第87話:宝物庫
竜胆たちが通路を進んでいると、後方から観客たちの怒号が聞こえてきた。
しかし、エルドランが何かを叫んでおり、彼らを宥めているのが分かった。
「……あのエルドランってエルフ、良いエルフでしたね」
「そうだね。おそらくだけど、彼がこの世界の次の王になるんじゃないかな?」
彩音と恭介がそれぞれの意見を交わしているが、竜胆には聞こえていない。
彼の頭の中はすでに宝物庫へ向いており、エリクサーがあることを強く願っていた。
「……扉が見えたぞ」
そんな竜胆から声が掛かると、彩音と恭介も会話を止めて前を向く。
そこには重々しい雰囲気を漂わせる、両開きの扉が存在していた。
「重厚感のある扉だね」
「いかにも宝物庫! って感じです!」
そう口にした恭介と彩音が先に前へ行き、左右に立って手を置く。
「さあ、竜胆君」
「一緒に開きましょう、竜胆さん!」
「……あぁ、そうだな」
宝物庫にはその名の通り、レアなアイテムが多く存在している。
恭介と彩音も自分のアイテムを考えたいだろうに、今は竜胆と鏡花のためにエリクサーだけはあるようにと願ってくれている。
その気持ちが竜胆にも伝わってきており、彼は表情を引き締め直し、両手で左右の扉を押し込み、合わせて二人も開いていく。
――ゴゴゴゴゴゴ。
鈍い音を通路内に響かせながら、宝物庫の扉が開かれた。
「……これは、壮観だなぁ」
「……私もこれほどの宝物庫は、初めて見ました」
宝物庫の中には多種多様な装備やアイテムがきれいに並んでおり、エルフという種族の几帳面さが見て取れる。
広さも十分に確保されており、扉から見て右側には武器が、左側には防具が、そして正面にはそれ以外のアイテムが並べられていた。
「俺は正面を確認してくる」
竜胆がそう口にすると、恭介と彩音もそちらへ向かおうとした。
「二人はそれぞれのアイテムを探してくれ」
「いいのかい?」
「あぁ。その方がすぐに鏡花のところへ戻れると思うからな」
「分かりました。そういうことなら私たちは私たちでレアアイテムを探してきます」
竜胆の意見を受けて、彩音がそう口にすると恭介も頷いた。
そこから僅かな時間だが別行動となり、竜胆は宣言通り正面の棚へ向かった。
「頼む、あってくれよ!」
竜胆は見落としがないよう、端の方から一つひとつのアイテムをしっかりと確認していく。
上級ポーションや万能薬、それ以外にもステータスを永久的に向上させる珍しいアイテムが多く並んでいるが、エリクサーだけは見つからない。
徐々に焦りが出てきた竜胆だったが、棚の中央にやってくると、そこに金銀宝石が装飾された豪奢で小さな箱を見つけた。
「……頼む、入っていてくれ!」
何度目になるか分からないくらいの懇願をしながら、竜胆はゆっくりと箱を開けた。
「…………あぁ、あった! あったぞ! エリクサーだ!!」
竜胆の声に、恭介と彩音も勢いよく振り返った。
「やったね、竜胆君!」
「これで鏡花ちゃんも助かりますね!」
竜胆に歓喜の声に恭介と彩音も声をあげ、彼らも気に入った装備を手に集まってきた。
「これがエリクサーか」
「私、初めて見ました」
「Aランクの彩音でも初めてなのか?」
「はい。私は装備を充実させるのを優先させていましたから、宝物庫が出てきても装備ばかり見ていたんですよね」
苦笑いを浮かべながら彩音がそう口にすると、竜胆は改めて箱の中からエリクサーを取り出した。
【レアアイテム【エリクサー】を獲得しますか?】
手にした瞬間にウインドウが表示され、獲得するか否かの選択を迫られる。
「もちろんだ」
竜胆がそう口にすると、目の前にあった他のアイテムに透明の膜が張られ、触れることができないようになった。
「恭介と彩音はどうだ?」
エリクサーのことで頭がいっぱいだった竜胆がそう口にして二人を見ると、恭介も彩音もすでに装備を手にしており、それらを持ち上げてみせた。
「もちろんだよ」
「大収穫です!」
「了解だ。それじゃあ戻るか」
竜胆がそう口にした途端、三人の体が光に包まれ始めた。
「コロッセオの場合はどこに戻るんだ?」
「入ってきた扉の前に自動的に戻されるんだ」
「フィールドの異世界とは違って、出入りできる扉がありませんからね」
戻される場所を聞いた竜胆は、扉のあった場所から病院までの最短ルートを頭の中で考え始める。
(待ってろよ、鏡花。エリクサーを持って、急いで戻るからな!)
こうして竜胆たちは、星6の扉を無事に攻略したのだった。
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