第61話:再始動

 再審査のあと、竜胆たちは支部長室で新しいプレイヤー証が更新されるのを待っている。

 支部長からの指示なので何よりも優先されて行われるらしく、そこまで時間は掛からないと拳児は口にしていた。


「待たせたね、天地プレイヤー」


 一〇分も掛からず拳児が支部長室に戻ってくると、その手には更新された竜胆のプレイヤー証が握られていた。


「こちらがCランクに更新されたプレイヤー証だ」

「ありがとうございます、支部長」

「俺は天地プレイヤーの実力に見合ったランクに上げただけだ。……まあ、Bランクでも申し分ないと思っているがな」


 最後の方はニヤリと笑いながらだったが、竜胆は苦笑いを浮かべるに留めた。


「竜胆さんは今日これからどうするんですか?」


 彩音の質問に竜胆は思案する。

 病み上がりだが拳児との一戦で体が動くことは確認済みだ。むしろ、病み上がりでよく動けたなと驚いたほどでもある。

 ならば、一刻も早くエリクサーを手に入れられるだけの実力を付けるだけだと思い至り、口を開いた。


「どこかの扉攻略に向かいたいと思います」

「目を覚ましてまだ数日だよ? もう少しゆっくりしたら?」

「今回に関しては私も同意見だな。竜胆君は無茶をし過ぎだ」


 彩音や恭介からも止められてしまったが、竜胆の意志は固かった。


「いや、いくよ。俺は早く強くならないといけないからな」

「鏡花ちゃんのためよね? だけど、竜胆さんに何かあったら、また悲しませることになるのよ?」

「それは分かっている。だが、その間は俺じゃなく鏡花が苦しむことになるんだ。それだけは、絶対に許容できない!」


 グッと拳を握りながら竜胆が告げると、今度は恭介が口を開いた。


「……分かった。すみません、支部長。私の雇用期間を本日限りとさせていただけないでしょうか?」

「ちょっと、恭介!?」

「どういうことかな、矢田プレイヤー?」


 恭介の発言に竜胆が驚きの声をあげ、拳児は怪訝な顔をする。


「私は本日付で本格的にプレイヤーへ復帰し、竜胆君をサポートしたいと考えています」

「お前、何を考えているんだ!」

「パーティを組んでいる時に言っただろう? 竜胆君がエリクサーを手に入れられるようサポートするってね」

「だからってお前なぁ……」


 呆れたように顔を覆った竜胆だったが、恭介の意志も相当に固く、お互いに睨み合いながら視線を逸らすことはなかった。


「……分かった、矢田プレイヤー」

「支部長まで!」

「ただし! 天地プレイヤーは非常に稀有な力を持つプレイヤーであり、協会としては失ってはならない人間だと判断している。故に……」


 拳児はそこまで口にすると、横目で彩音に視線を向けた。


「……ま、まさか、支部長? 彩音まで巻き込むつもりじゃあ――」

「あっ、一緒に行動するって話ならもう支部長から依頼されているし、私も受けてるから安心してね!」


 竜胆の言葉を遮るように、彩音がウインク交じりでそう答えた。


「…………あ、安心できるわけ、ないだろうがああああっ!!」


 ソロで目立たず活動するつもりだった竜胆の叫びが、完全防音の支部長室に響き渡ったのだった。


 支部長室をあとにした竜胆は、協会ビルの一階にある椅子にもたれかかっていた。


「……な、なんだろう。支部長との一戦よりも、疲れた気がする」


 精神的疲労が相当なものだったのか、そのままの体勢でしばらく動けなくなっていた。


「大丈夫かい、竜胆君?」

「あー……あぁ、大丈夫だ。というか、お前の方こそ大丈夫か、恭介?」


 自分のことを心配してくれている恭介だが、当の本人は仕事を止めてプレイヤーに復帰すると宣言している。

 事実、すでに支部長指示で恭介の雇用が解除されており、プレイヤーに復帰するか、まったく別の仕事を探すかの二択しかない状況になっていた。


「大丈夫だよ。まあ、竜胆君の上級ポーションがないと役に立たないかもだけど」


 恭介の発言を受けて、彼が古傷が痛む中でエルディアスコングとの一戦、あれだけの活躍を見せたのかと考えると、全快した時の活躍を早く見たいと思えてならない。


「このあと一度家に戻ってから譲るから、もう少しだけ待っていてくれ」

「でも、本当にいいのかい? 私としては助かるけど、本当に貴重なアイテムなんだよ?」

「もちろんだ。それに、二人で攻略を進めていれば、いずれまたドロップするだろうしな」

「あら? 三人なんですけど?」


 竜胆が二人と口にしたのが聞こえていたのか、情報収集を終えて戻ってきていた彩音が頬を少しだけ膨らませている姿が視界に飛び込んできた。


「彩音も本当にいいのか? Aランクプレイヤーとしての仕事もあるだろうに」

「支部長からの依頼だし、無視できないわよねー」

「ったく、あの人は。気を利かせてくれたんだろうけど、俺にとっては迷惑――」

「あー! 迷惑って言ったよね、今ー!」


 思わず口を出た発言に彩音が食いついた。


「……言ってない」

「絶対言ったわよ! ねえ、矢田先輩!」

「あはは……と、とりあえず、外に行こうか!」

「そうだな! うん、恭介の言う通りだ! いくぞ、彩音!」


 他のプレイヤーからの視線が集まり始めており、恭介の提案に竜胆は即座に乗っかった。

 彩音はといえば『いくぞ』と言われたことが嬉しかったのか、先ほどまでの怒りはどこへやら、満面の笑みを浮かべて歩き出している。


(……Aランクプレイヤー、風桐彩音か。信じるに値するプレイヤーなのか、見極めないとな)


 こうして竜胆はCランクプレイヤーとして、再始動したのだった。

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