第63話:恭介の復帰戦

 今回、竜胆たちが攻略を行う星3の扉は、全面荒野の世界になっている。

 じりじりと太陽に照らされて体力を奪っていく場所であり、そんな中でモンスターと戦わなければならない。

 ボスモンスターはムカデやトカゲに似たモンスターであることが多く、稀に巨大なモンスターが出てくることもあるが、そうなれば運が良いのか悪いのか、プレイヤーによって変わってくる。

 実力があるDランクであれば倒すこともできるだろうが、ギリギリDランクの実力であれば返り討ちにあることもある。

 とはいえ、竜胆はCランクで恭介は元Cランクの熟練プレイヤー、彩音に至ってはAランクだ。

 どのようなモンスターがボスで現れたとしても、十分に対処可能な人選となっていた。


「……あ、暑いなぁ」


 竜胆たちはすでに扉の中へ入っている。

 全身から汗が噴き出し、拭っても拭っても切りがない。

 竜胆にとって脅威になるのはモンスターではなく、荒野を照らす太陽なのかもしれない。


「太陽もそうだけど、モンスターが早速現れたみたいだよ」

「……だな」


 恭介の指摘にため息をつきながら竜胆が答えると、腰に提げた疾風剣に手を伸ばす。


「あっ、待ってくれ、竜胆君」

「ん? どうした?」


 戦う気満々だった竜胆だが、それを恭介が制した。


「今日は僕の復帰戦になるからね、よければ初戦は譲ってくれないかな?」


 そう口にしながら恭介は屈伸を始める。

 モンスターとの距離はまだ一〇〇メートルほどあり、準備するには十分な時間があった。


「それは構わないが、いいのか?」

「僕からお願いしていることだからね」

「分かった、それじゃあ頼む」


 竜胆としても恭介の提案はありがたいものだった。

 というのも、自分の状態が整っていない状況で、スキル【ガチャ】が発動するところを彩音に見られるのはよくないと思っていたからだ。


(イレギュラーがあった時に、対処できるかどうか分からないからな)


 まずは荒野の環境に慣れること、それが初めての扉攻略に挑んでいる竜胆の試練だった。


「彩音さんもいいかな?」

「もちろんです! 久しぶりに矢田先輩が戦うところを見れるんですから!」


 この場にはもう一人、彩音がいる。

 恭介は彩音にも確認を取ると、彼女は興奮したように同意を示した。


「彩音は恭介がプレイヤーとして活躍していた時を知っているのか?」


 そんな彩音の態度を見て、竜胆は疑問を口にした。


「矢田先輩が現役だった頃、私はまだ新人プレイヤーでしたから。最前線で戦うプレイヤーでしたし、協会ではいろいろと教えてもらいました!」

「はは、今では彩音さんの方がランクは上だけどね」


 そう口にしながら恭介は剣を取り、向かってくる大量のワーム型モンスターに切っ先を向けた。


「……矢田恭介、参る!」


 ワーム型モンスター、デザートワームは個体サイズに大小さまざまある。今回のモンスターは小型の部類に入るだろう。

 だが、数が数だ。数十のデザートワームが一直線に恭介へ迫っている。


「はあっ!」


 そこへ突っ込んでいった恭介は、鋭い剣筋で先頭を突き進んでいたデザートワームを一刀両断すると、流れるような剣術で、止まることなく倒し続けていく。


「……なあ、彩音。恭介のスキルは剣術系なのか?」


 その動きを見た竜胆は、スキルの力もなくあれだけの動きができるものかと疑問の声を漏らした。


「うーん、私から伝えていいのか分からないので答えにくいですけど、違うとだけ言っておきます」

「マジかよ、それであれだけの動きをしているのか」


 恭介が剣を振る動きには迷いがなく、剣術系スキルを獲得した竜胆がようやくたどり着いた到達点でもある。

 それをスキルもなしにやってのけている恭介に、ただ感嘆の声が漏れた。


「元々、矢田先輩は剣術を嗜んでいたようで、だから剣を振るのに慣れるのも早かったんだと思いますよ」

「なるほど、現実の技術を活用しているってわけか」


 そこまで考えた竜胆は、自分には何かあるだろうかと考える……しかし、プレイヤーとして活用できるような特別な技術など持ち合わせていないという結論に至り、考えるのを止めた。

 その代わり、現実の技術を使いモンスターを斬り捨てていく恭介の動きを、可能な限り目に焼き付けようと戦いに集中していく。


(恭介の動きを中級剣術に取り込むことができれば、さらに動きが良くなるんじゃないか?)


 今の竜胆の動きは全てスキル任せと言っていいだろう。何せ剣術など学んだことがないからだ。

 スキル【下級剣術】を獲得した時ですら驚きの動きを見せたのだから、上位互換の【中級剣術】に進化し、さらに現実の技術を学ぶことができたなら、さらなる高みへ上ることができるのではないかと考える。


「残り一匹ですね」

「あぁ」


 数十いたはずのデザートワームは、いつの間にかその数を激減させており、最後の一匹も一撃で仕留めてしまった恭介は、無傷のまま笑顔でこちらへ振り返った。


「終わったよ、二人とも」

「お見事でした、矢田先輩!」

「本当にすごかったよ」


 こうして恭介の復帰戦は終わり、竜胆たちはさらに奥へと進み始めた。

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