第101話:思いのほか……
『……グルルルルゥゥ』
ボスモンスターの正体は、複数のコボルト上位種を従えたコボルトパラディンだった。
「従えているのはコボルトレンジャーにナイト、それにマジシャンもいるぞ」
「マジシャンはすでに詠唱済み、いつでも魔法を放てる状態だね」
「私のスキルは発動しておきますね」
それぞれがボスの状況を確認し、適切な行動を取っていく。
竜胆と恭介は剣を構えながら動き方の確認を取り、彩音はスキル【全体指揮】を発動させた。
『グルオオアアアアァァッ!!』
『『『『グルオオアアアアァァッ!!』』』』
直後、コボルトパラディンが大咆哮を上げ、他のコボルトたちが一斉に襲い掛かってきた。
最初に仕掛けてきたのはコボルトマジシャンだ。
火、水、風、土の四属性の魔法が竜胆たちへ降り注ぐ。
「散開!」
竜胆が声を発すると同時に三人は別方向へ駆け出していく。竜胆は正面、恭介は右、彩音は左だ。
『グルガアアアアッ!』
真っ先に接敵したのは、正面に駆け出した竜胆だった。
「どらあっ!」
鋭い一閃がコボルトレンジャーの首を刎ね飛ばすが、一匹だけで襲撃は終わらない。
二匹、三匹と、続けざまに竜胆へ襲い掛かっていく。
「竜胆さん!」
「こっちは任せろ! 彩音と恭介はコボルトパラディンを頼む!」
「挟み込むよ、彩音さん!」
コボルトたちの作戦は、一人ずつ確実に仕留める、というものだと竜胆は判断した。
ここで自分がコボルト上位種を一手に引き受けることができれば、彩音と恭介がコボルトパラディンを相手に二対一の状況を作ることができる。
「お願いします、竜胆さん!」
「すぐに終わらせるから、絶対に死なないでくれよ!」
一気に加速してコボルトパラディンへ迫る彩音と恭介。
そんな二人を横目に、竜胆はコボルトレンジャーとナイトに囲まれ、遠くから魔法をいつでも放てる状態のマジシャンの視線を集めていた。
「……来いよ、ザコ共。死にたい奴から掛かってこい!」
竜胆が殺気を放出すると、コボルトたちが一瞬だけ怯んだ。
直後、竜胆は駆け出して一番近くのコボルトナイトを鎧ごと両断する。
しかし、そこで立ち止まることはせず、竜胆はそのまま駆け抜けていく。
『ガ、ガルアッ!?』
「邪魔なんだよ、マジシャンは!」
最初のコボルトナイトは進行方向に立っていたから斬り殺されただけで、竜胆の狙いは最初からコボルトマジシャンだった。
慌てて魔法を放ったコボルトマジシャンだったが、狙いが定まることはなく、竜胆は速度を落とすことなく避けながら、マジシャンを間合いに捉えた。
「魔法は店じまいにしな!」
鋭く何度も振り抜かれた疾風剣が、三匹いたコボルトマジシャンの首を一瞬のうちに刎ね飛ばした。
『ガルアアアアッ!!』
怒り狂ったコボルトレンジャーとナイトは、連携など皆無の状態で竜胆は突っ込んできた。
「よしよし、これでいいんだよ!」
ニヤリと笑った竜胆は、殺到するコボルト上位種を相手に嬉々として疾風剣を振るった。
「はっ!」
「はあっ!」
『ガルアアッ!』
コボルトパラディンは猫背ではあるものの、そのままの姿勢でも体長は二メートルに迫っている。
その手には巨大な大剣と大盾が握られており、彩音の恭介の攻撃を巧みに受け止めていた。
「時間を掛けるわけにはいかない、スキルを使うよ!」
「私も使います!」
恭介がスキル【戦意高揚】を発動させると、彩音もスキル【風林火山】で攻勢に出る。
「スキル【風】」
「はああああっ!!」
『ガルオオオオッ!?』
全体的に身体能力が上がった恭介と、速度上昇のスキル【風】を発動させた彩音の動きに、コボルトパラディンはついていけなくなっていく。
星5の扉のボスモンスターだが、二人は完全に圧倒している。
それは何故か――コボルトパラディンが単独でのボスではなく、コボルト上位種を含めてのボスだったからだ。
コボルトパラディン単独の強さはそこまで高くなく、コボルト上位種を竜胆が一手に引き受けており、さらに彩音と恭介が実力者だったことが、今回の扉の攻略にバッチリはまっていた。
『ガ、ガルオオアアアアッ!!』
堪らず咆哮を上げたコボルトパラディンは、竜胆を攻撃していたコボルト上位種を集めるつもりだった。
『……ガ、ガルア?』
しかし、コボルト上位種は一匹も集まってくる気配はない。
彩音と恭介の猛攻になんとか耐えながら、横目に竜胆の方へ視線を送る。
『……ガ……ガルアァァ?』
従えていたコボルト上位種の全てが、竜胆によって全滅させられていたのだ。
「なんだ、思いのほか余裕だったな」
『ガ、ガガ、ガルオオアアアアァァアア――!?』
竜胆が挑発的な笑みを向け、コボルトパラディンが怒りの大咆哮を上げる。
だが、大咆哮は最後まで続かず、気づけば彩音と恭介の剣がパラディンを前後から両断し、その肉体を三枚におろして絶命した。
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