第56話:説明と報告

「どうして彩音が? それも、新人プレイヤー用の扉に?」


 当然の疑問を竜胆が口にすると、それに彩音自身が答えてくれた。


「プレイヤー協会でちょっとした問題があってね。その調査をしていたら、新人プレイヤー用の扉に行きついたってわけなの」

「問題って……まさか、岳斗たちか?」

「うーん、半分正解かな」


 岳斗たちの行動はプレイヤー協会としても問題行動と捉えたのかと思った竜胆だったが、半分正解と言われて首を傾げてしまう。


「半分って、どういうことだ?」

「プレイヤー協会が問題視していたのは、尾瀬と一緒に行動していた協会の臨時職員だった、石田というプレイヤーなの」

「石田って、恭介が助けようとしていたあいつか?」


 石田の名前が出たことで竜胆は視線を恭介に向ける。


「その通りだよ。でも、彼を助けることはできなかった」

「あ……それは、俺が意識を失ったからか?」

「そもそも、助けられたら助けたい、それくらいの気持ちだったからね。竜胆君の命と天秤になんて掛けられないよ」


 苦笑しながら恭介がそう口にすると、竜胆は申し訳なさそうにしながらも、それでも自分を選んでくれた彼の気持ちが嬉しくもあった。


「ありがとう、恭介」

「私は当然の選択をしただけさ」


 恭介との会話をそこで一度切り、竜胆は再び彩音に向き直る。


「それで、石田の奴はいったい何をしたんだ?」


 石田がいったい何をしてAランクプレイヤー率いるプレイヤーたちに追いかけられることになったのか、もしかするとエルディアスコングや他のモンスターたちの暴走は彼が引き起こしたのか、そう思うようになっていた。


「石田は協会が研究のために捕獲していたモンスターを許可なく外へ持ち出し、そのまま尾瀬と合流して新人プレイヤー用の扉に入っていったのよ」

「まさか、そのモンスターのせいで、新人プレイヤー用の扉にいたモンスターが暴走したってことか?」

「そうらしい。そのせいで本来ボスモンスターだったエルディアスコングが縄張りから出てしまい、私たちを襲ってきたってわけさ」


 あまりにも傍迷惑な話に竜胆は呆れ顔になってしまったが、ふと疑問が頭をよぎる。


「……でもさ、恭介。石田の奴、そんなモンスターを引き連れていたか?」


 竜胆も石田を目撃しており、彼が作り出したウッドゴーレムとも一戦交えている。

 エルディアスコングが恐れをなすほどのモンスターが近くにいたのなら気づかないはずはなく、そもそもエルディアスコングがこちらに来ることもなかったはずだ。


「……まさか、まだ仲間が隠れていたのか?」

「ご明察」


 竜胆の推測に答え合わせしてくれたのは、彩音だった。


「私たちが発見した遺体は計四体。加えてもう一人、沼地のさらに奥へ足を踏み入れただろうプレイヤーがいるはずなの」

「そいつが研究用のモンスターを連れて行ったんじゃないかって話になっているんだ」

「ちなみに、モンスターは檻に入れられていたはずなんだけど、その檻は粉々に壊されていたわ。プレイヤーが壊したのか、モンスターが壊したのか、それは分からなかったけどね」


 もしもプレイヤーが壊したのであれば自業自得だが、モンスターが壊したのであればゾッとしてしまう。

 何故ならそのモンスターは元々プレイヤー協会が管理しており、その場で檻を破壊して暴れていた可能性もあるからだ。


「……怖い話だな」

「どちらにしても、今日までの調査で分かったことは、新人プレイヤー用の扉はすでに、超ド級に危険な扉に早変わりしたってことよ」

「…………ん? 今日までの調査で?」


 彩音の言い回しが引っ掛かった竜胆は、ずっと隣で腕を握っている鏡花に声を掛けた。


「なあ、鏡花。俺って、どれだけ意識を失っていたんだ?」

「今日で一週間、だったかな?」

「…………はあっ!! い、一週間だって!?」


 一週間も意識を失っていた自覚がなく、竜胆はまさかの事実に驚きの声をあげた。


「そうだよ! だからとっても心配してたんだからね!」

「それは私も同じだよ、竜胆君。外傷はほとんどないのに意識を失ったままだったんだからね」

「いや、それは……す、すまん」


 鏡花と恭介から心配だったと聞かされた竜胆は、申し訳なさから謝罪を口にした。


「それにしても、一週間も調査が続いていたんだな。新人プレイヤー用の扉にはもう、入れそうもないか」

「そうだね。そのモンスターが扉の中で解放されたせいで、ボスモンスターが変更になっちゃってね、さらに生態系にも変化が起きたみたいなんだ」

「さっきも言ったけど、今の新人プレイヤー用の扉は、超ド級に危険な扉なの。これはまだ非公式だけど、協会は危険度をSランクに決定したわ」

「え、Sランクだって!?」


 最低ランクのEランクだった扉が、たった一週間でSランクに格上げされたなど、前代未聞だろう。


「近々発表があると思うから、それまでは口外しないようにね」

「……わ、分かった」


 あまりにも予想外の事態が起き過ぎて、竜胆は目覚めて早々に疲労困憊になってしまった。


「お兄ちゃん、大丈夫?」

「あー……ちょっとだけ疲れたかな」

「そろそろ休ませてもいいかしら? これは医師としての確認よ」


 環奈がそう口にすると、恭介と彩音はすぐに立ち上がった。


「それじゃあ、私はそろそろお暇するよ」

「私も失礼するわね」

「いろいろと教えてくれてありがとう。それに、助けてくれたこともな」


 最後に竜胆がそう口にすると、二人は笑みを返して病室をあとにした。


「意識が戻ったとはいっても、まだまだ安静が必要なんだからね?」

「分かりました、先生」

「今日はお兄ちゃんと一緒だね!」

「はは、そうだな」


 そして竜胆は鏡花が見守る中、睡魔に抗うことができずそのまま眠りについたのだった。

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