第94話:星5の扉
竜胆たちが協会ビルの一階に移動すると、すぐに青葉から声を掛けられた。
「お疲れ様です! 支部長から話は聞いておりますので、こちらをお受け取りください!」
そう言って渡されたのは、星5の扉までの地図だった。
「仕事が早いですね」
「これでも仕事のできる職員ですからね!」
「その割には、竜胆さんが登録に来た時はテンパっていたように見えましたけどー?」
「ちょ、ちょっと、風桐様~!」
大きく胸を張った青葉に対して彩音が茶化すように言うと、青葉は恥ずかしそうに声をあげた。
「早速向かおうか」
「そうだね」
「行きましょう!」
「皆様、お気をつけて!」
青葉の言葉を背に、竜胆たちは協会ビルをあとにした。
星5の扉へ向かう道中、竜胆は飲食スペースで行われた国親とのやり取りを恭介に伝えた。
「……国親がそんなことを?」
「あぁ。なんだか、恭介のことを心配しているように見えたが、実際のところ二人の関係ってどうなんだ?」
竜胆から話を聞いた恭介は信じられないといった表情を浮かべ、すぐに思案顔に変わる。
「……最初の頃は仲が良かったんだ。切磋琢磨して、お互いに競い合っていたくらいさ。でも、前にも話した通り、僕が先にCランクに上がったのを機に、距離を取られてしまってね。それ以降は嫌われていると思っていたんだけど」
「それじゃあ、実際に口喧嘩をしたり、仲が悪くなるきっかけがあったわけじゃないんですか?」
「思い返してみると、なかった気がするな」
竜胆が口を挟む問題ではないかもしれない。
しかし、国親の態度を目の当たりにした竜胆からすれば、二人の関係はどうにもむず痒いものがあった。
「攻略が終わってからでもいい、一度腰を据えて話し合ってみたらどうだ?」
「僕が国親とかい? うーん、どうだろう。断られるんじゃないかな?」
「それならダメもとで誘ってみたらいいんですよ! 誘ってみないと、何も分からないじゃないですか!」
「それはそうだけど……まあ、考えておくよ」
苦笑しながら恭介はそう言うが、竜胆はなるべく早い方がいいと思っている。
それは二人がプレイヤーだからという理由に他ならない。
「……なあ、恭介」
「どうしたんだい、竜胆君?」
「俺たちはプレイヤーで、国親もそうだ。だから、いつ死ぬかも分からない活動をしている、そうだろ?」
「……まあ、そうだね」
「それなら、動ける時に動く、話し合える時に話し合う、その方がいいんじゃないか?」
命の補償はどこにもない職業、それがプレイヤーだ。
星1の扉ですら、油断すればあっという間に死んでしまうかもしれない世界で、次があるのかどうかなんて分からない。
考えておく、そうして時間だけが過ぎ、どちらかが死んでしまえば、それはもう確認のしようがなくなってしまう。
竜胆の言わんとしていることに気づいた恭介は、一瞬だけ驚いたような顔を浮かべたが、すぐにニコリと微笑んだ。
「……そうだね。分かった。星5の扉を攻略したら、僕から国親に連絡を取ってみるよ」
「ちなみに、連絡先って知っているんですか?」
「うん、残ってる。まあ、変わっていなかったらだけどね」
「連絡してみて、それがダメなら協会ビルで張り込んでもいいけどな」
「そ、そこまでする必要、あるかな?」
「ありますよ! 仲良くできるなら、それに越したことはないですからね!」
こういう時、彩音の性格はありがたいと竜胆は思っていた。
自分ならここまで強く、それも明るく提案することはできなかったかもしれない。
彩音の雰囲気が恭介の思考を柔らかくさせてくれ、連絡してみようという思いに至らせたのだと考えていた。
「分かった、分かったよ。まったく、彩音さんは押しが強いね」
「性格ですから仕方ありませんね!」
「そこは自慢するところなのか?」
「自慢するところですよ、竜胆さん!」
傍から見れば、これから扉を攻略しに向かうプレイヤーとは誰も思わないだろう。
仲の良い友人三人が談笑しながら歩いている、そんな風景だ。
しかし、彼らはこれから命を危険に晒しながら、扉の攻略へ挑むことになる。
適度に弛緩した緊張感が大事なのだと、恭介や彩音はもちろん、プレイヤーとしての活動期間が短い竜胆ですら感じていた。
「あっ! 見えてきましたよ!」
彩音が声をあげた。
示された先にあるのは、異世界へと続く巨大な扉。
星の数は、間違いなく5を示している。
「油断せず、確実に攻略していこう」
「なるべく竜胆君が倒せるよう、カバーするよ」
「私もです! よろしくお願いしますね、竜胆さん、矢田先輩!」
そして、竜胆たちは緊張の糸をピンと張り詰めさせた。
扉に入った直後からモンスターに襲われる可能性もあるからだ。
「それじゃあ――いくぞ!」
こうして竜胆たちは、星5の扉に足を踏み入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます