第66話:攻略完了

「まさか、甲冑の隙間を狙って倒すというセオリーを完全無視するとはね、驚きだ」


 竜胆が甲冑ごとリザードパラディンを切り裂いた姿を見て、恭介は呆気に取られながら呟いた。


「なあ、恭介!」


 そこへ竜胆から声が掛けられ、恭介はやれやれといった感じで手を振った。


「このあとはさらに奥に向かうでいいんだよな!」


 知識では扉攻略について知っている竜胆も、実際の攻略は初めてなので恭介に確認を取りたかった。


「それでいいよ。奥に向かうと異世界の核が存在するから、それを壊してしまえば攻略完了、自動的に入口まで転移させられる」


 恭介からの確認も終わり、竜胆は視線を前方へ向ける。


【モンスター討伐によるスキル【ガチャ】が発動します】


 しかし、その前に竜胆のスキル【ガチャ】が発動したウインドウが表示された。


【レア装備【炎の腕輪】を獲得しました】


 ウインドウに獲得装備が表示されると、目の前に魔法陣が顕現し、そこから炎の腕輪が飛び出して地面に転がった。


「これが、炎の腕輪か」


 炎の腕輪を手に取った竜胆は、どのような性能を持っているのか装備のステータスを確認していく。


「……なるほど、炎耐性が身につく装備ってことか」


 身に着けることで熱気への耐性、炎ダメージの軽減、さらに一定確率で攻撃に炎ダメージを付与することができると表示されていた。


(確率でダメージが付与されるのは確実性がないから好きじゃないけど、炎耐性がついてくれるのはありがたい)


 今後、どのような環境の扉を攻略するか分からないのだから、耐性系の装備が増えることはありがたかった。


「……まあ、欲を言えばここの攻略で使いたかったけどな」


 そんな呟きが漏れるほど、今も変わらず太陽が竜胆を照らし続けており、汗も止まらない。

 これはさっさと攻略を済ませて扉を出るに限ると、竜胆は右腕に炎の腕輪をはめてから歩き出した。


「それが今回のドロップ品かい?」


 ちょうどそこへ恭介が追い付き、隣を歩きながら声を掛けてきた。


「あぁ。炎耐性が付く装備らしい」

「扉の攻略には環境への対応が大事になってくるから、貴重な装備だね」


 恭介の言葉に竜胆が頷くと、ほどなくして異世界の核を発見することができた。


「どこかに隠されているとかじゃないんだな」


 異世界の核は岩場の頂上にある広場、その中央に置かれていた。

 台座と思わしき場所、その上に浮かんでいたので竜胆から見ても一目瞭然だった。


「異世界の構造にもよるかな。迷宮のような異世界だと隠されていることが多いし、自然が広がる異世界だと今みたいに分かりやすく置かれていることも多いかな」

「そうなんだな」

「それと、低ランクの扉の核は破壊する以外にないことが多いけど、高ランクの扉の核はレア装備だったりもするから、どうしてもプレイヤーは高ランクの扉の攻略を優先したがるんだよね」


 恭介の言葉は事実であり、竜胆もなるべく早く高ランクの扉を攻略したいと思っている。

 目的はもちろん、鏡花を助けるために必要なエリクサーを手に入れるためだ。


「竜胆君はもしエリクサーが手に入ったら、そのあとのプレイヤー活動をどうしたいか考えているのかい?」

「エリクサーを手に入れたあと、かぁ……」


 プレイヤーになりたい、エリクサーを手に入れたい、そのことばかりを考えていた竜胆は、その先についてのビジョンを持っていなかった。


「……まあ、せっかくプレイヤーになれて、力を手にすることができたんだ。目的を達成したその先についても、ちょっとずつ考えておいてもいいんじゃないかな」

「それもそうだな」


 そう口にしながら、竜胆は疾風剣を構えた。


「それじゃあ、よろしく頼むよ」

「そのつもりだ!」


 ――ザンッ!


 鋭く振り抜かれた疾風剣によって、異世界の核が両断された。

 直後、地面が大きく揺れ始め、竜胆の体から光が放たれ始める。


「これは?」

「入口までの転移が始まったんだ」

「あれ? そういえば、彩音は大丈夫だったかな?」


 存在をすっかり忘れていた彩音のことを思い出した竜胆が声をあげると、恭介は苦笑しながら答えてくれた。


「彩音さんなら大丈夫だよ。パーティを組んで多くの扉を攻略してきた人だし、転移についても理解しているからね」

「そうか、ならよかった」


 こうして竜胆と恭介は扉の入口まで転移し、そこでモンスターの足止めを買って出てくれた彩音と合流した。


「お疲れ様でした、竜胆さん! 矢田先輩!」

「さすが、無傷みたいだね」


 元気よく彩音が挨拶をすると、恭介が感心したように声を掛けた。


「そこまで強いモンスターじゃなかったですし、数も多くなかったですから」

「だとしてもすごいな」

「そういう竜胆さんだって無傷じゃないですか。ボスモンスターを相手にすごいですよ!」


 彩音の言葉は本心なのだろうと、彼女の満面の笑みを見ながら竜胆は感じていた。


「……彩音、あとで話がある」

「話ですか?」

「あぁ。俺のスキルについてだ」


 竜胆は恭介の言葉を信じ、彩音を信じることを決めた。

 そのまま星3の扉を出ると、扉の崩壊を確認してから、スキル【ガチャ】について説明するため場所を移した。

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