第112話:合流
「恭介! 彩音!」
転移が完了したところで、竜胆は恭介と彩音の名前を叫んだ。
「竜胆君!」
「よかった、無事だったんですね!」
すると恭介と彩音も声を上げ、三人は再会の喜びを分かち合った。
「私たちは近い場所に落ちたのですぐに合流できたんですけど、竜胆さんの姿がなくって……」
「よく一人で生き残れた……ね…………えっ?」
彩音はずっと心配の言葉を竜胆に掛けていたが、恭介はこの場にいるはずのないもう一人の人物を見つけて困惑してしまう。
「……だ、誰?」
「えぇっ!? 本当だ、誰ですか、あなた!!」
恭介の問い掛けを聞いて、彩音もようやく影星の存在に気がついた。
「あー……まあ、説明は支部長からあるだろうし、言ってもいい……よな?」
影星の存在は現状、竜胆しか知らない。恭介と彩音が驚くのは当然のことだろう。
そんな竜胆の問い掛けに、影星は無言のまま頷いた。
「どうやらこの人……影星は、支部長が俺たちにつけていた監視役みたいなんだ」
「監視役ですって!?」
「影星だって!?」
「……ん? なんだか二人の驚くポイントがズレているような……?」
彩音は『監視役』に、恭介は『影星』という彼女の名前に驚きを露わにしている。
どうしてそうなったのか、特に恭介の反応が竜胆には気になってしまい、竜胆は問い掛けた。
「恭介は影星のことを知っていたのか?」
「いや、噂程度にしか聞いたことはないんだけど……堂村支部長直属のプレイヤーがいて、その人の名前が確か……影星」
「えぇっ!? ……でも、どうして支部長が監視なんか? もしかして私たち、何か疑われてませんか?」
恭介が質問に答えると、彩音は困惑しながらも拳児が影星を使って監視をしていたことに疑問を口にする。
「どういうことか、説明してくれるんだろうね?」
鋭い視線を影星に向けながら恭介が問い掛ける。
「もちろんよ。それも支部長から直々に説明させてあげるわ」
今にも倒れそうなはずの影星だが、恭介と彩音がいるからだろう、辛さを微塵も感じさせない態度でそう言い放つ。
「恭介も影星も落ち着いてくれ! 影星は俺を助けてくれたんだ! 最初はまあ、俺も疑っていたけど……でも、今はれっきとした仲間なんだよ!」
竜胆の言葉には恭介や彩音だけでなく、影星も驚きの表情を浮かべていた。
「……竜胆君、変わったね」
「……な、何がだ? 今、必要な話か?」
「だってー、私のことを信用してもらう時には、結構な時間が掛かったじゃないですかー!」
「私も驚きです。天地竜胆、あなたはもっと疑り深い人間だと思っていました」
三人からのまさかの意見に、緊迫した空気は一瞬で霧散し、最後に残ったのは竜胆はきょとんとした表情だけだった。
「……お、お前らなああああっ! 俺という人間をどういう風に評価してるのか、一から一〇まで説明してもらうかああああっ!」
そうして怒鳴り声を上げた竜胆を見て、恭介と彩音が笑い声を上げ、影星も声には出さないものの、その表情は笑みを浮かべていた。
扉攻略の報告だけでなく、拳児への説明要求をするため、竜胆たちはその足で教会ビルへと向かう。
竜胆たちが怒りを覚えるのは当然なのだが、四人の中で一番怒り狂っているのは何を隠そう、影星だ。
拳児からの無茶ぶりのせいで、今回も死にそうになったのだから、その怒りも納得できる。
しかし、そんな中でも拳児の指示に従っているのは、単純に報酬がいいからだけなのか。
実際のところ、影星の気持ちを知るものは彼女自身しかいないのだ。
「支部長に会う」
「えっ? あの、そ、それでは面会手続きを――」
「いい、そのまま行くわ」
「えぇっ!? あの、ちょっと!!」
いつもの影星であれば影魔法を使って密かに支部長室へ向かうはずだが、今回は真正面から、堂々と支部長室へ向かっている。
受付に立っていた青葉が困惑しながら止めようとしたのだが、そこへ彩音が声を掛けた。
「えっとー、柳瀬さん? 多分だけど、大丈夫だと思うよー」
「えぇっ!? どういうことですか、風切様!!」
影星は一切歩調を緩めることなく、まっすぐ支部長室がある一〇階へつながるエレベーターに乗り込んだ。
「説明は後で! もしくは支部長に直接聞いてちょうだいね!」
「し、支部長に直接!? そんなの無理に決まっているじゃないですか! ちょっと、風切様~!!」
竜胆は少しだけ青葉がかわいそうに思えてきたものの、ここで置いていかれるわけにはいかず、苦笑いを浮かべるだけで皆と一緒にエレベーターに乗り込むと、すぐに扉は閉まり上階へ移動を開始した。
「……よかったのか、影星?」
心配になった竜胆が影星に声を掛けると、彼女は鼻息荒く答えてくれる。
「ふん! これ以上支部長の言いなりになってやるものですか! 今回ばかりは、事前に示された報酬では納得できないからね!」
それはつまり、報酬が上乗せされれば納得すると言っているように聞こえてしまったが、口にすると影星の怒りの矛先がこちらに向いてしまうかもしれない。
(……黙っておくか)
思っていた言葉を心の内に留めると、エレベーター内は無言のまま移動を続ける。
そして、一〇階に到着して扉が開くや否や――影星は駆け出すと飛び蹴りで支部長室の扉を豪快に開けてしまった。
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