第118話:竜胆の同行者

「恭介は……圏外か。ってことは彩音も……だよな」


 恭介と彩音に連絡を取ろうとしたのだが、どちらも圏外で連絡が付かない。

 それはつまり、二人がすでに扉の中に入っていると考えるのが当然だ。

 影星へ連絡を付ける手段を聞いていなかった竜胆は、どうするべきかを考えた結果、もう一度協会ビルへ向かうことにした。


「あっ! 天地様!」


 協会ビルへ入ると、すぐに受付嬢である柳瀬青葉が竜胆の存在に気がついた。


「柳瀬さん、支部長に面会をお願いできますか?」

「もしかして、星4の扉への援軍要請についてでしょうか? それなら支部長から指示を受けています!」


 プレイヤー協会の東部地区の支部長を担っている堂村拳児は、竜胆が協会ビルへ戻ってくる可能性も考慮し、彼と面識がある青葉に指示を出していた。


「その通りです! 恭介や彩音はもう向かったんですよね?」

「はい。天地様が協会ビルを出てから数分後には、現地は向かわれています。こちらが例の星4の扉がある場所までの地図になります」


 差し出された地図を受け取ると、竜胆は僅かに表情をしかめた。


「……どうされたのですか?」

「……ここ、妹が入院している病院の近くです」

「えぇっ! ということは、妹さんが入院している病院って、東部総合病院ですか!」


 青葉の言葉に竜胆は険しい表情で頷く。


「攻略されれば問題ありませんけど、もしも今後も失敗が続いてしまえば……」

「最悪の場合、スタンピードが起こる可能性だってあります」


 手渡された地図を思わず握りつぶしてしまい、青葉がビクッと体を震わせる。


「あ……す、すみません」

「いえ、お気になさらず。……それで、どうしますか、天地様?」

「当然、向かいます」


 青葉が確認を取ると、竜胆は即答する。

 すると青葉は少しだけ思案顔を浮かべると、すぐに口を開いた。


「少々お待ちください。一緒に行っていただけそうなプレイヤーに声を掛けてきます!」


 そう口にした青葉が一度受付から離れると、残された竜胆に声を掛けてきた人物がいた。


「おい、新人」

「あなたは、国親さん」


 声を掛けてきたのは、恭介の同期でありBランクプレイヤーの猪狩国親だった。


「国親でいい。新人がいるのに恭介はいねぇのか?」

「そうか? 分かった。俺は別で用があって別行動をしていたんだ。その間に恭介と他のパーティメンバーは、星4の扉へ向かったよ」

「あぁん? 星4ってことは、例のやつか?」

「そうだと思う」


 竜胆が質問に答えていくと、国親は思案顔となり、しばらくして口を開く。


「新人も行くんだろう?」

「あぁ」

「即答か。なら、俺と行くか?」

「え? 国親とか?」


 まさか国親から同行を申し出られるとは思わず、竜胆は驚きの声を漏らしてしまう。


「なんだ、嫌なのか?」

「嫌ってわけじゃないんだが、最初の印象が悪すぎたからな」

「あー……まあ、それもそうか」


 竜胆との初対面を思い出したのか、国親は頭をガシガシと掻きながら申し訳なさそうな顔を浮かべる。


「……でも、今はそうでもないかな」

「あぁん? なんでだ?」

「この前、協会ビルの飲食スペースで恭介のことを聞いてきただろ? その時から印象が少しずつ変わってきてたんだ」

「そんなことか?」

「そんなことだ。それに、恭介も話し合いたいって言っていたからな」


 ここで恭介の名前を出すと、国親は顔をしかめてしまう。


「新人、まさかその時の話を恭介に話したのか?」

「最初の印象が悪かったんで、確認も含めてね」

「ったく、面倒なことを……だがまあ、今はどうでもいいか。どうするんだ? 行くのか、行かないのか?」


 改めて国親が問い掛けると、竜胆は思案顔を浮かべる。

 正直なところ、竜胆のスキルは隠すべきことが多すぎて、恭介たち以外のプレイヤーと行動を共にするのは気が引けてしまう。

 どうしても行動を共にする必要があるというのであれば、その人数は最小限であるのが好ましい。

 そう考えると、最初の印象こそ悪かったが、今ではそこらの有象無象と比べれば信頼度の高い国親と行動する方が、竜胆としては都合がよかった。


「……行こう」

「いいね、その答え。他の奴らも待つのか?」

「柳瀬さんには悪いけど、二人で行こう」


 竜胆がそう答えると、国親はニヤリと笑う。


「その答えも最高だ! 善は急げだ、さっさと行こうぜ!」

「あぁ、行こう!」


 こうして竜胆は国親と共に、恭介たちが攻略を始めただろう星4の扉を目指し移動を始めた。


「お待たせしました! 天地様……って、あれ? 天地様ー?」


 青葉が受付に戻ってきた時にはすでに竜胆の姿はなく、彼女はしばらく困惑顔を浮かべていたのだった。

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