第70話:悪化
彩音への説明も終わり、竜胆は休むことにした。
初めての扉攻略に加えて、自身のスキルについての説明で精神的な疲労もあったからだ。
「俺はこれから鏡花の病院へ向かうよ」
「あっ! それなら私も行きたい!」
「彩音が?」
まさか彩音から同行を申し出てくるとは思わず、竜胆は首を傾げる。
「だって鏡花ちゃん、可愛いじゃないですか! また会いたいんですよね!」
「あぁ、確かに鏡花は可愛いな」
彩音の言葉に、竜胆は即答しながら何度も頷いている。
「そこは意気投合するんだね」
「「事実だから!!」」
「はは、うん、確かにそうだね」
呆れたように恭介が呟くと、竜胆と彩音が声を揃えてそう叫び、彼は苦笑いを浮かべた。
「だがまあ、そういうことなら一緒に行くか」
「やったー! ありがとうございます、竜胆さん!」
「僕は協会の方へ扉攻略の報告へ行くよ。報酬は協会の口座へ振り込んでおいてもらう、でいいかな?」
恭介の提案に竜胆と彩音は頷く。
「それじゃあ、次の扉攻略の予定が立ったら、連絡をするね」
「何から何まですまんな、恭介」
「先輩プレイヤーのお節介だよ」
恭介はそう口にすると、竜胆たちと別れた。
そのまま竜胆と彩音は鏡花が入院している病院へ向かった――のだが、その途中で竜胆のスマホが鳴った。
「あれ?
着信は鏡花の担当医である絢瀬
竜胆は首を傾げながら、そのまま電話を取る。
「もしもし、先生? いったいどうした――」
『鏡花さんの容体が急変したの! 急いで来てちょうだい!』
「なっ!? わ、分かりました!」
鏡花の容態が急変したと聞いて、竜胆は全力で駆け出した。
「ちょっと、竜胆さん!」
慌てて彩音も駆け出し、なんとか竜胆に追いついた。
「いったいどうしたんですか!」
「鏡花の容態が急変した!」
「な、なんですって!?」
そこからの会話は一切なく、二人はまっすぐに病院へ向かう。
そして――竜胆と鏡花は汗だくになりながら病院へ到着した。
「鏡花!」
「あっ、お兄ちゃん!」
「…………大丈夫……なの、か?」
病室へ入るは否や声をあげた竜胆だったが、視界に飛び込んできたのはベッドの端に腰掛け、いつもと変わらない笑みを浮かべて出迎えてくれた鏡花だった。
「うん! 大丈夫だよ! 心配させちゃってごめんね!」
「……あー、いや、俺は大丈夫なんだが……?」
何が起きたのか困惑している竜胆だったが、鏡花の後ろに立っていた環奈が渋い表情を浮かべながら親指で外に出るよう合図を出している。
「鏡花ちゃん!」
「あっ! 彩音さんも来てくれたんだ!」
「無事でよかったよ~!」
竜胆の後ろから顔を出した彩音は、鏡花の無事な姿を見て感動の声をあげながら病室へ入った。
そのまま鏡花と彩音が会話を始めたのを見て、竜胆は口を開く。
「鏡花、俺は少し先生と話をしてくるから、彩音と話をしていてくれ」
「分かった! でも、早く戻ってきてね!」
「あぁ、もちろんだ」
そう口にした竜胆は、環奈と共に廊下へ出ると、病室から少し離れた個室へ移動する。
「それで、先生。いったい何があったんだ?」
電話では非常に切羽詰まった声をあげていたのを聞いて、竜胆は今の状況に理解が追い付いていなかった。
「……鏡花さん、強がっているの」
「な、なんだと?」
「竜胆さんに心配を掛けたくないらしくてね。私も口止めされていたんだけど……」
鏡花は環奈が自身の症状を竜胆に伝えるとは思っていないだろう。
医師であれば症状を隠すことなどしないのは当然であり、普段の鏡花ならそんな当たり前のことにも気づけたはずだ。
「……それだけ、マズい状況ってことですか?」
「……はい」
「くそっ!」
ようやくプレイヤーに覚醒し、エリクサーを手に入れられる光明が見えてきた。そんな矢先での出来事に、竜胆は歯噛みしてしまう。
「今はなんとか私の魔法で痛みを抑えることに成功していますが、徐々に消費する魔力量が多くなってきています。時間が経てばいずれ、私では手に負えなくなるかもしれません」
「一刻も早く、エリクサーを手に入れないといけないってことですか」
元気な姿を見せてくれていた鏡花を見て、まだ時間があると思っていたが、そうではなかった。
「……俺、今日は鏡花の病室に泊まろうと思います」
「そうしてくれると助かる……と言いたいところだけど、今日はやめておいてもらった方がいいかな」
「どうしてですか?」
いつもなら竜胆が泊まることに賛成する環奈からの反対に、彼は困惑してしまう。
「竜胆さんが一緒だと、鏡花さんも無理をしてしまうと思うの。だから、今日だけは……」
「そう、ですか。……分かりました、先生」
体調が悪くなっても言い出せなくなる、それを危惧しての反対だった。
それから竜胆は病室に戻ると、鏡花が満足するまで話を続け、環奈の言いつけ通りに病院をあとにした。
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