第53話:スキル【鉄壁反射】

「……岳斗」

「てめぇだけは絶対にぶっ殺してやるからなあ!」


 大剣を肩に担ぎながら近づいてくる岳斗を見て、恭介が前に出ようとした。

 だが、それを竜胆が制すと、そのまま前に出る。


「竜胆君、大丈夫なのかい?」

「あいつの狙いは俺だ。それに、俺もあいつとは因縁があるからな」

「因縁だぁ? てめぇは俺様に殺されておけばいいんだよ!」


 有無を言わせない速度で突っ込んできた岳斗。話し合うつもりは毛頭ないようだ。

 小さく息を吐き出した竜胆は疾風剣を構えると、振り下ろされた大剣を真正面から受け止めた。


 ――ドゴンッ!


 竜胆の足元にある地面が大きくへこむも、彼はニヤリと笑い苦も無く耐えている。


「なんだ、この程度か?」

「て、てめえっ!」


 恭介の挑発にまんまと乗ってくれた岳斗が強く歯噛みしながら大剣を振り回し始める。

 怒りに任せた攻撃は大雑把で、竜胆が見切るにはまったく問題なかった。

 全ての攻撃をあえて受け、ダメージ量を蓄積させていく。

 どれだけのダメージを蓄積させれば岳斗のスキル【重戦車】を打ち破ることができるのか分からないが、竜胆は貯められるだけ貯めるつもりで戦い続けていた。


「クソがっ! なんで死なねえ! なんで倒れねえ! ふざけんじゃねえぞ!!」

「ふざけているのはどっちだ! プレイヤー同士のいさかいがどれだけ重罪なのか、お前も分かっているだろうが!」

「んなもん知るか! 俺は俺のために戦ってんだ! ザコの方こそ俺様のために死ぬべきだろうが! てめえのようにな!」


 自分本位の性格が今の状況でさらに酷くなり、完全に視野が狭くなっている。

 岳斗の視界には恭介は映っていない。殺すと決めた竜胆だけが映っている。


「このっ! いい加減にしやがれっ!!」


 今もなお竜胆のことをザコだと思っている岳斗は、一気に終わらせるつもりでスキル【重戦車】の奥の手を繰り出した。


「あの世で後悔しな! 地獄へのいざない!!」


 岳斗の体から漆黒の魔力が放出される。

 さすがにマズいと感じたのか、竜胆は一度後方へ飛び退き距離を取った。


「……なんだ、あれは?」


 漆黒の魔力は岳斗が持つ大剣に集約されていく。


「マズいぞ、竜胆君!」


 岳斗の大剣を目の当たりにした恭介が大声をあげた。


「あれは闇の魔力を凝縮させた一撃だ! 受け止めるだけでも体力を奪われ、そのまま押し切られてしまうんだ!」

「デバフ付きの一撃ってことか」


 恭介の助言を受けて地獄へのいざないについて理解した竜胆は、それでも構えを解くことをせず岳斗の正面に立った。


「てめぇ、バカだろ! これを見て構えるとか、マジでバカだな!」

「そんなことはどうでもいい。俺はお前を倒すためにここに立っているんだからな」

「俺様を倒すだと? 笑えねえ冗談だな!」

「冗談だと思うか?」


 岳斗がどれだけ嘲笑しようとも、竜胆は真剣な面持ちで彼を睨みつけ、疾風剣を構えている。

 それだけで竜胆が本気なのだと岳斗も気づき、それが彼の苛立ちを募らせた。


「……ふざけやがって! それならお望み通りにぶっ殺してやる!」


 大剣を両手持ちに変え、そのまま上段構えを取る。体ががら空きでもそうしたのは、竜胆では自分にダメージを与えることができないと知っているからだ。

 しかし、今の竜胆ならそうではない。スキル【鉄壁反射】で蓄積したダメージをそのまま叩き込むことができる。

 それでも竜胆は、そうしなかった。


「こい、岳斗!」

「死ね! 竜胆おおおおおおおおっ!!」


 闇の大剣と化した岳斗の一撃が、竜胆の脳天めがけて振り下ろされる。

 竜胆はタイミングを計り疾風剣を振り上げて鍔迫り合いを――狙わなかった。


「スキル【鉄壁反射】!」


 お互いの武器が激突した刹那、竜胆はスキル【鉄壁反射】を発動させた。

 武器が激突することで最後の一撃によるダメージをも蓄積させた竜胆の反射による攻撃が、岳斗を真正面から捉えた。


「な、なんだこれは!?」


 押し返されたことがなかったのだろう、自らの大剣が自分に迫ってくることに困惑顔を浮かべ、そのまま恐怖の表情へ変わっていく。


「これで終わりだ、岳斗!」

「ふ、ふざけるな! 俺様は最強だ! 俺様は、俺様は――!?」


 岳斗の叫びが最後まで発せられることはなかった。

 蓄積されたダメージ量があまりにも多かったのだろう、闇の魔力を纏った大剣を粉砕し、そのまま岳斗の上半身をも吹き飛ばしながら、反射による一撃は全てのダメージを放出したのだ。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……これで、終わったな…………うっ!?」


 上半身を失った岳斗の肉体が地面に転がると、竜胆は目の前の光景に吐き気を感じてしまう。

 だが、これは天狗になってしまった自分が招いた結果なのだと受け止め、なんとかせり上がってきたものを飲み込んだ。


「……はぁ、はぁ」

「大丈夫かい、竜胆君?」


 そこへ恭介が優しい声を掛けてくれた。


「……あぁ、大丈夫だ」

「そうは見えないよ?」

「これは俺が招いた結果だからな、受け止めないとな」


 目の前に転がる、上半身を失った岳斗の遺体を見つめながら、竜胆は予想外のウインドウを目の当たりにした。


【初めてのプレイヤー討伐特典ガチャです。プレイヤーのスキルを獲得します】

「……な、なんだと?」


 あまりに予想外であり、残酷な表示を前に、竜胆は恐怖に顔色を染めた。

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