第72話:星6の扉
「……こんなところに、星6の扉が?」
そう口にした竜胆は、一軒の大きく古びた家屋を眺めていた。
「どうやらそのようだね」
「なんでこんなところに現れたんだ?」
「扉が現れる場所はランダムだって言われています。だから、なんでと言われると、扉の気まぐれ、としか答えられないと思いますよ」
答えを求めての呟きではなかったが、竜胆の疑問に彩音が真面目に返してくれた。
「ここはまだいい方だよ。過去には人が住んでいる家のど真ん中に現れた、なんてケースもあったからね」
「ということは、ここは廃屋ってことなんだな?」
「そういうことだね」
「被害が出なかったのは、不幸中の幸いってことですね」
恭介と彩音は何度も扉を攻略してきたからだろう、特に疑問を感じることもなく淡々と話を進めていく。
「まずは一度扉に入って見て、そのまま攻略できそうならそのまま奥へ進んでいく。特別な準備が必要な場合には、すぐに引き返して準備を行う、これでいいかな?」
「私は問題ありません」
「俺もそれでいい」
「分かった。……っと、なんだか僕が仕切っちゃってたけど、このパーティのリーダーは竜胆君でいいんだよね?」
慣れた様子で恭介が仕切っていたので誰も指摘しなかったが、当の本人が申し訳なさそうに口を開く。
そしてそのままリーダーは竜胆だと口にしたたため、竜胆自身は驚きの表情を浮かべている。
「……は? な、なんで俺なんだ?」
「だって、僕たちは竜胆君を中心に集まったわけだし……ねぇ?」
「はい、私も竜胆さんがリーダーなんだと思っていました」
「いやいや! 俺は一番下っ端の新人だぞ! そんな奴がどうやってベテランCランクと、格上Aランクを従えるんだよ!」
「「……実力?」」
「だったら間違いなく彩音がリーダーだろうが!」
あり得ないと言わんばかりの剣幕で竜胆が捲し立てるも、恭介と彩音は当然のようにリーダーは竜胆だと口にしている。
「お前ら、どうかしてるぞ」
「それじゃあ、まずは仮リーダーってことで竜胆君、よろしく頼むよ」
「それがいいですね!」
「仮とはいえなんで俺なんだよ! そこは恭介か彩音でいいだろうが!」
ランク、実力、プレイヤー歴、どれを取っても二人の方が上だろうと竜胆は訴える。
「ランクが上だからとか、実力やプレイヤー歴が長いからとか、そんなのは関係ないよ、竜胆君」
「そうですよ! 私たちは竜胆さんだから集まったわけですし、やっぱりここは竜胆さんがリーダーをやらなきゃですよ!」
「無理やり過ぎないか? ……まあ、二人がそれでいいなら、あくまでも仮だからな!」
仮という部分を強調しながら、竜胆は仕方なくリーダーを受けることにした。
とはいえ一時のリーダーだから受けただけで、正式には絶対に受けないと内心で決めていた。
「それじゃあリーダー、檄をお願いします」
「……恭介、楽しんでないか?」
「そんなことはないよ。ほら、急ぐんだろう?」
ジト目を恭介に向けた竜胆だったが、その恭介から急ぐのだと言われ、表情を引き締め直す。
「……そうだったな。よし、行こう」
「あぁ」
「はい!」
竜胆を先頭に、三人は星6の扉を開いて中へ入った。
「…………なんだ、ここは?」
そして、竜胆たちが見た光景は――石造りの壁で覆われた一室だった。
「……嘘でしょ、ここってもしかして?」
「……いいや、この造りは間違いないね」
「なんだ、二人はここがどんな異世界なのか知っているのか?」
彩音と恭介の反応を見た竜胆が声を掛ける。
「ここはおそらく、コロッセオだ」
「コロッセオだって?」
「コロッセオだけはどこも造りが同じなんです」
「それが、この石造りの部屋ってことか?」
二人の説明を聞いた竜胆は、軽く石壁を叩いてみる。
重量感のある音が響き、簡単には壊せそうもない。
「出入口は、鉄の扉ただ一つってことか」
石造りの部屋には、一ヶ所だけ鉄の扉が設置されていた。
「あそこを出ると、あとは一本道が続いていて、その先がコロッセオの舞台なんだ」
「そこで異世界側の代表と戦うことになるんです」
「一対一なのか?」
「今回は三対三になるよ。一人で扉に入ったなら一対一、複数ならその人数に合わせた試合形式に変更されるんだ」
複数で入った扉で一対一を強要されるのかと心配になった竜胆だが、そうではないようでとりあえずは納得する。
そして次の疑問を口にした。
「人数に合わせて試合形式が変更されるのは分かったが、攻略するにはどうしたらいいんだ? まさか一回試合に勝てば終わり、なんてことはないだろう?」
ここは星6の扉である。
たった一度の試合に勝てば終わりとは思っておらず、連続で何試合もするのではないかと予想していた。
「攻略に関しては扉によって異なってくる」
「おそらくこのあと案内人が来て説明を――」
――ガチャ。
彩音が説明していると、途中で鉄の扉の鍵が解錠された。
――ギイイイイィィ。
そのまま耳障りな音を響かせながら鉄の扉が開かれると、外からスーツにシルクハットを被った細身の男性が姿を現した。
「ようこそおいでなさいました。本日の勝利条件、それは――五試合に勝利すること、ただそれだけです」
五試合と聞いた竜胆たちは顔を見合わせるが、案内人の言葉はそれだけでは終わらなかった。
「なお、試合は休憩なしの連戦となりますので、お気をつけくださいませ」
そう口にした案内人は、不気味な笑みを顔に貼りつけていた。
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