第74話:コロッセオ②

 先ほどまで罵詈雑言を吐いていた観客席が静寂に包まれる。

 何が起きたのか、何故異世界側の代表の首がなくなっているのか、理解が追い付いていない様子だ。


【スキル【ガチャ】が発動します】


 そこへ現れるスキル【ガチャ】発動のウインドウ。


(まあ、同じプレイヤーを殺した時でも発動したんだから、当然と言えば当然か)


 人間に似た姿をしているとはいえ、相手は異世界の生き物、モンスターだ。

 ガチャが発動したことに僅かばかりの安堵の表情を浮かべ、コロッセオでも強くなれるかもしれないと内心で喜んだ。


【ガチャにより装備【トロールの欠けた大剣】を獲得しました】


 そして、舞台上に先ほど戦っていた対戦相手、トロールが手にしていた大剣が現れると、観客席がどよめいた。


「……何が起きたんだ?」

「……いきなり武器が現れたぞ?」

「……魔法使いなのか?」


 異世界にはドロップ品という概念がないのかと竜胆は思いつつ、当たった装備を見て、今は使いどころがないなと恭介へ振り向く。


「マジックバッグに入れてもらえるか?」

「もちろんだよ」


 そのまま恭介がマジックバッグに入れると、そこでもどよめきがあがった。

 だが、竜胆は観客席の反応に触れることはせず、次を見据えていた。


「次の相手を呼び込んでくれないか?」


 口上を述べている相手がどこにいるかは分からないが、竜胆はそう口にした。


『……くっ! そ、それでは第二試合の代表を呼び込みたいと思います!』


 悔しそうな雰囲気が言葉から伝わってきたことで、竜胆たちは少しばかりの優越感を得ることができた。

 しかし、油断は禁物であり、すぐに気を引き締め直す。


「次の対戦相手は……なんだ、小柄だな?」

「だけど、手に持つ武器は重量級だね」

「油断は禁物ってことですね」


 背丈は竜胆の腰ほどの相手だが、手に持つ武器はどれも大剣や大槌、全身甲冑に大盾を手にしたモンスターまでいる。

 大剣も第一試合で対峙したトロールよりも一回りは大きく、それだけでより強い相手なのだということは一目で分かった。


「まったく、トロールたちは相手を舐めてかかるから死んでしまうのだ」

「その点、わしらは十分に警戒して戦うとしよう」

「そうじゃな、弱い種とはいえ、奴らはその中でも精鋭なのだろうからのう」


 そう口にしながら、モンスターたちは隊列を組んでいく。


「なるほど、第二試合の相手はドワーフ種、ということだね」

「小柄だけど力のあるモンスター、あれがドワーフなのか」

「そうですね。鍛冶の技術も高いと聞いたことがありますし、武器にも警戒しないといけないかもしれませんね」


 恭介の言葉に竜胆が納得したような声を漏らし、補足のような形で彩音が付け足す。

 相手の身体能力だけではなく、武器にまで気を配らなければならないとなれば、精神的な疲れが想定される。

 第一試合のように一瞬で勝負を決めることができればいいのだが、相手が試合を観戦していたのであれば、試合開始のタイミングには最大限の注意を払うことだろう。


「……多少時間が掛かったとしても、可能な限り無傷で勝利する方が先決か」

「五試合あることを考えたら、そうなるかな」

「それじゃあ今回は、私がスキルを発動してもいいですか?」


 竜胆の言葉に恭介が同意を示した後、彩音がスキルの使用を確認してきた。


「彩音のスキルって、どんなものなんだ?」

「あれ? 竜胆さんは私のスキルを知らなかったんですね」

「自分のことで手いっぱいだったからな、他のプレイヤーのスキルにまでは知識が行き届いていないんだ」


 プレイヤーになった時のことを想定して多くの知識を蓄えてきた竜胆だが、それはあくまでも戦うことになるモンスターに対しての知識であり、プレイヤーの情報にまで手を出すことができなかった。


「私はスキル【全体指揮】を授かりました。このスキルは、私が認識しているプレイヤーの身体能力を向上させることができるんです」

「彩音が認識しているプレイヤーへのバフか。それって、彩音自身には掛けられないのか?」


 周りを強くするだけだと、自分は戦えないのではないかと心配になった竜胆だったが、彼の問い掛けに彩音はニコリと笑う。


「私自身にも掛かります。それも、私へのバフは認識しているプレイヤーが多くなればなるほど、強力なバフになるんです」

「それはすごいスキルだな。……だからスタンピードの時にも、彩音が指揮を執っていたんだな」


 彩音のスキルについて聞いた竜胆は、スタンピードの時のことを思い出していた。


「多くのプレイヤーを指揮する場面でこそ、私のスキルは真価を発揮するの。今回は竜胆さんと矢田先輩だけですけど、それでも二人の実力があれば、私も含めて十分な戦力アップが期待できますよね」


 この言葉には、暗に彩音が頑張らなくても竜胆と恭介の実力にバフが掛かれば十分に戦えるだろう、という思いが込められている。


「任せろ」

「僕も全力で戦わせてもらうよ」


 そして、竜胆と恭介は彩音が言わんとしていることを十分に理解していた。


「それじゃあやろうか」

「警戒すべきは前に立っている大盾のドワーフだね」

「まずはそっちから片付けましょう!」

『それでは皆様、よろしいでしょうか! 第二試合目――開始いいいいっ!』


 両者の戦闘準備が整ったと見るや、コロッセオに第二試合開始の口上が響き渡る。

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