第89話:それぞれの思惑

 ――時を少し遡り、竜胆たちが星6の扉から戻ってきた同時刻。


「……ちっ、攻略しやがったか」


 物陰に隠れながら舌打ちをしたのは、恭介と同期の国親だった。

 国親は竜胆たちが攻略に失敗した時に備え、星6の扉の近くで待機していたのだ。


「……いるんだろう、国親」


 そんな国親へ、扉の崩壊を最後まで見守っていた恭介が声を掛けた。

 見られていないはずだと思った国親だが、彼もまた恭介の実力を理解しているからこそ、気配を感づかれたのかと分かり素直に姿を見せた。


「やっぱりいたね」

「気づいていったんじゃなかったのか?」

「国親の性格なら、着ていると思っていただけだよ」

「ちっ! ふざけやがって」


 気配で気づかれていると思いきや、まさか自分の性格を読まれていたと分かり、国親はもう一度舌打ちをした。


「僕たちが失敗するのを期待していたのかい?」

「あぁ、そうだよ。別のザコに扉を横取りされたくなかったからな」

「残念ながら、僕たちは攻略したよ」

「んなもん、見れば分かる」


 国親はすでに姿を消してしまった、扉があった場所に視線を送りながらそう口にした。


「……次もそう上手くいくと思うなよ」

「肝に銘じておくよ」

「ウザい返しは相変わらずだな、クソが」


 最後まで悪態をつき続けた国親は、踵を返してその場を後にした。

 恭介はそんな国親の背中が見えなくなるまで、見守り続けていた。


 ◆◇◆◇


 ――また別ところで、協会ビルの支部長室。


「天地プレイヤーたちが星6の扉を攻略したか!」


 拳児は竜胆たちを監視していた影星からの報告を受け、歓喜の声をあげた。


「装備に多くの傷を残していましたが、全員が五体満足で帰還いたしました。その後、天地竜胆と風桐彩音は病院へ向かい、矢田恭介が扉の崩壊を見届けました」

「星6を犠牲なく攻略するか……素晴らしいじゃないか!」

「私もそう思います」


 拳児のように表には出さないが、影星も内心では驚いている。

 星6の扉の攻略であればCランクは妥当とされているが、全員が五体満足で攻略できるのは半々といった確率だ。

 それをCランクに上がりたてのプレイヤーを含めた三人でというのを、影星は聞いたことがなかった。


「ですが、そこに少々気になる人物がおりました」

「ん? 気になる人物?」

「はい。猪狩国親、というBランクプレイヤーです」


 影星は竜胆たちが星6の扉攻略を受けたところから監視を行っていた。

 そこで恭介と国親が言い争っているのを目にしており、さらに扉を攻略した時、近くに身を潜めていたことも確認している。


「猪狩プレイヤーか。彼は確か、矢田プレイヤーと同期ではなかったか?」

「はい。ですが、どうやら猪狩国親は矢田恭介をライバル視しているようで、少しですが言い争いをしておりました」

「ふむ……となると、矢田プレイヤーと一緒にいる天地プレイヤーや風桐プレイヤーにも突っ掛かっていく可能性がある、ということか」


 軽く顎を撫でながらそう口にした拳児は、僅かな時間で自身の考えをまとめていく。


「……影星はこのまま見守りを継続してくれ」

「猪狩国親を消さなくてもよろしいのですか?」

「いきなりだな。猪狩プレイヤーが問題を起こしたわけではないのだから、すぐに消す必要はないさ」

「ですが、その選択が前回、尾瀬岳斗の暴走を引き起こしたのではないでしょうか?」


 影星は岳斗の時の問題を引き合いに出し、国親が問題を起こす前に処分するべきだと進言する。


「あれは確かに我々の判断ミスだった。だが、尾瀬岳斗の時とはまた別だ。先ほども言ったが、猪狩プレイヤーはまだ問題を起こしていない」

「……かしこまりました」


 拳児の判断に従うように返事をすると、影星は影の中へ姿を消してしまった。


「……まったく、あいつは性急に過ぎる。だがまあ、心配になるのも分かるがな」


 一人になった拳児は小さく息を吐きながらそう口にすると、窓の外に目を向ける。


(天地プレイヤーはすぐに病院へ向かったと言っていたな。おそらくはエリクサーが手に入ったのだろう。貸しを与えたつもりではないが、そう思ってくれれば幸いか)


 そうであれば心配の種が一つ消えたことになる。


「扉の謎は今もまだ多く残されたままだ。戦力は多いに越したことはない」


 そう呟きながら、拳児は視線を窓から外して椅子に腰掛ける。


「……力を付けてくれ、天地竜胆。そして、いずれ来るだろう争乱の時に備えてくれ」


 まるで予期しているかのようにそう呟くと、拳児は気持ちを切り替えてデスクワークを始めた。

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