第75話:コロッセオ③

 第一試合と同じような先手必勝を、今回は行わなかった。


「む? なんじゃ、来ないのか」


 大盾のドワーフが拍子抜けのように呟くが、それでも集中を欠いたわけではなかった。


 ――ガキンッ!


 何故なら甲高い金属音が、大盾を動かした右側から聞こえてきたからだ。


「見えていたんだね!」

「舐めるな、若造が! そっちもじゃ!」


 大盾を振り回して先陣を切ってきた恭介を弾き飛ばすと、逆側から攻撃を仕掛けてきた彩音へ大盾を押し出す。


「うわっ!」

「がははっ! 女が戦場に顔を出すでない!」

「はあ? 女だからって舐めないでよね!」


 恭介と彩音が大盾のドワーフを相手取る中、恭介は大回りで大剣と大槌のドワーフの背後へ回り込む。


「なんじゃ、わしらの相手は小僧一人か」

「つまらんのう」


 竜胆が疾風剣を抜き放つと同時に、二人のドワーフが大剣と大槌を構えた。


「つまらないかどうかは、やってみなければ分からないだろう!」


 駆け出した竜胆は、最初に大剣のドワーフへ袈裟斬りを放つ。


「お前の方が弱く見えたみたいだぞ! がははっ!」

「ふざけたことを! 強き者に戦いを挑んだだけだろう!」


 軽口を交わしながら、大剣のドワーフは疾風剣を受け止める。

 そのまま鍔迫り合いになるのかと思いきや、武器同士が接触した直後、竜胆は相手の力を利用してターゲットを変更、大槌のドワーフへ超高速で迫っていく。


「ほほう! 面白いじゃないか!」


 大槌のドワーフが獰猛な笑みを浮かべながら竜胆へ大槌を振り下ろす。

 それを見た竜胆は姿勢を低くし、左足を踏み込んだと同時に疾風剣を切り上げた。


「反射」


 ――ドンッ!


 大剣のドワーフとの攻防で吸収した一撃を、大槌めがけて反射する。

 力負けするとは思っていなかった大槌のドワーフは、両腕が大槌と共に上を向く。


「な、なんじゃと?」

「まずは一人」

「やめ――!?」


 大剣のドワーフの言葉を待たずして、竜胆は勢いそのままに袈裟斬りを放ち、大槌のドワーフを斜めに両断する。


「き、貴様ああああっ!!」

「冷静さを欠いたな?」


 仲間を殺されたことで頭に血が上った大剣のドワーフは、目を血走らせながら大きく踏み込む。

 そのまま上段斬りが放たれると、竜胆は大きく飛び退きそれを回避。

 大剣が地面を穿つと、舞台が真っ二つに割れてしまう。


「はは、すごい威力だな」


 あまりの威力にそう呟かざるを得なかった。


「貴様も真っ二つにしてくれるぞおおおおっ!!」

「そうなるのは俺じゃない――」

「――君だよ」

「なにっ!?」


 大剣のドワーフが再び前に出ようとした直後、彼のすぐ後ろから突然声が聞こえてきた。


「大剣のおおおおっ!」

「ふざけた真似をしお――!?」


 いつの間にか大盾のドワーフの相手から離脱し、大剣のドワーフの背後から近づいていた恭介。

 鋭い一閃が大剣のドワーフの首を刎ね、そのまま力なく倒れてしまった。


「せめてこの女だけでも!」

「あら? 私にだけ注目していていいんですか?」


 一矢報いようと大盾のドワーフが彩音へと突っ込んでいく。

 しかし、彩音は不敵な笑みを浮かべたまま、大盾のドワーフの後方へ視線を向けていた。


「終わりだ」

「は?」


 恭介が大剣のドワーフへ近づいていたのを確認した竜胆は、入れ替わるように大盾のドワーフへ駆け出していた。

 大盾のドワーフは仲間が殺されていったこともあり視野が狭まり、竜胆が別方向から近づいていたことに気づいていなかったのだ。


「まさか、わしらこんな簡単に――!?」


 突き出された刺突が、大盾のドワーフの眉間を貫いた。

 ブルブルと体を震わせたのは一瞬で、すぐに全身から力が抜け、だらりと腕を下げながら仰向けに倒れてしまった。


『…………な、なんという凄惨な光景だああああっ! 第二試合終了! 今回も勝者は、挑戦者だああああっ!!』


 あり得ないと言いたげな口上が、コロッセオに響き渡る。


「人を殺そうとしている奴らが、凄惨な光景だって?」

「自分勝手な口上ですね、まったく!」

「相手から見れば僕らが異世界のモンスター、みたいなものかもしれないからね」


 怒りを見せる竜胆と彩音を恭介が宥める。

 とはいえ、恭介も負けてやるつもりは毛頭ない。


「誰が口上しているのかは知らないけど、僕たちでもっと悔しがらせてやろう」

「当然です!」


 恭介の言葉に彩音が同意を示したタイミングで、竜胆のスキル【ガチャ】が発動した。


【二回のガチャによりレア装備【ミスリルの大槌】とアイテム【中級ポーション】を獲得しました】


 ガチャ結果を確認した竜胆は、少しだけがっかりした表情を浮かべる。


「……装備は使えないな。中級ポーションはコロッセオで傷を負った時に備えて持っておくか」


 せっかくのレア装備だったが、竜胆では扱えないほどに巨大な大槌だった。

 これなら下級ポーションの方がよかったのではと思わなくもないが、それでも中級ポーションが当たったことで自分を納得させる。


「さあ、第三試合を始めようぜ!」


 そして、竜胆は口上者を挑発するように大声でそう口にした。

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