第59話:再審査
「お詫びになるか分からないが、天地プレイヤーのランクを再審査したいと思っているのだが、どうだろうか?」
「再審査ですか? それはまたどうして?」
Eランクとはいえプレイヤーはプレイヤーである。
竜胆としては特に困ったことはなく、このまま地道に活動してランクを上げられればいいと思っていたのだが、そう思っていたのは竜胆だけだった。
「竜胆君の実力でEランクと言い続けるのは無理があるからね」
「当時の状況は恭介さんに聞いたけど……竜胆さん、たぶんだけど本当は下級剣術じゃないでしょう?」
彩音の言葉を受けて、竜胆はどう説明するべきか迷ってしまう。
先ほどの言い回しを聞くに、恭介はスキル【ガチャ】については上手く隠しながら状況説明をしてくれていたようで、感謝の思いが絶えない。
「中級剣術……もしかすると、上級剣術って可能性もあるんじゃないかしら!」
「だが、それだと下に詐称する理由が分からないな。上に詐称した場合は他のプレイヤーの迷惑になることもあるが……実際のところはどうなんだ、天地プレイヤー?」
拳児の言う通り、上のスキルに詐称してパーティに誘われたプレイヤーが、他のプレイヤーたちに迷惑を掛けた、なんて話を聞いたことがないわけではない。
しかし、竜胆が詐称したということであれば、それは下に詐称したということであり、自分にとってのプラスがほとんどないと言っていい行為だ。
竜胆がどのような答えを口にするのか、彩音と拳児の視線が集まっていた。
「……目立ちたくなかった、ただそれだけです」
「……えっ?」
「本当にそれだけなのか?」
「はい、それだけです」
半分は事実だ。
竜胆の目的は生活費を稼ぐことも一つとしてあるが、最大の目的はエリクサーを手に入れること。
高ランクになって上位のパーティに誘われればエリクサーに近づくことも可能だろうが、そう何本もドロップするものではない。
多くの場合でパーティ所有となり、個人で使用することは難しいと竜胆は考えている。
ならば変に目立ってパーティへ勧誘されたり、断わって変ないざこざに巻き込まれないためにも、目立つことはしたくなかった。
「……まあ、今回のことで目立ってしまったので、その願いは叶わなくなりましたけどね」
最後の方は肩を竦め、冗談っぽく見せることで話を終わらせることにした。
「ふむ、そういうことであれば納得しよう」
「納得するんですか、支部長?」
「それぞれの考え方があるだろうからな。しかし、矢田プレイヤーから聞いたが天地プレイヤーはエリクサーを求めているのだろう? 目立ちたくないという願いが叶わなくなったのなら、むしろ高ランクを目指して再審査を受けた方がいいのではないかな?」
エリクサーを求めていることについては説明したのかと恭介を横目に見た竜胆は、彼がすまないとジェスチャーで示しているのを見て苦笑を浮かべた。
「……分かりました。でも、可能な限り秘匿する方向でお願いします」
「やはりここでもなるべくは目立ちたくないのか?」
「はい。エリクサーは貴重なアイテムですし、パーティを組んでもし獲得できたとしても、その使用で争いたくありませんから」
竜胆の気持ちが変わらないことを察した拳児は、仕方がないといった感じで頷くと、椅子から立ち上がり部屋の中にあったもう一つの扉を指差した。
「分かった。なら、あっちへ行こう」
「えっ!? ……支部長、まさか?」
「あぁ、そのまさかだ」
嫌そうな表情を浮かべる彩音とは対照的に、拳児はニヤリと笑いながら歩き出す。
それを見た彩音がまず立ち上がり、隣の部屋がなんなのか分からない竜胆と恭介はお互いに顔を見合わせながら立ち上がり後を追いかける。
「さあ、中に入ってくれ」
拳児が扉を開きながらそう口にしたので、竜胆は緊張しながら足を踏み入れた。
「……マジかよ」
「……えっ? ここってまさか、修練場?」
支部長室の隣の部屋は、まさかの修練場になっていた。
「ここで俺と直接戦ってもらう」
「……えっ? ええええぇぇええぇぇっ!?」
そして、拳を打ち鳴らしながら豪快に笑った拳児の発言に、竜胆は驚きの声をあげた。
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