第97話:スキル【魔法剣】

「……いたぞ」


 進んだ先には竜胆が予想した通り、コボルトの上位種がたむろしていた。


「コボルトレンジャーに、コボルトナイトか」

「罠にも警戒が必要になりますね」


 小柄な方がコボルトレンジャー、やや大きい方がコボルトナイトだ。

 コボルトレンジャーは周囲を警戒しているのか、頻繁に鼻をひくひくさせており、敵が近づいてきていないか確認を行っている。


「それにしても、恭介のマジックバッグには本当にいろいろなものが入っているんだな」


 どうして竜胆たちが周囲を警戒しているコボルトレンジャーに気づかれていないのかというと、恭介が用意してくれたアイテムが役に立っていた。


「消臭香は僕らの匂いを消してくれるからね。コボルト対策にはもってこいなんだ」

「そのうち未来のロボットとか出てくるんじゃないですか?」

「なんだい、その斜め上をいく発想は?」


 恭介がアイテムについて答えていると、彩音が謎の意見を口にしたので困惑顔を浮かべる。


「ネコ型ロボットみたいなことを言っていないで、集中してくれよ?」

「いや、僕が言ったんじゃないんだけどなぁ」

「はーい」


 竜胆が呆れたように呟き、恭介は巻き込まれた形で愚痴をこぼしたが、彩音は明るい声で返事をしてくれた。


「レンジャーの相手は恭介にお願いしたい、頼めるか?」

「もちろんだよ。罠の位置もすでに把握済みだよ」

「さすがだ」


 他愛のない会話をしている間も、恭介はコボルトたちがいるフロアの状況を確認していた。

 妙な凹凸があったり、見えずらい線が張られていたり、罠の位置を見極めていた。


「彩音は周囲の警戒を頼む」

「竜胆さんがナイトの相手をするんですか?」

「あぁ。試してみたいこともあるからな」


 そう口にした竜胆は、ステータス画面のスキル覧に映し出されている一つのスキルに目を向けた。


「イグナシオを倒した時に獲得したスキル【魔法剣】だ」


 スキル【下級土魔法】を削除した竜胆だったが、それは魔力があまりにも少なすぎて使い勝手が悪かったからだ。

 スキル【魔法剣】にも同じ懸念はあるが、剣をメインに戦っている竜胆にとっては、使い方次第で強力な力を手にすることができると考えている。


「魔法剣か、確かに試しておきたいスキルだよね」

「羨ましいです」

「彩音のスキルも十分強力なスキルだと思うけどな」


 そんな話をしながらも、竜胆たちは臨戦態勢を整えていた。


「さて……それじゃあ、やるか」

「了解。いってくるよ」


 最後にそう口にした恭介が小さく息を吸い込むと、目を見開くのと同時に一気に駆け出した。


『ガルアッ! オオオオンッ!』


 恭介がフロアに姿を見せた途端、コボルトレンジャーが気づいて振り返り、仲間に知らせるため遠吠えをあげる。

 フロア内にいたコボルトが一斉に恭介を見たが、彼は速度を緩めることなく一番近くのコボルトレンジャーめがけて剣を振り抜いた。


『ガビャッ!?』


 コボルトレンジャーの首が宙を舞い、その首が設置していた罠の上に落ちた。


 ――ドゴオオオオンッ!


 爆弾が設置されていたのか、首を木っ端みじんにするほどの爆発が起き、砂埃がフロアへ広がっていった。

 続けざまに恭介は別のコボルトレンジャーへ駆け出し、罠を回避しながら突き進んでいく。


「俺もいくかな」

「気をつけてくださいね、竜胆さん」

「任せろ」


 竜胆は砂埃の中へ突入し、気配察知を頼りにコボルトレンジャーを避け、コボルトナイトの方へ向かっていく。


『……ガルルルル』


 すると、コボルトナイトも竜胆の存在に気づいていたのか、唸り声をあげながらこちらを見ていた。


「よう。一対一でやり合おうぜ?」

『ガルアアアアッ!』


 竜胆がそう口にした直後、コボルトナイトが強靭な脚力を活かして突っ込んできた。

 右手に持つ剣を振り上げ、勢いよく振り下ろされる。

 対して竜胆は疾風剣を切り上げて鍔迫り合いとなるが、コボルトナイトの武器は剣だけではない。


『ガアアアアッ!』


 大きな口を開け、鋭い牙が竜胆の間近に迫ってくる。


「くらえ! 魔法剣!」


 直後、疾風剣から強烈な風が吹き荒れた。


『ガルアッ!?』


 突風がコボルトナイトの口の中に吹き荒れ、かまいたちとなり切り裂いていく。


『ゴガッ、ガアアァァッ!?』

「まだまだああああっ!」


 疾風剣にかまいたちを纏わせながら、竜胆はコボルトナイトへ斬り掛かっていく。

 コボルトナイトの体がかまいたちによって切り裂かれていく中で、疾風剣による強烈な一撃により勝利を確実なものにする。


(これは、俺にとって最高のスキルだな!)


 かまいたちに翻弄され続けていたコボルトナイトは、疾風剣による一撃を防ぐことができず、そのまま胴体を上下に分かつ結果になった。

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