第95話:迷宮型の異世界

「……今回は、普通のフィールドだな」


 星6の扉がコロッセオだったため、今回はどうなるかと警戒していた竜胆がそう口にした。


「……いや、そうでもないかも」

「そうですね」


 しかし、恭介と彩音の意見は違っていた。


「そうなのか?」

「うん。ここはおそらく迷宮型の異世界だね」

「二回連続で脱出不可の扉なんて、ありなんですか?」

「……脱出不可だって?」


 彩音の言葉を聞いて竜胆が困惑の声を漏らした。


「攻略しなければ脱出できない、そういう意味だよ」

「新人プレイヤー用の扉とか、フィールドタイプの異世界だと、元の世界に戻る扉が残っていたじゃないですか」

「確かに。……ここは、ないな」


 竜胆は入ってきた扉があるべき後方を振り返ったが、そこに扉は存在していない。

 扉がないことと、周囲が古びた壁であること、コロッセオのように一室ではないことを加味し、恭介と彩音は判断していた。


「マジか。……これ、鏡花が助かったあとで本当によかったよ」

「本当にそうですね」

「迷宮型の異世界は、ものにもよるけど攻略達成まで何日も掛かる場合があるからね。本当によかった」


 安堵の息を吐きながらも、時間が掛かると分かれば時間を無駄にしている暇はない。


「早速進むか」

「鏡花ちゃんとの再会を遅らせるわけにはいかないからね」

「矢田先輩の言う通りです!」

「いや、別にそう言う理由から急ごうと思ったわけじゃないぞ?」


 恭介と彩音が微笑みながらそう口にしてきたことで、竜胆は苦笑しながら返事をする。

 とはいえ、早く攻略できればそれに越したことはなく、宣言通り竜胆たちは通路を進み始めた。


「役割分担をしよう。僕が斥候をやるから、彩音さんがそのサポート、竜胆君は後方を警戒してくれるかい?」

「分かりました!」

「面倒を掛けるな、恭介」


 実力と経験があまりにアンバランスは竜胆は、恭介や彩音に負担を掛けていることを申し訳なく感じていた。


「気にしないでよ。経験は扉を何度も攻略しないと得られないものだからね」

「それはそうだが、なんだか申し訳なくてな」

「それなら今回の攻略で、僕が斥候のやり方を教えてあげるよ」

「……いいのか?」


 まさかの提案に竜胆はありがたさを感じると共に、技術をこうも簡単に教えてもらっていいのかと遠慮してしまう。


「竜胆君が強くなってくれれば、僕が楽をできるからね」

「私も楽がしたいです!」

「……ったく、お前たちは。分かった、そういうことにしておくよ。恭介、よろしく頼む」


 竜胆が気負わないようにと冗談を交えてくれた恭介に、彩音が乗っかり雰囲気が明るくなる。

 そんな二人の気遣いに感謝しながら、竜胆は恭介に教えを乞うことにした。


「そうなると、彩音さんに後方を見てもらった方がいいかな」

「すまんな、彩音」

「構いません! 頑張ってくださいね、竜胆さん!」


 元気よく返事をした彩音に後方を譲り、竜胆は恭介と並び前を行く。


「スキル【中級剣術】を持っているから、気配を探ることはできるよね?」

「それはできる」

「なら、その気配がどのような姿形をしているかまで、分かるかな?」

「いや、そこまでは……というか、分かるものなのか?」


 気配察知だけで姿形まで分かるものなのかと、竜胆は驚きの声を漏らす。


「できるよ。相手が纏う気配、それがどのような大きさなのか、どのように対流しているのか、それを感じ取ることができれば可能さ」

「……それはなかなか、ハードなことを言うな」

「スキルの助けを得られるんだ、簡単だよ」


 恭介の言葉を受けて、竜胆はゾッとしてしまう。


「……ちょっと待て、恭介」

「ん? どうしたんだい?」

「お前、まさかスキルの力とか関係なしに気配を探って、相手の姿形まで分かるって言っているのか?」

「そうだよ? まあ、プレイヤーに覚醒してからより分かるようになったけど、スキルの力は借りてないね」


 さも当然かのように言ってのけた恭介を見て、竜胆は彼の化け物じみた能力に驚愕してしまう。


(……これはもしかすると、とんでもない奴を復活させてしまったんじゃないか?)

「本当にどうしたんだい、竜胆君?」

「……い、いや、なんでもない」


 そして、恭介は竜胆が何に驚いているのか気づいておらず、首をコテンと横に倒した。


(矢田先輩、何も変わってないな~)


 彩音はそんなことを考えながら、驚愕する竜胆と首を傾げている恭介を眺めていた。

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