第65話:リザードパラディン
「リザードパラディン……星3の中でも、上位に値するボスモンスターだね」
巨体を武器にして襲い掛かってくるボスモンスターが通常だとすれば、個の強さを押し出して戦ってくるボスモンスターは特別な個体だと言えるだろう。
そこまで巨大ではないリザードパラディンが上位のボスモンスターであることを考えると、そこまで大きくはないリザードパラディンは稀の中の稀なのかもしれない。
「どうする? 一人でやるかい?」
とはいえ、相手は星3のボスモンスター、つまりはDランク相当の実力しか持たない相手だ。
「当然」
Bランク相当の実力を持つエルディアスコングを倒した竜胆としては、ここで戦わないという選択肢を取ることは決してない。
むしろ、今の実力を確かめるには十分すぎる相手だと気持ちを高ぶらせていた。
「そこまで心配はしていないけど、油断だけはしないでね」
「相手はモンスター、しかもボスだからな」
今度こそ疾風剣を抜き放ち、切っ先をリザードパラディンへ向ける。
『……ギュルララララアアアアアアアアッ!!』
竜胆の殺気を感じ取ったのか、リザードパラディンはニタリと笑い、大咆哮と共に両手に持つ剣と盾を持ち上げた。
その身には光沢を放つ黒い甲冑を身に纏っており、隙間から真紅の瞳が竜胆を睨みつけていた。
「来いよ、リザードパラディン。俺のスキルがどこまで通用するのか、試させてくれ」
『ギャルララララッ!!』
挑発が通じたのかどうか、リザードパラディンは盾を前面に押し出しながら突っ込んできた。
「シールドバッシュか!」
守りに使う盾を前面に出し、自身の体格を活かして体当たりを仕掛けてくるシールドバッシュは、攻防一体の攻撃と言えるだろう。
相手が正面からぶつかり合い、押し勝てれば追撃が可能、そうでなければ逆の手に持つ剣で斬り掛かることもできる。
回避されても相手の動きを目で追うことで対処することもできるとあって、体格の良い盾使いがよく使う戦法でもある。
「ふっ!」
突っ込んでくるリザードパラディンを横に動いて回避、すれ違いざまに疾風剣で袈裟斬りを放つ。
――ガキンッ!
しかし、片目を盾からずらして竜胆の動きを見ていたリザードパラディンは、すかさず剣を振り抜き武器と武器が激しくぶつかり合う。
そのまま鍔迫り合いに持ち込みたかったリザードパラディンだが、竜胆は力では負けると判断して即座に間合いから離脱する。
『ギュルララッ!』
悔しそうな鳴き声をあげ、リザードパラディンがさらに前へ出る。
ここで決めるつもりなのだろうが、それは竜胆も同じだった。
「はあっ!」
後方へ飛び退いていた竜胆が着地と同時に前へ出ると、すれ違いざまの一撃を見舞う。
――ザシュッ!
『ギャルリリャアアアアッ!?』
甲冑の隙間から流れ落ちてくるどろりとした真っ赤な血と、絶叫するリザードパラディン。
傷口があるだろう場所を甲冑の上から押さえながら、リザードパラディンの肉体から炎が噴き出した。
「これが危機に瀕した時に発動されるリザードパラディンのスキル――【熱気暴走】か」
自らの温度を急上昇させていつも以上の動きを可能とするだけでなく、超高温の熱気を放出して近づいてくる相手にダメージを与えることもできる。
ただし、自身の温度を急上昇させることで命を燃やしているともいえるスキル【熱気暴走】は、一種の自爆スキルとも言われていた。
「勝負は一瞬で終わりそうだな」
『ギャルララアアアアッ!!』
地面に足跡を残すほどの踏み込みから前に出たリザードパラディン。
振り抜かれた剣は突風を発生させるほどの勢いを持ち、受けることも難しい一撃へと昇華されている。
「Dランク相当はこの程度か」
しかし、竜胆は強烈な袈裟斬りを疾風剣の腹で受けると、そのまま軌道を変えるように体位を移す。
剣が地面に突き刺さり、小さなクレーターを作りだす。
そして竜胆はリザードパラディンの一撃の勢いを活かして空中で回転、動く視界の中でも甲冑の隙間を見つけて疾風剣で左腕を切り落とした。
『ギゲギャアアアアッ!?』
それでもリザードパラディンはタダでは倒れない。
切り口から噴き出した炎を竜胆に向けて焼き殺そうと試みてきたのだ。
「反射」
噴き出す炎をその身に浴びながら、竜胆はスキル【鉄壁反射】の反射を発動し、鋭い横薙ぎを一閃。
『……ゲ……ゲゲェ…………』
反射によって繰り出された一閃は、甲冑ごとリザードパラディンを切り裂き、竜胆は勝利を手にした。
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