第71話:次の扉
竜胆はすぐに恭介に連絡を入れた。
『もしもし、どうしたんだい、竜胆君?』
「恭介、急ぎ星5以上の扉に入れるよう手配してもらいたい」
『……鏡花さんに、何かあったんだね?』
何かあったのだと察した恭介がそう問い掛けると、竜胆は状態が悪化したことを説明した。
『分かった。こっちで職員に確認しておくから、竜胆君と彩音さんも協会へ向かってほしい』
「頼む」
電話を切った竜胆は、彩音と共に全速力で協会ビルへ向かった。
協会に到着した竜胆は恭介と合流し、状況の確認を行う。
「扉は見つかったか?」
「見つかったのは見つかったんだけど……」
見つかったという言葉に安堵した竜胆だったが、恭介の表情は冴えない。
「……どうしたんだ?」
そんな恭介に竜胆は声を掛けた。
「……その扉、星5じゃなくて、星6なんだ」
「えぇっ!! ほ、星6なんですか!?」
恭介の言葉に驚きの声をあげたのは彩音だった。
「竜胆さんの実力を疑っているわけではないですけど、星3を攻略したばかりで、いきなり星6は無謀過ぎますよ!」
「それは僕も同意見だ。だけど、この扉、実は……」
僅かに言いよどんだ恭介だったが、しばらくして口を開いた。
「……支部長から、竜胆君にって依頼された扉なんだ」
「堂村支部長が?」
拳児からの依頼と聞いて、竜胆は思案顔を浮かべる。
(これは間違いなく、支部長が俺に恩を売るための依頼、だよな?)
エリクサーが手に入るかどうかは運次第、確実に手に入るわけではない。
しかし、星5以上の扉に入るには多くの手続きが必要とされていた。
(それらをすっ飛ばして星5以上の扉に入れるなら、考える必要はないか)
そもそも竜胆に選択肢はない。早くエリクサーを手に入れなければ、鏡花の命が危ないのだから。
「……行こう」
「いいんですか、竜胆さん?」
「どのみち、俺は目的のために行かないといけないからな」
竜胆の答えを聞いて、彩音も大きく頷いた。
「竜胆ならそう言うと思っていたよ」
恭介がそう口にすると、竜胆と彩音に星6の扉の情報を共有しようとした――その時だ。
「ちっ、諦めればいいもんをよう」
竜胆たちに聞こえるように、金髪にサングラスをかけた男性が舌打ちをしながらそう口にした。
「なんだ、あいつは?」
「Bランクプレイヤーの
「おい、恭介! そんな新人と星6だなんて、殺しに行かせるようなもんだぜ? 俺たちに譲れよ、なあ?」
サングラスをずらし、恭介を睨みつけながら近づいてくる国親。
「いや、これは僕たちが受けるよ」
「ふざけんな! それは俺たちが狙っていた扉なんだ!」
「それなら迷わず受けるべきだったね。それじゃあ、失礼するよ」
「てめえ! 覚えておきやがれ! Cランク止まりのザコのくせによ!」
恭介が竜胆と彩音の肩をポンと叩きながら歩き出したので、二人も彼について行く。
その背中を国親は姿が見えなくなるまで睨みつけていた。
「……なあ、よかったのか、恭介?」
「そうですよ、矢田先輩。あの人、先輩のことを知っているみたいでしたけど?」
心配になった竜胆と彩音が声を掛ける。
「プレイヤー登録をした時の同期なんだ。当時からライバル意識を持たれていてね、先にCランクに上がった僕のことを妬んでいるんだよ」
「でも、今ではあっちがBランク、それで矢田先輩のことをザコとか言っていたんですね」
「でもまあ、Bランクまで上がれたのは間違いなく国親の実力さ。それは間違いないよ」
ザコと言われたことを怒るわけでもなく、むしろ実力があると国親を讃えている。
それが竜胆には不思議に思えた。
「恭介は優しすぎないか? 文句を言ってきた相手を讃えるとか、普通は無理だろ」
「そうですよ! 私には絶対にむーりー!」
「あはは、僕だって怒る時は怒るよ。でも、今回のはそこまでのことじゃないからね」
柔和な笑みを受けべながらそう口にした恭介は、話題を戻そうと扉の話に切り替えた。
「それよりも、今は星6の扉攻略だよ。依頼を受けたとはいえ、攻略できなければ意味がない」
「確かに、エリクサーほどのアイテムがガチャで出てくるとは限らないし、攻略を目指していかないとだからな」
「なんだかむしゃくしゃしますけど……分かりました! そういうことにしておきます!」
彩音だけはどうしても納得できないといった表情だったが、竜胆と鏡花のためならばと攻略を最優先することに決めた。
「基本的な物資はマジックバッグに入っているけど、そのまま行けるかい?」
「当然だ」
「もちろん!」
星3の扉を攻略したばかりで、本当なら休もうと考えていたのだが、竜胆も彩音も力強く頷いた。
「二人とも元気だね」
「むしろ消化不良だったからな」
「同じく!」
「そうか、分かった。それじゃあ行こうか!」
こうして竜胆たちは、急遽星6の扉を攻略するために移動を始めた。
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