第64話:岩場での戦い
どこまでも続く荒野――かと思われたが、視界には突如としてごつごつとした巨大な岩場が現れた。
「荒野が広がる場所に突如現れた岩場か……おそらくだけど、あそこにボスモンスターがいるはずだよ」
恭介の言葉に彩音が大きく頷いた。
「そうなのか、恭介?」
何度も扉を攻略してきた二人からすれば当たり前のことなのかもしれないが、竜胆からすれば初めての経験であり、疑問の声は当然と言えるだろう。
「ここが星5以上なら、もっと奥があったり、隠されたエリアがあったりするんだけど、星3なら素直な異世界が多いかな」
「素直な異世界って表現はどうなんだ?」
「でも実際、荒野の中に突如現れた何か! そんな場所にボスモンスターがいることがほとんどなのよね」
恭介の説明に彩音も同意を示したからか、竜胆はこれ以上の疑問を口にすることはなかった。
その代わり、集中力を高めて周囲の警戒を密に行う。
「……地面に、いるな」
「ようやく気づいたか、竜胆君」
「気づいていたのかよ、恭介」
「扉の中では常に警戒は必須だからね、肝に銘じるように」
「……了解だ」
指導をされていることに気づいた竜胆は肩を竦めながらも、恭介がいてくれることに感謝する。
このまま地面のモンスターに気づくことなく襲われていれば、そのまま攻撃を受けて死んでしまうか、撃退できたとしても負傷した体でボスモンスターと対峙することになっていたかもしれない。
先達が指導してくれることが、どれだけありがたいことかと身に染みていく。
「さて、それじゃあどう対処していこうか?」
恭介が問い掛けた相手は、彩音だった。
パーティを組む場合、当然だがリーダーを決めて行動することがほとんどだ。
これは決定的な選択をしなければならなくなった時、リーダーの意見に逆らわず瞬時に行動することで生存率を上げようという、いわばこれも先達からの教えである。
そして、リーダーは基本的にランクの高い者、全員が同ランクであれば歴の長い者が自動的に選ばれることが多い。
今回でいえばランクの高い者が優先され、事前に決めていなかったこともあり、恭介は彩音に問い掛けたのだ。
「地面のモンスターには私が対処するわ」
そんな彩音が出した答えに、竜胆は内心で驚いていた。
(彩音は俺の監視、もしくは力の確認をするために派遣されたんじゃないのか? 自分だけこの場に残ったら、その確認ができなくなるんじゃないのか?)
彩音を疑っている竜胆からすれば当然の思考と言えるだろう。
だが、彩音は単純にこの場を上手く切り抜けること、そのうえで初めての扉攻略に挑んでいる竜胆に多くの経験を積ませたい、それだけを考えての選択だった。
「万が一を考えて、矢田先輩は竜胆さんについていてください」
「分かった。彩音さんは一人でも……って、Aランクに言う言葉じゃなかったね」
「もっと心配してくれてもいいんですよ?」
最後は冗談っぽくそう口にした彩音が剣を抜いたことで、恭介は笑顔のまま奥の方へ歩き出す。
「い、いいのか、恭介?」
「彩音さんが心配かい、竜胆君?」
「いや、そういうわけじゃないんだが……」
そこまで口にした竜胆は一度だけ振り返り彩音を見る。
その彩音は笑顔で手を振ってくれたので、竜胆も笑顔を返して恭介に続いた。
「……竜胆君は、彩音さんを疑っているんだろう?」
彩音から離れたところで、恭介が声を掛けてきた。
「あ、あぁ。協会からの依頼で一緒にいるだけだし、俺の力に探りを入れようとしているんだと思っている」
「その可能性は捨てきれないけど……まあ、彩音さんは違うと思うよ」
竜胆の疑惑を受けて、恭介は苦笑しながらそう返した。
「どうしてだ?」
「良くも悪くも、彩音さんは素直な性格だからね。本音がすぐに口を突いて出てしまうんだよ」
「それはまあ……なんとなく分かるな」
短い付き合いだが、その中でもそのような場面を多々見てきた竜胆としては、頷かざるを得なかった。
「もしも堂村支部長が探りを入れるなら、別のプレイヤーが派遣されるはずさ」
「だからと言ってすぐには信用できないけどな」
「それはそうだろうね。だからさ、竜胆君」
そこまで口にした恭介は立ち止まり、竜胆へ振り返る。
「君の信用を得るために、本当に少しだけでいいから、彩音さんを信じてくれないかな?」
「……恭介は、どうして彩音の肩を持つんだ?」
二人が顔を合わせているところを見た竜胆は、親しい関係なのかと思ったほど気さくに会話を交わしていた。
彩音は協会でいろいろと教えてもらったと口にしていたが、それだけではない気がしてならない。
「……彼女はね、亡くなった友人の妹さんなんだ」
「……えっ?」
「だからかな、僕も彩音さんのことを妹のように思っているし、気にかけてきたんだ」
小さく息を吐きながら恭介が前を向いて歩き出したため、竜胆も慌ててついて行く。
「彩音さんを見てきて、彼女は悪意に染まるような人間じゃないことを僕は知っている。だから、もう少しだけ彼女のことを信用してほしい。そこから徐々にでいい、信用できる気持ちを大きくしていって欲しいんだ」
恭介の言葉を受けて、竜胆は僅かな思考の後、口を開いた。
「……俺はまだ、彩音を信じることはできない」
「……そうか」
「だけど、恭介の言葉は信じてやる」
「……えっ?」
自分を信じると言われた恭介は驚いて振り返る。
だが、そんな彼の横を早足で竜胆が追い越し、恭介は竜胆の表情を見ることができなかった。
もしかしたら恥ずかしそうにしていたかもしれない、そんな表情を見せたくなかったから早足だったのかもしれない。
そんな考えが恭介の頭に浮かんできたが、すぐにその考えは霧散する。
「だからまずは――扉を攻略するぞ!」
何故なら竜胆が剣を抜き、その眼前には二足歩行のトカゲに似たボスモンスター、リザードパラディンが待ち構えていたからだ。
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