第55話:目覚め
(……俺は、どうしたんだ?)
あまりにも唐突に意識を失ってしまった竜胆は、自分がどうなってしまったのか、意識を失った事実にすら気づいていなかった。
今も何が起きたのか、自分がどうなっているのか理解できておらず、体を動かそうとしても指先一つ動かないことに困惑していた。
(いったい何があったんだ? 思い出せ……俺は、何をしていた?)
竜胆は夢か現実かはっきりしない意識の中、何が起きたのか思い出そうとする。
(エルディアスコングが現れて、恭介のおかげで倒すことができて、スキルを獲得して、それで……)
そこまで思い出せた竜胆だったが、そのあとの記憶が一気に思い出されていく。
(……岳斗……そうだ、岳斗! 俺は岳斗と戦って、スキルを使って倒して……倒した、だけじゃない。俺は岳斗を、殺して、そして……!!)
岳斗のスキル【重戦車】の獲得ウインドウが鮮明に思い出された竜胆の呼吸が荒くなっていく。
(はあ、はあ、はあ、はあ! ダメだろ、これはダメだ! 俺は人でありたい、殺人鬼になんか、なりたくないんだ!)
実際には岳斗のスキルを獲得していない竜胆だが、そこまで記憶を遡ることができていない。そこへいきつく前に、脳がパニックを起こしてしまったのだ。
(嫌だ! こんなもの、俺の理想としたプレイヤーじゃない! プレイヤー狩りなんて、俺はしたくないんだ!)
自分を助けてくれたプレイヤー。だが、そんな彼は死んでしまった。
だからといって自分も誰かのために死ぬつもりはないし、人殺しになっていいわけもない。
(く、苦しい! ダメだ、誰か……た、助けて、くれ……)
再び意識が消失しそうになると思った――その時だった。
『…………ちゃ……』
自分ではない、別の誰かの声が頭の中に響いたように感じた。
(……誰だ? ……誰でもいい、助けてくれ!)
『お……ちゃ……』
(頼む! 俺を……俺を壊させないでくれ!)
『……を……て…………い……ん!』
何を言っているのか分からない。
自分という存在が壊れてしまうかもしれない。
もしかすると、頭の中に響いている声は、悪魔への変貌を誘う甘い囁きなのではないか。
そう思えてきた竜胆の思考は、恐怖で埋め尽くされていく。
(……怖い、嫌だ、悪魔になるのは、絶対に――)
「目を覚まして! お兄ちゃん!」
ずっと真っ暗だった視界に、光が戻った。
「……はぁ……はぁ…………あ……きょう、か?」
「お、お兄ちゃん! うああああぁぁっ!」
大量の汗を全身にかき、身に着けていた衣服はびしょびしょになっている。
それでも鏡花は目を覚ました竜胆を抱きしめ、大粒の涙を流した。
「……俺は、いったい?」
「そうだ! 先生、先生を呼んでくるね!」
「聞こえていたわよ、鏡花ちゃん」
体を離した鏡花が急いで病室を飛び出そうとしたところ、扉が開いて外から鏡花の担当医である環奈が姿を現した。
「……先生、俺はいったい、どうして病院に?」
「竜胆さんは意識混濁状態で運び込まれてきたのよ」
「なっ!? ……いや、でも、そうか……俺、岳斗を……」
殺したと口にしようとしたが、鏡花がいることを思い出して口を噤む。
「目を覚ましたんだね、竜胆君」
「恭介!」
そこへずっと一緒に行動していた恭介が姿を現し、竜胆は安堵の声をあげた。
「よかった、生きていたんだな」
「それは私のセリフだよ」
竜胆の言葉に恭介が肩を竦めながら、それでいて同じような安堵の声で話し掛ける。
「恭介、すまなかった。俺が意識を失ったせいで……」
「いいや、実際のところ、私はそれほど大きな傷を負わなかったんだよ」
「……そ、そうなのか? でもまだモンスターは大量にいたんじゃ?」
少しずつ当時の記憶が戻ってきた竜胆は、大量のモンスターが沼地を彷徨っていたのを思い出していた。
「あのあと、多くのプレイヤーが駆けつけてくれてね、なんとかお互いに生き残ることができたんだ」
「プレイヤーたちが? だが、どうして?」
新人プレイヤー用の扉に多くのプレイヤーがやってくることはほとんどない。
やってきたとしても一人、二人だろうし、それらは全員が新人であるはずだ。
それにもかかわらず沼地に現れた大量のモンスターから竜胆を背負った恭介を助け出すことができるものなのかと疑問が浮かんでしまう。
「あー、それなんだけど――」
「私がプレイヤーを率いて駆け付けたのよ」
「えっ?」
そこへ姿を現したのは、Aランクプレイヤーの彩音だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます