第109話:ジェルゲイル④

【緊急要請につき、戦闘中のスキル【ガチャ】の発動を承認しました】


 ウインドウのメッセージを確認した直後、大量のドロップアイテムが魔法陣から吐き出されていく。


『アレ、ナニ? アレ、シラナイ!』


 余裕の表情から一変し、ジェルゲイルは驚きの声を上げた。


「影星! これを使え!」


 ドロップしたアイテムの中から中級ポーションを見つけた竜胆は掴み取ると、すぐに衛星めがけて投げつけた。

 腕を伸ばして中級ポーションを受け取った影星は、すぐに蓋を開けて頭からかぶる。


「……助かったわ、天地竜胆」


 全身から眩しい光が放たれると、傷が一瞬にして塞がり、影星はすぐに立ち上がった。


『グルルルルゥゥ。コロセ! オンナモ! オトコモ! コロセエエエエッ!!』


 眼光鋭く竜胆と影星を睨みつけたジェルゲイルが叫ぶと、二の足を踏んでいたコボルトたちが再び動き出す。

 しかし、この時点で竜胆のスキル【ガチャ】の結果は出ており、彼は大きく息を吸い込むと、鋭く疾風剣を振り抜いた。


 ――ズバッ!


『――!?』


 コボルトを相手に竜胆が後れを取ることはないだろう。複数で囲んだとしても、長期戦にならなければ問題はない。

 だが、今回の一振りは今までのキレとは桁違いの鋭さを持っており、遠目から見ていたジェルゲイルも目を見開いていた。


「……進化、完了だ」


 竜胆が纏う雰囲気が、星5の扉に入った時と比べて明らかに変わった。

 その雰囲気に影星は驚きの表情を浮かべるとともに、この場から生きて戻れるかもしれないという希望にもつながっていた。


「これは、私も頑張らないといけないな!」


 ここに至り、影星は奥の手を繰り出していく。


「影魔法――影分身」


 自らの影から二つ、漆黒の物体が現れると、その物体が輪郭だけ影星とまったく同じ姿に変わった。


「天地竜胆。ザコの相手は私が引き受ける。お前は親玉、ジェルゲイルを倒してくれ」

「手柄を貰ってもいいのか?」

「もともと私はいない人間だ。貰うも何も、私の手柄など必要ない」


 軽口を言い合えるくらいには余裕を持つことができるようになってた。

 だが、二人とは対照的に余裕がなくなっているジェルゲイルは、怒りに体が震えだし、ついに重い腰を上げて一歩を踏み出した。


『オレ! コロス! オレガ! コロシテヤル!』

「こっからが本気の勝負だ。やろうぜ、ジェルゲイル!」


 竜胆とジェルゲイル。

 お互いに目が合うと、同時に駆け出した。

 周りのコボルトが竜胆を襲おうと動き出すが、そこへ影星と影分身が立ちはだかる。


「彼の邪魔はさせないわ!」


 影星の強さそのままというわけにはいかないが、影分身の実力はコボルトを相手にするには十分すぎるものがあった。


「長くはもたないわよ、天地竜胆!」

「分かった!」


 影分身は影魔法の中でも魔力を大量に消費する魔法の一つだ。

 今の影星が維持できる時間は最長で五分。展開によってはさらに短くなるかもしれない。

 さらにいえば、竜胆も影星も血を流しすぎている。

 ポーションを使い、見た目だけは傷のない体になっているが、失った血液まで再生されるわけではないのだ。


(短期決戦、上等じゃないか! どのみち時間を掛けていたらこっちが不利なんだからな!)


 影星のおかげでジェルゲイルまでの障害はなくなった。

 それはジェルゲイルも同じで、両手の爪を打ち鳴らしながら大きく振りかぶる。


『ガルアアアアッ!!』

「はああああっ!!」


 お互いの渾身の一撃がぶつかり合う。


 ―― バキイイイインッ!


『ナ、ナゼ!? アリエナイ、アリエナイ!』


 今までの戦闘において、一度も砕けることのなかったジェルゲイルの爪が一本、衝撃に耐えきれず砕け散った。

 まさか砕けるとは思っていなかったジェルゲイルは、驚きの声を上げながら思わず一歩後ずさる。


「引いたな?」


 ジェルゲイルの姿を見た竜胆はニヤリと笑い、逃がさないといわんばかりに大きな一歩を踏み出して間合いを詰める。


『ニ、ニゲナイ! オレ、ニゲルワケナイ!』


 ハッとした表情を浮かべたジェルゲイルがそう口にするも、一度刷り込まれた恐怖を覆すには至らない。

 最初の邂逅からまったく異なる雰囲気を纏った竜胆に、ジェルゲイルは完全に気圧されていた。


(……ちっ! 思いのほか、硬いな!)


 今の攻防から自身の有利を確信した竜胆だったが、同時に懸念点に直面してしまう。

 だが、ここで攻撃の手を緩めてしまうとジェルゲイルが恐怖を打ち払ってしまうかもしれない。


(どちらが先に砕けるか……勝負所だ!)


 疾風剣を握る手に力を込め、竜胆はさらなる一歩を踏み出した。

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