第73話:コロッセオ①

「……休憩なしで、五連戦だって?」


 まさかの攻略条件に竜胆は唖然としてしまう。

 休憩を挟めるか否かは、体力の面だけではなく、精神面での影響も大きく出てくるだろう。

 傷を負えばあとの試合に響くし、毒にでもなろうものなら、徐々に体を病んでいき、気づいた時には致命傷になりかねない。


「それではご案内いたします」

「ちょっと待ってくれ!」


 案内人が外に向かおうとしたところで、竜胆が声を掛ける。


「どうなさいましたか?」

「その攻略条件、休憩を挟むものには――」

「なりませんねえ! これは絶対にして不可避な条件なのですよお!」


 今まで淡々と説明をしていた案内人だったが、竜胆が条件の緩和を提案しようとした直後から怒声を響かせた。


「あなた方は我々が出す条件を! ただクリアするだけの! 楽しませんためだけの! 奴隷に過ぎないのですよお!」


 竜胆の目と鼻の先まで顔を寄せ、案内人はそうのたまう。


「ぐだぐだ言っていないで、さっさと舞台にあがりなさい! よろしいですねぇ~?」


 そう口にした案内人は離れると、そのまま石造りの部屋の外に歩いていった。


「……な、なんだったんだ?」

「攻略条件は変えられないってことだね」

「まあ、過去にも変えられたって話はなかったんですけどね」

「それを先に言ってくれたらありがたかったな」


 無駄に怒鳴られずに済んだのではと思わなくもなかったが、竜胆が先走ったのも事実なので、それ以上の言及はしなかった。

 しかし、先ほどの案内人の行動を見て、ここでだらだら時間を使っているとまた怒鳴られるかもしれないと思い、竜胆たちは石造りの部屋を出た。

 恭介が口にした通り、扉の外は一本道になっており、道の先には明りが見えている。

 出口の手前には案内人が立っており、不敵な笑みを浮かべていた。


「それでは、思う存分踊ってくださいませ」


 最後にそう口にした案内人は、忽然と姿を消してしまった。


「あの案内人、いったい何者――」


 ――わああああああああっ!


 案内人の正体が気になった竜胆だったが、思考がそこに行きつく前に出口の先から大歓声が聞こえてきた。

 コロッセオということは、この大歓声は試合を見に来た観客からあげられたものだろう。

 竜胆は見世物にされるのかと若干の苛立ちを覚えたが、それでも観客を見返せるのであれば構わないかと気を引き締めた。


「コロッセオはあとに出てくる対戦相手程、強い相手が出てくる傾向にある」

「相手の出かたを確認しつつ、ダメージを最小限に抑えながら勝ち進んでいきましょう」

「ってことは、最初からとにかく全力で倒しに行くべきだな」


 最後に竜胆がそう口にすると、恭介と彩音が頷いた。


『――さあ! やってまいりました、コロッセオ! 本日の挑戦者は三名の異世界人です!』


 すると、コロッセオの方から観客を盛り上げる口上が聞こえてきた。


『前回の挑戦者は三回戦で敗れてしまいましたが、今回の挑戦者はどこまでいけるのか! 観客の皆様、ご期待くださいませ!』


 竜胆たちの前にも星6の扉に挑戦したプレイヤーがいたようだが、口上を聞くに彼らは三回戦で敗れ、地球に戻ってくることはできなかったようだ。


「舐められたものだな」

「だけど、相手からすれば自分たちが勝つと信じているんだろうね」

「それなら、私たちがその自信を打ち砕いてやりましょう!」

『それでは皆様、ご注目ください! 挑戦者たちの入場です!』


 口上に合わせて出口が強烈な光に照らし出された。

 このタイミングで竜胆たちはコロッセオに姿を見せると、さらに大歓声――ではなく、罵詈雑言が聞こえてくる。


「今日も血しぶきをあげてくれよー!」

「さっさとぶっ殺されやがれー!」

「女は衣服を剥いじまえ! ぎゃはははは!」


 舞台を囲むようにして観客席が設置されており、全方向から罵詈雑言が浴びせられているが、竜胆たちはどこ吹く風だ。


「まあ、こんなことだろうと思ったがな」

「どの星の扉のコロッセオもこんな感じだからね」

「分かってはいても、気分は悪いですけどね」


 竜胆たちがそんな会話をしていると、逆側の出口から武器を持った、筋骨隆々の大男が三人、下卑た笑みを浮かべながら舞台に上がってきた。


「なんだあ? 今回の挑戦者は、ガキに、優男に、女かよ!」

「俺たちで楽しんじまおうぜえ?」

「大観衆の前で、辱めを与えてやるぜえ!」


 三人の大男はすでに勝ったつもりなのだろう、どのように苦しめてやろうか、辱めてやろうか、そんなことばかりを考えている。


『それでは皆様、よろしいでしょうか! 第一試合目――開始いいいいっ!』


 口上により試合開始の合図がなされると同時に、竜胆たちは駆け出していた。

 試合前の宣言通り、最初から全力を持って倒しに掛かったのだ。


 ――ザシュッ!


『……へっ?』


 試合開始から五秒と掛からずして、三人の大男の首が宙を舞っていた。


「弱いな」

「次はもう少し手応えがあるだろうけどね」

「気を引き締めていきましょう」

『……だ、第一試合終了! 勝者は、挑戦者だああああっ!!』


 鋭い視線を倒れていく首なしの死体に向けながら、第一試合終了の口上がコロッセオに響いた。

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