第111話:ジェルゲイル⑥
「……そん、な」
『……グララララアアアアッ!!』
目の前で砕け散る、疾風剣。
破片が宙を舞い、その先では涎を垂らして下卑た笑みを浮かべるジェルゲイル。
剣術系のスキルは当然、スキルの対象となる剣を手にしていなければ発動しないため、今の竜胆は完全な無防備状態といえる。
ドロップしたアイテムの中には疾風剣の代わりとなる剣がなく、竜胆が恐れていたことが現実になってしまった。
(くそっ、このタイミングかよ!)
実のところ、ジェルゲイルの爪と何度も打ち合っていた時から、疾風剣に刃こぼれが生じているのに気づいていた。
だからこそ勝負を急ぎ、短期決戦に持ち込みたかったが、結果は想定していた最悪が訪れてしまった。
「竜胆!」
だが、この場にいるのは竜胆だけではなかった。
響いてきた影星の声に顔を向けると、彼女は右腕を大きく振りかぶっていた。そして――
「受け取れええええっ!!」
そのまま投げられたのは、彼女が手にしていた短剣だった。
プレイヤーの筋力で投げつけられた短剣だ、普通であれば間一髪で避けることはできても、掴み取ることはできないはずだ。
――ガシッ!
だが、竜胆は意表を突かれただろう投げつけられた短剣を、あっさりと右手で掴み取ってみせた。
「さすがはスキル【上級剣術】だ。剣を扱うためなら、体が自然と動いてくれるな!」
コボルトの大量討伐によって行われたガチャによって、竜胆のスキル【中級剣術】は【上級剣術】に進化していた。
掴み取った短剣を素早く回転させて、鋭く横薙ぎを放つ竜胆。
疾風剣が砕けたことにより勝利を確信したジェルゲイルは、完全に油断していた。
『……ゾ、ゾンナ……バガ…………ナ…………』
短剣によって放たれた横薙ぎは、ジェルゲイルの首を捉えていた。
しばらくつながっていた首も、ジェルゲイルが最後の言葉を言い残したのをきっかけにズルリとずれ始めると、最終的にはボトリとその首を地面に落とした。
残された体は立ったまま硬直し、左腕は竜胆を殺さんと振り上げたままだ。
モンスターの生命力は人間と比べて異常に高い。
首を落とされた後も生きている場合があることを知っていた竜胆は、短剣を構えて警戒していたものの、目の前に現れたウインドウを見てホッと息を吐いた。
【初めての二重扉のボスモンスター討伐特典です。レアアイテム・装備、もしくはスキルを獲得します】
今の竜胆にとっては、スキルよりもレアアイテム、もしくは装備がいいなと思ってしまう。
何故なら現状のスキルに満足しており、もしも使えるスキルでなければ、それは削除することとなり、せっかくの特典ガチャが無駄になってしまうからだ。
【レアアイテム【ジェルゲイルの召喚石】を獲得しました】
「……召喚石だって?」
聞いたことのないアイテムに、竜胆は首を傾げてしまう。
詳細を確認したい気持ちもあったが、今はそれよりも先にやるべきことがある。
「大丈夫か、影星!」
短剣を投げてくれたおかげでジェルゲイルを倒すことはできたが、そのせいで影星は武器を失ってしまった。
コボルトが弱いモンスターだとは言っても、数の暴力に屈しないとも限らない。
慌てて駆け出そうとした竜胆だったが、その心配は杞憂に終わった。
「問題ないわ。私がコボルトごときにやられるとでも? それに、武器は一振りだけじゃないのよ」
影星は予備で持っていた短剣に持ち替えて、残りのコボルトを全て倒してしまっていた。
しかし、余裕がある風を装っているが、その顔色はあまり良くない。
失いすぎた血液のせいで、貧血症状が現れていた。
「強がるな。肩を貸すから、一緒にダンジョンコアを探すぞ」
「いらないわ。少し休めば良くなるから、あなただけで探しに行ってちょうだい」
「……本当に、大丈夫なんだな?」
影星の言葉が強がっているように聞こえ、竜胆はもう一度確認を取る。
「大丈夫だと言っているでしょう」
「……分かった。それなら、ポーションをありったけ近くに置いておくから、何かあったら使うんだぞ?」
「はいはい、分かりました」
頑なに心配してくる竜胆に向けて、影星は手であっちへ行けと、追い払うような仕草を見せる。
竜胆も早くダンジョンの外に出て病院へ連れて行く方が効率的かと思い至り、すぐに行動へ移した。
それから時間は掛からず、竜胆はダンジョンコアを見つけることができた。
「なんだ、ジェルゲイルがいたフロアの一つ奥にあったのか」
複雑じゃなくてよかったと胸を撫で下ろしながら、竜胆はダンジョンコアに目を向けた。
「……ここの扉は、武器がコアになっていたのか」
星3の扉は破壊が必要なダンジョンコアだった。
星6の扉はコロッセオで宝物庫でエリクサーを手に入れることができた。
そして今回の星5の扉は、レア装備がダンジョンコアになっていた。
「まさか、疾風剣が砕けた後に、また剣を手に入れることができるなんてな」
レア装備のダンジョンコアは剣であり、竜胆は持ち帰ろうとしていた半ばから砕けた疾風剣に視線を落とした。
「……今までありがとう、疾風剣。ゆっくり、休んでくれよ」
そんな言葉が自然と零れ落ち、竜胆は疾風剣を腰の鞘に戻すと、視線をダンジョンコアの剣に向けた。
「お前が俺の新しい相棒になってくれるのかどうか……頼むぞ!」
そうしてダンジョンコアに手を伸ばし、その柄を握りしめると、台座から引き抜いた。
直後、地面が大きく揺れ始め、入口までの転移が始まるため竜胆の体から光が放たれる。
「……不滅剣、デュランダル。はは、今の俺にはぴったりの剣かもしれないな」
疾風剣が砕けた後に手に入れたのが、不滅剣デュランダル。
竜胆はデュランダルに不思議な縁を感じながら、扉の入口へと転移したのだった。
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