第52話:新たなスキル

【初めてのボスモンスター討伐特典です。倒したボスモンスターのスキルを獲得します】


 表示された特典ガチャ、そしてスキルの獲得が約束されたことに竜胆は拳を握る。

 しかし、安心はできない。

 ソルジャーアントから手に入れたスキル【共鳴】や、クイーンアントのスキル【下級土魔法】のように、使いどころを選んだり、魔力が足りずに使えないスキルであればどうしようもないからだ。

 果たして、エルディアスコングから手に入るスキルはいったい何なのか――


【エルディアスコングのスキル【鉄壁反射】を獲得しました】

「……鉄壁、反射?」


 初めて聞くスキル名に、竜胆は首を傾げてしまう。


「どうしたんだい、竜胆君?」

「エルディアスコングの討伐特典で新しいスキルを獲得したんだが、初めて聞くスキルでな」


 そう口にしながら竜胆はスキルの詳細を確認する。


「…………はは、これはすごいスキルだな」


 スキル【鉄壁反射】は、自らの耐久力を二倍に上げるだけでなく、貯め込んだダメージを相手に反射させて攻撃することもできる、攻防一体のスキルだ。

 それはイコール攻撃を受ける必要があるものの、竜胆にとってはこれ以上使い勝手の良いスキルはなかった。


(しかし、エルディアスコングはどうしてこのスキルを使わなかったんだ? 使われていたら、俺も恭介も一撃で終わりだったんじゃないか?)


 そこまで考えた竜胆は、エルディアスコングからの直撃を受けたのは、毒牙の短剣を突き刺すために攻撃を受けた恭介だけだと思い出す。


(まさか、恭介は受けていたのか? そのうえで命を繋ぎ止めたのか?)


 そう思い横目で恭介を見るも、それを知るすべは竜胆にも彼にもない。


(……いいや、済んだことを考えるのはやめよう。俺も恭介も生き残ったんだからな)


 そこまで考えた竜胆は、スキル【鉄壁反射】の使いどころについて思案することにした。


(基本ソロの俺としては、守りを高められるスキルはありがたい! それに、ピンチをチャンスに変えられるスキルでもあるからな!)


 そう思った直後、新たなウインドウが表示される。


【スキル獲得数が上限を超えております。一つのスキルを削除してください】


 スキル【鉄壁反射】を獲得したことで、スキル【ガチャ】以外のスキルが四つになってしまった。

 三つまでしか獲得できないため、不要なスキルを選ばなければならない。


(現状だと中級剣術、共鳴、下級土魔法、そして鉄壁反射か)


 中級剣術と鉄壁反射を残すことは決まっている。削除するなら共鳴か下級土魔法だ。


(最初は共鳴一択だと思っていたが、今は……)


 そう考えた竜胆は、横目に恭介を見る。

 自分を助けるために命を懸けて戦ってくれた戦友であり、仲間だ。

 ずっとソロで活動すると最初こそ考えていたが、それが通用するほど扉は甘い場所ではない。

 いずれ多くの仲間と共に扉の攻略へ乗り出すことがあるかもしれないと考えると、共鳴は非常に有用なスキルなのではないかと思えてならない。


「……削除するのはスキル【下級土魔法】だな」


 魔法は欲しても簡単に手に入るものではない。見る者からすれば勿体ないと声を大にする者もいるだろう。

 だが、竜胆は自分の選択を間違えているとは思っていなかった。


【スキル【下級土魔法】を削除しました。新たなスキル【鉄壁反射】を獲得しました】


 ウインドウが消えたのを確認した竜胆は、そのまま自身のステータスを確認する。


「……おぉ、本当に鉄壁反射がスキルに反映されてるわ」

「竜胆君、それっていったいどんなスキルなんだい?」

「それは――」


 恭介は竜胆のステータスウインドウを見ることができない。

 当然の質問に竜胆が答えようとしたのだが、それを遮るものが現れた。


「ぎゃああああああああぁぁああぁぁっ!?」


 聞き覚えのない声による悲鳴が南の沼地に響き渡ったのだ。


「な、なんだ、今のは!?」

「沼地のさらに奥からだったような?」


 竜胆の声に恭介が答えると、どうするべきか思案する。

 今までの竜胆であればさらに奥へ向かおうと提案していただろうが、エルディアスコングとの一戦で自身の弱さを痛感した。


「……戻ろう」

「うん、いい選択だ」


 竜胆の選択に恭介も大きく頷く。

 エルディアスコングが縄張りから外に出てきたことで仕方なく戦闘を行ったが、本来なら縄張りの外に出てくるようなモンスターではない。

 南の沼地の奥には間違いなく、エルディアスコング以上に厄介なモンスターが存在しているはずだ。


「今回得られた情報は、必ず協会に持ち帰らなければならないからね」

「そうだな、急ごう」


 中級ポーションで動けるようになった恭介が立ち上がると、それを見て竜胆も立ち上がる。

 今までとは違い来た道を戻るようにして駆け出そうとした――その時だ。


「見つけたぞおおおおっ! 竜胆おおおおおおおおっ!!」


 正面から怒気を含んだ形相を浮かべた岳斗が仁王立ちしていた。

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