文句でもあんのか?」

「い、いえ! そのようなことは! ……あぁ、本当に大丈夫なんだろうか」


 心の声が漏れていると竜胆は思ってしまったが、特に言及することはなく、責任者の話を聞くことにした。


「協会からも説明があったかと思いますが、こちらは二重扉になっているかと思われます。中の構造は迷宮型なのですが、日を追うごとに魔獣の数が多くなっているようです」

「なんだと? なんでそんなことになる前に攻略できる奴を派遣しなかったんだ?」


 日を追うごとに魔獣が増えているということは、攻略難易度が上がるだけでなく、スタンピードに近づいているということだ。

 扉が解放されると同時に大量の魔獣が地上へと飛び出し、襲い掛かってくる。

 魔獣が襲うのはプレイヤーも一般人も関係ない。だからこそ、スタンピードが起きる前に扉を攻略するべきなのだ。


「私どもも今回の件は予想外の事態でして――」

「言い訳はいらねえ! おい、新人! さっさと中に入って恭介たちと合流するぞ!」

「その方がよさそうだな」


 責任者のずさんな扉の管理に辟易しながらも、国親は急ぎ攻略を進めようと提案し、竜胆も了承する。


「いや、しかし、二人だけでというのは」

「だったらなんだ? 他にもこの扉に入る気概のある奴がいるってのか?」

「誰か! 俺たちと扉に入るぞ! って奴はいるか!」


 責任者が止めようとしたので国親が睨みを利かせると、竜胆が同行者を募る。


「……いねぇじゃねぇかよ!」

「うっ! そ、それは……」

「俺たちは二人でも問題ない。行かせてくれませんか?」

「…………わ、分かりました。ですが、何かあっても私は止めましたからね! 責任は取りませんよ!」


 責任者の男性は保身を大事にしているのか、責任逃れの言葉をばらまいていく。

 さすがに呆れてしまった竜胆はため息を吐いてしまうが、国親は責任者の男性の発言を許さなかった。


「おい、てめえ!」

「ひいっ!?」

「……あとで協会に報告しておくからな。てめぇの発言は記録しているからな」

「な! い、いつの間に!」


 慌てふためいた責任者の男性が国親に向けて手を伸ばしたが、時すでに遅く彼は大股で歩き出しており、伸ばした手は空振ってしまう。

 そのまま勢いで責任者の男性は前のめりに倒れてしまうが、国親は当然だが、竜胆も気にすることなく歩いていってします。


「ったく、なんなんだよ、あいつは」

「協会にもああいった奴はいるってことだな。俺も面倒を被ったことがあったしな」


 そう口にした竜胆は、新人プレイヤー用の扉で起きた出来事を思い出してしまう。


「なんだ、新人も難儀させられてんのか?」

「まあ、そのせいで死にかけたからな」

「マジかよ! ……まあ、なんだ。何かあったら言えよ。少しは協会の奴らにも顔が利くからよ」


 何やら同情されてしまった竜胆は、苦笑を返すことしかできなかった。


「それにしても……なんつーか、星4とは思えねぇ雰囲気だな」

「あぁ。これがどうして星4なんだ? ……いや、日が経つごとに魔獣が増えて、扉の雰囲気も一変したんだろう」


 最初こそ普通の星4の扉だったのだろう。

 それが二重扉だったせいもあり攻略が進まず、日を追うごとに扉から放たれる雰囲気が変わっていったのだと竜胆は推測した。


「……だがまあ、俺らが攻略しちまえばおしまいだろ?」

「まあな。よし、それじゃあいくか!」

「おうよ!」


 竜胆が声を掛けると、拳を打ち合わせて国親が気合いを入れる。

 こうして竜胆と国親は、星4の二重扉へ足を踏み入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る