第二章
第62話:警戒
Cランクプレイヤーとして再始動することになった
「久しぶりの星3攻略だわー」
そう口にしたのは、Aランクプレイヤーである彩音だ。
最近の彼女は大規模攻略の指揮を執ることが多く、おのずと星の高い扉の攻略に赴くことが多くなっている。
星3はDランクプレイヤーが適正の扉であり、彩音からすれば四年ぶりに攻略して以来だった。
「竜胆君のランクからすると一つ下の適正になるけど、攻略を目指して扉に入るのは初めてになるから、ここからスタートしてみようか」
扉攻略の説明をしてくれたのは、元Cランクプレイヤーの恭介である。
彼は一度プレイヤーとして引退した身だが、竜胆から上級ポーションを譲り受けて古傷を治したことで、プレイヤーとして復帰したのだ。
「俺は問題ないけど、恭介の方はいいのか? 復帰組とはいえ元Cランクプレイヤーが、Dランク適正の扉攻略だなんて」
自分が弱いことは十分に理解させられた竜胆は、むしろ恭介の方を心配していた。
「僕も古傷を癒しての復帰戦みたいなものだからね。これくらいがちょうどいいのさ」
恭介がそう口にすると、竜胆はそれもそうかと納得する。
だが、竜胆にはもう一つの懸念が存在していた。
(……風桐彩音、彼女の行動にだけは注意しておかないとな)
プレイヤー協会からの依頼で竜胆を護衛するという名目を受け、行動を共にしているAランクプレイヤー。
彼女の同行が決まったのは、プレイヤー協会の東部地区支部長である
つまり、拳児は竜胆が何かしらの秘密があるのではないかと勘繰っている、と竜胆は考えていた。
(スキル【ガチャ】に関してはあまり見せたくないが、モンスターとの戦闘は避けられない。さて、どうしたもんかなぁ)
恭介にはすでにスキル【ガチャ】について、そして竜胆が持つ多くのスキルについても説明している。それは彼のことを竜胆が信じるに値すると判断したからだ。
だが、彩音は違う。
プレイヤー登録の時に一度顔を合わせただけの相手であり、拳児とも気安く会話をしていたところを見るに、協会と深いかかわりを持つプレイヤーである可能性も否定できない。
(協会が俺を利用しようとしているのか、それとも純粋に戦力として見て育てようとしているのか……まあ、俺も目的のためにプレイヤーになったわけだし、妥協点を見つけないとだな)
彩音を信じる基準を明確にしなければならないが、それが厳しすぎてもダメだと竜胆は考える。
もしも彩音が協会側の人間であり、ここで無駄に反発してしまって協会から締め出されでもすれば、プレイヤーとして活動することが難しくなってしまうからだ。
お互いに得をする妥協点を見つけ出し、それを持って彩音と交渉する必要があるという結論に至った竜胆は、次にどこまでスキル【ガチャ】の能力を説明するべきかへ思考を移していく。
(モンスターを倒すと必ずガチャが発動する。だからドロップ品を隠すことはできないだろう。だから、そこは妥協する)
竜胆が大量のドロップ品を協会へ持ち込んだことは、協会側の人間であれば周知されているだろう。
ならば、そこを重点的に押し出していき、多くのスキルを持っていることは秘密にするべきだと考える。
(二つ以上のスキルを持っているだけでも目立つのに、四つも持っているなんて知られたら大事になるはずだ。なら、ここは黙っているのが賢明だろう。幸い、今持っている俺のスキルに魔法系はなくなったし、隠すことは可能なはずだ)
今の竜胆が持つスキルは四つある。
スキル【ガチャ】、【中級剣術】、【共鳴】、そして【鉄壁反射】だ。
見た目にスキルを発動していると分かるのはスキル【鉄壁反射】で反射を使う時くらいだが、そこまでの危機に瀕することはほとんどないだろう。
隠し通すには十分すぎるくらいのスキル構成だった。
「どうかしましたか、竜胆さん?」
あまりに長い間考え続けていたのか、彩音の方から竜胆に声を掛けてきた。
「ん? いいや、なんでもない」
今まで考えていたことを彩音に悟られるわけにはいかないと、竜胆は肩を竦めながらそう答えるにとどめた。
「そうですか? ……まあ、いいですけどね!」
そう口にした彩音は満面の笑みを浮かべる。
その笑みの裏に何があるのか、竜胆には分からない。
(星3の扉だからといって油断はできないが……はぁ、警戒すべき対象が増えるのは面倒だな)
それからは何気ない会話で場を繋ぎながら移動を続け、ついに竜胆たちは星3の扉に到着した。
※※※※
本話より、恭介の一人称を『私』から『僕』に変更します。
急な変更で申し訳ありませんが、話者が恭介なのか、彩音なのか、分かりやすくする処置になります。
以前の話に関しては、少しずつ修正できればと考えておりますので、ご容赦いただけますと幸いです。
今後とも『スキル【ガチャ】』をよろしくお願いいたします。
※※※※
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます