第96話:高度な気配察知
「それじゃあまずは、気配察知からやってみてくれるかい?」
「分かった」
恭介に指示すれば実戦に身を置きながら実力を付けられる、そう感じた竜胆は言われた通りに気配察知を開始した。
「…………いた」
「大きさとかも分かるかい?」
「……ちょっと待ってくれ」
「ゆっくりとでいいよ」
気配察知に集中していく竜胆は、完全に無防備となっている。
仲間を信頼しているからこそ、この状況を受け入れ、成長することに全力を注ぐことができていた。
「……一匹は、俺の膝上くらいの大きさ。もう一匹は……腰くらいまであるか?」
「正解だよ、竜胆君」
「ぷはっ! ……これは、簡単にはできないな」
短時間ではあるが全神経を注いだことで、竜胆の額には汗が滲んでいる。
「まさか、一回目でそこまで分かるだなんて、驚いたよ」
「……俺はスキルの力もなしにこれ以上のことを難なくやっている恭介に驚いたがな」
「僕の場合はそういう環境で育ったからね、仕方がなかったのさ」
「ったく、簡単に言ってくれるよ」
汗を拭いながらそう口にした竜胆だったが、恭介からは次の課題が口にされる。
「それじゃあ今度は、そのモンスターがいったいなんなのか、それを当ててもらおうかな」
「おいおい、それはさすがに難易度が高すぎるんじゃないか?」
竜胆は顔を引きつらせながらそう口にするが、恭介は首を横に振った。
「竜胆君ならできるさ」
「何を根拠にそんなことを?」
「気配察知が第一段階、これくらいなら誰にでもできる。そこから気配の大きさや対流を探るまでが第二段階。そして、相手がどんなモンスターなのかを判別するのが第三段階、ここが一番難しいんだけど……」
そこで恭介は言葉を切る。
現状、竜胆は第二段階をかろうじてクリアしたところであり、その精度はまだまだ低い。
先に第二段階を確実にするべきではないかと思っていたのだが、恭介がそれでも第三段階の話を始めたのには理由があった。
「……竜胆君って、モンスターの情報を頭の中に叩き込んでいるよね?」
「まあ、そうだな。プレイヤーになりたくて、そういった本も読み漁っていたし」
「そこなんだよ!」
竜胆の言葉を遮るようにして恭介が叫んだ。
「……な、何がそれなんだ?」
「モンスターの知識! それが第三段階には最も重要になってくるんだ!」
「……そうなのか?」
まさかの答えに竜胆は呆気に取られてしまう。
「僕も含めてなんだけど、プレイヤーの人たちって、実戦で学ぶことがあまりに多くて、座学を疎かにする人が多い気がするんだ。だから、気配察知でモンスターの姿形が分かったとしても、そのモンスターを特定することができないんだ」
「まあ、その目で見て判断した方が早いだろうからな」
「でも、先にモンスターの種類が分かって、対処できるなら、その方が生き残れる可能性が高くなると思わないかい?」
「それはまあ、その通りだな」
竜胆も好きでプレイヤーやモンスターについての知識を貯め込んでいたわけではない。目的を達成するため、必死になって本を読み漁っていた。
その結果が、気配察知の第三段階に直結していたのだ。
「竜胆君の知識の中でいい、今回のモンスターはなんだと思う?」
恭介に尋ねられ、竜胆は考える。
(……人間のように二足歩行をしているが、サイズは小さい。だが、ここは星4の扉だ。小さいからといって、弱いモンスターだと決めつけるのもマズいか)
そこまで思案した竜胆は、いくつかの候補を口にしていく。
「……星4の扉だということを加味して、ゴブリンやコボルトの上位種あたりか?」
竜胆の回答に恭介は満足気に頷いた。
「正解だと思う。僕も同じ答えだからね」
「それなら、より強いコボルトの上位種を想定して動くべき、ということだな?」
「うん。理解が早くて助かるよ」
恭介は嬉しそうに頷き、視線を彩音に向けた。
「彩音さんもそれでいいかな?」
「えっ? あ、はい! もちろんです! よーし、頑張るぞー!」
声を掛けられた彩音が不自然なまでに元気よく答えたため、竜胆は怪訝な表情を浮かべる。
(わ、私が座学を嫌ってモンスターを知識が少ないだなんて、矢田先輩には知られたくないわ!)
恭介が語っていた座学に対するプレイヤーたちの態度について、自分にも当てはまるなと思い聞いていた彩音は、妙に空回りしてしまう態度を取ってしまった。
「コボルト上位種への対応だけど、これに関してはみんな、問題ないよね?」
「問題ない」
「私もです!」
全員の返事を聞いた恭介は、視線を竜胆に向けた。
「合図を頼むよ、リーダー」
「今の感じなら、恭介がリーダーをやるべきじゃないか?」
「僕はあくまでも指導係さ」
「物は言いようだな。まあ、いいさ。それじゃあ二人とも、星5の扉での最初の戦闘だ。気合を入れていくぞ!」
竜胆を先頭に、三人はモンスターの気配がある場所へ慎重な足取りで進み出した。
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